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自尊心

 俺達から事情を聴いた後、滝沢達は生徒指導室へと連れていかれた。

 強姦まがいのことをやらかしたのだ、退学になってもおかしくないだろう。

 嫌がらせのレベルを遥かに超えているので同情する気は起きない。

 詩織を一人にしないように放課後は五人で一緒に下校することになった。

 

 「何かあればうちらになんでも相談しなよ」


 「私がもっとしっかりしていれば大橋がひどい目に合わずに済んだのに」


 咲野先輩は力強く、村上は後悔するように弱弱しく言った。

 確かに男子から誘われたときに、違和感を覚えていたなら止めに入ることができたかもしれないが、怪しく思い連絡をくれなければ彼らの横暴を止めることはできなかったので十分すぎるほどの活躍をしている。

 それにしても、嫌がらせをしていた二人に加担していたとは思えないほど友達思いだな。

 もしかしたらその優しさが悪い方向に働いた結果なのかもしれない。

 立場によっては誰かにとっての良い人は他の誰かにとっての悪人になりえるからだ。

 

 「私が付いていったのが悪いから、それに、最終的に助けてくれたじゃない」


 そんな村上を慰めるような言葉をかける。

 詩織は最初から彼女の本質を見抜いていたのかもしれない。

 だからこそ友好的に受け入れることができたのだろう。


 「終わったことを気にしてもしょうがないだろ。もし、後悔しているなら今後似たような状況があれば今日の反省を生かしてすぐに割って入ることだ」


 俺が四六時中一緒にいられるわけではない。

 同じようなことはないと思うが、一度あることは二度あるというし、万が一何かあっても大丈夫なように詩織自身が強くなるか、守ってくれる友達を作るしかないだろう。

 なので友達づくりの手伝いをするために村上の懺悔に付け込んで彼女の側にいるよう言葉をかけた。


 「うん、絶対に大橋は私が守って見せる」


 「そんなに気負われても困るよ……」


 俺の言葉に奮起したのか、両手を握った彼女の目には熱がこもっている。

 そんな村上を見て詩織は苦笑した。


 「それにしても、幼馴染の名前を出されただけで、のこのこと男に付いていくとか心配になるぞ」


 杉山がそう言いながら詩織の頭に手を置こうとするが、「きゃっ」と短く叫びながら俺の腕にしがみ付いてきた。

 避けられると思わなかったのか、唖然と口を開けて固まっている。

 恐らく普段の二人なら普通の行為だったのだろう。


 「あんなことがあったんだ、男嫌いになっても無理はない。そんな、傷ついた顔をするな」


 咲野先輩は眼鏡野郎を慰めるように背中を叩いている。

 詩織の体が震えているのが腕越しに伝わってきたので、心配になって横を見ると綺麗なつむじが見下ろせた。

 つい手が伸びてしまう気持ちもわかるな。

 先ほどの一連の流れから撫でたいという疼きを懸命に抑えた。


 「だが、粟国には平気なようだぞ。それにちょっとくっつきすぎじゃないか?」


 この状況を作ったのは自身の行動だということを忘れているのか声を低くして俺を睨む。

 

 「もしかして、杉山先輩は嫉妬してるんですか?んふふ、可愛い」


 村上はおもちゃを見つけたというようないたずらな笑みを浮かべる。

 図星を突かれたのか、顔を赤くして「嫉妬などしていない」と反論しては余計に笑われていた。


 「安心しろ、うちがそばにいてあげるから」


 「こんな人前でやめろ」


 咲野先輩は胸元に顔を押し当てて上目遣いをしながら人差し指で胸板を撫でまわす。

 恥ずかしいのか委員長は周りを見渡しながら注意をする。

 咲野先輩はなんだか楽しそうだな。

 杉山をいじっている様子は構ってほしくて好きな子にいたずらをする子供のようだ。

 

 「……何羨ましそうに見ているんですか。……私もやってあげましょうか?」


 腕を引っ張られて、ジト目で見られた。

 そして、咲野先輩の真似をするようにたどたどしく俺の胸をちょんとつつく。

 それがこそばゆくて思わず変な声を出してしまった。

 

 「詩織っ……ぷっ、やめ……うっ、てっ……」


 「ふふふ、えいっえいっ」


 笑いをこらえる姿が面白かったのか、徐々に積極的に指を動かす。

 両胸を往復し、鳩尾を回すように這わされた。

 的確に弱いところをくすぐる彼女は小悪魔のようだ。

 気が付くと周囲は静まり返っており、三人が無言で俺達の方を見ていた。


 「わーお、大胆にいちゃいちゃしちゃって」

 

 「まさにバカップルだな」


 「あの詩織がビッチみたいなことを……信じられん」


 村上と咲野先輩は呆れたように、杉山は眼鏡を何度も触り動揺した様子で。

 

 「あっ……えとっ……」


 ようやく我に返ったのか、俺の体で顔を隠すように小さくなる。

 まるで針のむしろ状態だ。

 生暖かい目を向けられたのを咳払いで誤魔化し無言で足を進めた。

 しばらく歩いていると交差点の前まできたので、ここで別れることにしよう。

 大勢いる中で俺が詩織の家まで送り届ける必要もないだろう。

 

