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事件

 咲野先輩に屋上で詩織を落とせと言われて以来、俺なりに行動した結果それなりの成果は出ている。

 仲良くなることもできたし、杉山への依存関係も和らいだおかげで先輩のほうも上手くやれているのか昼休憩の時も俺と詩織の二人でいることが多くなった。


 「最近、悟よりも厚金先輩といる時間の方が多い気がします」


 中庭のテーブルで座って弁当をつつきながら言った。

 どことなく寂しそうだ。

 やはり俺といるよりも眼鏡野郎のほうがいいのだろうか。


 「あっ、別に先輩が嫌というわけではありませんよ」


 そんな内心を見透かされたのか、慌ててフォローしてくれた。

 人の機敏に聡い子だなと思っていたら、大きな目で見上げられ「先輩は顔に出やすいですよね」と小さく呟かれた。


 「二人でいる時間が増えたというよりは、杉山といる時間が減ったというほうが適切だろうな」


 俺が詩織の話を最初に聞いたときは手をつないで登校しているだの仲睦まじい噂が聞こえたもんだが、最近ではさっぱり聞かなくなった。


 「悟は大山寺先輩と一緒ですよね。私が悟と会うときは大抵あの人といますから。もしかして、付き合ってたりするのかな」


 詩織も薄々感づいているようだ。

 登下校でも委員長と咲野先輩が並んでいることが最近は多い。

 俺が原因の一端を担っているので少し心苦しいが。

 実際に二人の仲がどれほど進んでいるかは不明だ。


 「そういえば、よく咲野先輩が杉山に会いに教室まで来てるな」


 なにげなく言った後、思わず口が滑ったという風に慌てて口を抑えた。

 先輩が眼鏡野郎に会うために数回教室にきたのは事実ではあるが、この言い方だと頻繁に会っていると誤解する。

 二人の距離が近づいていると感じれば詩織が幼馴染に寄せる思いも徐々に薄れていくだろう。

 気の毒だと思う気持ちもあるが、先輩との約束は果たさないといけないからな。

 

 「やっぱりそうですか」


 ショックを受けるかと思ったが、なぜかその顔は晴れ晴れしていた。

 何か心境の変化でもあったのだろうか。


 「なんですか?私をそんな目で見つめて、顔に何かついてますか?」


 「あ、いや。ちょっと、心配で」


 「もうっ。厚金先輩も何か勘違いしているようですけど、私と悟の間には何もありませんよ。それに……先輩からしたら嬉しいことではないんですか……?」


 はっきりとした口調から一拍置いて、紅潮させた顔を俯かせ囁くように言う。

 それと同時に昼休憩の終わりを告げるチャイムの音が重なったので聞こえなかったふりをした。


 「あっ、もうそんな時間か」


 「……ですね」


 二人はそれぞれの教室へと戻った。


 「これで連絡事項は以上だ」

 

 ホームルームが終わり担任が出ていく前に一早く滝沢が教室から出て行った。

 いつもはだらだらとクラスメイトと駄弁っているのに珍しいな。

 他の生徒も同じことを思ったのか、「トイレを我慢してたんじゃね?」と冗談が飛び交った。

 俺も帰る準備をしながら、スマホを見るとちょうど画面上に村上と表示されて着信が鳴る。

 詩織に何かあれば連絡するとか言っていたな。

 プライベートでやりとりをする仲ではないので内容には察しがついた。


 「あっ、厚金先輩。大山寺先輩には先に伝えたんですが、大橋がクラスの男子二人に杉山先輩から話があるって呼び出されてたけど何か知ってますか?」


「何も聞いてないどころか、教室に本人がいるぞ。それに電話してきたってことはどこか怪しい様子なのか」


 俺は教科書を鞄に入れている委員長を横目で見た。

 そもそも用があるのならわざわざ後輩を使うまでもなく自分で足を運ぶだろう。

 まさかまた彼女達が何か企んでいるのだろうか。


 「うん。ちょっとね、大橋も戸惑っていたから、私も教室を出て彼らを密かに追っている状況です」


 「あの二人は関係しているのか?」


 「その男子の一人は前に話した大橋に好意を寄せていて逸見が狙っていた男なので関係あるといえばあるのですが、あの日以来二人は大人しいので関わっているのかは分かりません」