 「それじゃ、俺はこっちだから」


 「ああ、またな」

 

 「気をつけろよ」


 「またです先輩」


 三人から挨拶を返されたが腕を掴んでいる詩織は俺の傍を離れようとしない。

 みんなの困惑した視線が彼女に集中した。


 「私は厚金先輩についていきます」


 「なっ……そっちは遠回りだぞ」


 「ほほう、だそうだ厚金、後は任せたぞ」


 「大橋ったら意外と大胆じゃない」


 眼鏡野郎は絶句した表情をし、女子二名は驚いた顔を見せたが微笑みながら理解を示す。

 

 「俺はいいけど、詩織は大丈夫なのか?部屋の中では男と一対一になるけれど……」


 あんな出来事があった後だ、杉山に対しても怯えた姿を見せていたから異性に対して忌避感を持っていると思ったので相手を慮るような声を出した。


 「待て粟国、なんで部屋に上がる前提で話しているんだ」


 「私はそのつもりですよ?厚金先輩と一緒にいると不思議と落ち着つくので、もう少しだけお話したいなって。ダメですか?」


 胸を押さえて躊躇いがちに見上げられては断ることはできないな。

 不安で瞳が潤んでいる。


 「詩織がそういうなら。喜んで案内させてもらうよ」


 勇気を出してくれた彼女に答えるため喜色満面な笑みを浮かべてそう答えた。

 

 「それじゃ、うちらは二人の仲を邪魔しないように三人で帰りますか」


 「いや、それなら俺達も粟国の部屋にお邪魔するべきじゃないか。今の詩織を一人にするわけには」


 「うわー……杉山先輩、さすがに空気読んでください。そんなんじゃ女子にモテませんよ?」


 「さすがにうちもそこまで鈍感とは思わなかった。そろそろ妹離れしないと嫌われるよ?」


 「俺は詩織に配慮してだな……」


 委員長が女子二人から詰められ、慌てふためいている。

 好意を持っている幼馴染が異性に挟まれている姿にどう思っているのか気になって横目で隣を見ると、うふふと小さく笑っていた。

 そこには嫉妬の感情はなく、純粋にやり取りが面白くて自然と破顔させている。


 「おほん、粟国、俺はお前を信頼している。大山寺先輩や村上の顔を見れば滝沢のような女子を性欲の対象としか思っていない男ではないと分かる。だから……幼馴染として言う。詩織をよろしく頼む」


 柄にもなく頭を下げて綺麗なお辞儀をした。

 いつもは上から目線で馬鹿にしたような態度をとるくせに、今は長身を曲げて小さく見えた。

 得体のしれない感情が胸から込みあがってきた。

 これはそう、子供の頃みんなにちやほやされていた時に感じたような。


 「ちょっと、悟……。大げさだよ。心配してくれるのは嬉しいけれど、あまりみくびらないでよね」


 珍しく強い口調だった。

 彼女の気持ちもわかる、眼鏡野郎は幼馴染を思うあまり本当の兄のようにふるまっている。

 それは詩織からしたら嬉しい反面、さげすまれているとも感じるだろう。

 杉山は優秀なため無意識に全て自分が解決しなければならないという気持ちが強い。

 

 「詩織が弱いと思っているのではないが、誰だってあんな事件に巻き込まれたら心配になる」


 眼鏡を上げながら、見下ろす杉山から視線を外してうんざりするように小さくため息をつく。

 まるで、父親に反抗する娘のように冷たい目をしている。

 二人の距離は想像以上に離れているように見えた。


 「ほらそれぐらいでうちらも帰ろう。またね、詩織に厚金」


 咲野先輩は委員長の背中に手をまわし無理やり連れていく。

 詩織が不機嫌になっているのを見抜いたように去り際に金髪をなびかせながらウインクをした。


 「粟国先輩っ」


 村上は両手を後ろに回し俺に近づくと、つま先立ちで顔を寄せてきた。

 赤い唇が正面まで来たとき、いたずらに笑って耳元へと通り過ぎる。


 「んふふ、あまり激しくしちゃだめですよ」


 小声でそう呟くとすぐに距離を離す。

 反論しようと口を開く前に三つ編みを揺らし遠ざかっていった。

 

 「おい、歩きづらいだろ。そんなにくっつくな」


 「顔を赤くして可愛いところもあるじゃないか」


 「良かったですね杉山先輩。両手に花ですよ」


 三人は騒がしく自分たちの道を歩き出した。


 「騒がしい人達ですね」

 

 「確かにな。だが、いなくなるとそれはそれで寂しくなるものだ」


 「ふふふ、そうかもしれませんね」


 静かになった通りで俺と詩織は見つめあいながら笑いあった。

 

 「ところで村上に何を言われたんですか?」


 「……気にするな」


 「そうですか。一瞬キスでもされるのかと思いましたよ」


 秘密にされたのが癪にさわったのかプイっと顔を背けて一人歩きだしたので慌てて後を追いかけた。

 まるで、お姫様と従者のようだ。

 ふと村上が耳元で囁いた言葉を思い出しピンク色の妄想を浮かべたが、顔を両手で叩いて煩悩を追い出す。

 下校中の生徒が疎らにいる中、気ままに吹いた風が二人の背中をそっと押した。

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