 「なるほどな。よく連絡してくれた。念のためそのまま尾行を継続してくれ」


 「了解」


 そう言うと通話が切れた。

 案の定不穏な空気が漂っているな。

 青倉逸美と丸谷里香への脅しが効いてないとは思えないが、いざとなれば退学させるしかなくなるだろう。

 しかし、村上はその可能性は低いとみているらしいということが伝わってきた。

 俺は帰り支度をしている眼鏡野郎に近づく。


 「詩織がお前から呼び出されたみたいなんだが、そんなにゆっくりしてていいのか?」


 「は?何を言っているんだ。詩織を呼び出した覚えはないぞ」


 杉山は呆れたように俺を見た。

 嘘をつく理由もないだろう。

 ならば、誰かが詩織を連れ出す目的で名前を使われたか。


 「ん?大山寺先輩からも似たようなメールが来ているな。何かあったのか?」


 委員長はスマホを取り出して、返事を返している。

 俺より前に咲野先輩に伝えたらしいので時間差で杉山に連絡がいったみたいだ。


 「てことは、状況はあまりよくないらしいな」


 「どういうことだ、詳しく話せ」


 異変を感じ取ったのか、目を細めて詰め寄ってくる。

 俺は後輩の村上から連絡がきたことを話した。

 彼女達が関係しているのかは分からないので屋上の件は伏せておいた。

 

 「なるほどな、俺の名前を使えば詩織が誘いに乗ると知っているやつが何か企んでいるということか」


 わざわざ回りくどいことをする必要性を考えればやましいことがあると推測するのは普通だ。

 男子が女子を呼び出すといえば告白するなどがありえるが、それなら名前を偽る必要はないだろう。

 むしろ、印象が落ちて逆効果になる。

 

 「そうみたいだな、後輩に尾行するように伝えてあるから俺も今から向かおうと思うが」

 

 「当然、一緒に行く。勝手に名前を使われることほど不快なことはない」


 状況が分からない今、仲間は多い方がいい。

 眼鏡野郎と協力するのは気が乗らないが、こいつは腕が立つからな。

 いざというときに役立つだろう。

 

 がらっと教室のドアが開き、金髪をたなびかせて咲野先輩が入ってきた。


 「おい、お前ら、詩織を助けに行くぞ」


 獰猛な笑みを浮かべながら、拳をぶつけた。

 走ってきたのか額に汗をかいている。

 その時、村上から電話がかかってきた。


 「先輩っ!彼ら普段使われない空き教室へと入っていったと思ったら中から一瞬叫び声が聞こえました。そっと、中を覗きこんだら詩織が男二人に口と体を抑えられていました」


 切羽詰まった声だった。

 本人は助けに入ろうか俺たちを待つべきか迷っているのだろう。


 「分かった。今から行く、場所を教えろ。ただしお前はその場で待機だ」


 彼女一人では状況は変えられないだろう。

 それなら、情報源として安全な所にいてくれたほうがいい。

 俺たち三人は顔を見合わせてから急いで聞いた場所へと向かった。


 「あっ!先輩方っ!こちらです」


 声を潜めてドアの前に座っていた村上が手を振り迎えてくれた。

 そんなに時間は経っていないはずだ。

 ドアの前についた時、中から男達の歓声が上がった。

 

 「あいつらは何をしている」

 

 興奮したようなくぐもった声が聞こえてくる。

 堪らず杉山が中に入ろうとしたところ咲野先輩に止められた。


 「なぜ止める」


 敵を見るかのように鋭く先輩を睨む。


 「落ち着きなさい。まずは、役割分担よ。知恵は先生を呼んできて。杉山と厚金は男達の注意を引き付けて、その間に私が詩織のところへ向かうわ」

 

 「わかったっ!」


 冷静に指示を飛ばし、それを聞いた村上はすぐさま三つ編みを揺らしながら廊下を走っていった。

 俺と委員長も先輩の提案に頷いた。

 感情的にならず的確に役割を振る姿を見て敵わないなと思った。

 しっかり場を納められる大人を証人として呼ぶことで、たとえ喧嘩になっても村上の証言があれば正当な理由だと認めてもらえるだろう。

 そして、俺達三人の役目を明確にすることで眼鏡野郎を落ち着かせることにも成功している。

 さすがのリーダーシップだ。

 ガシャンと中から大きな音がしたのを合図に俺達は扉を開け突入した。

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