尾行
ショッピングモールを出た俺達はパパ活現場をおさえるために外に出て広い公園へと来ていた。
休日なため人が多く、走り回る子供、話に花を咲かせる奥さん方、スケボーで遊ぶ若者、ベンチで本を読んでいる大学生で賑わっている。
そんな中ターゲットに見つからないように帽子を被って変装し三人で周囲を注意深く見ている時だった。
「見つけた!あそこ逸見と里香がいます」
村上の指さした方向へ視線を向けると私服姿の若い女子二人が年上の男と一緒にいた。
派手な服装ではなく、地味目であまり遊び慣れていない雰囲気を出している。
「私服だと印象が違うな。大人しめというか」
素直な感想がこぼれた。
「二人が話していましたが、いかにも遊んでそうな身なりよりも受けが良いそうです」
「ふーん、うちみたいな恰好は逆効果ってわけか」
破けたようなショートパンツを穿き、脚を見せつけるようにしている咲野先輩は自身の格好を見下ろした。
「あの二人とは違って先輩ほどスタイルが良ければ相手の方から寄ってきますよ」
「それはそれで嫌だな」
男に言い寄られる姿を想像したのか、顔を顰めて舌を出している。
そんな彼女らの横で俺はスマホのカメラを起動し、少女二人の顔が映るようにズームで撮影した。
「なんだか探偵みたいでわくわくしますね」
村上はここに来る前と違い乗り気になっているのか目を輝かせている。
先輩の熱にあてられたか。
非日常な体験に興奮しているのだろう。
「もし、盗撮がばれて変な因縁をつけられたらどうします?」
「安心しろ、厚金がなんとかしてくれるだろう」
「へー、粟国先輩って喧嘩に強いんですか?」
俺は人並程度の筋肉しかないが、舞台の上でなら誰とでも渡り合える自信がある。
体の筋肉の動きから次の行動を予想することができるからだ。
あまり使いたくないため最終手段だが。
「万が一、暴力沙汰になった場合二人を逃がすことぐらいならできるよ」
「私ちょっときゅんときちゃいました」
心強く思ってくれたのか咲野先輩を見るような目で俺を見上げる。
尊敬の対象として数えられることに悪い気はしないな。
「おい、あいつら移動し始めたぞ」
前方では女子二人と男一人が横になって公園の外に出て行ったところだったので、会話を中断してばれないように慎重に距離を空けながら尾行した。
「あっ、手を繋ぎ始めましたよ」
男の手を二人が両側から繋ぐ。
若干、腕に体を押し付けているようにも見える。
すかさず、スマホのシャッターマークを押した。
「厚金は的確に重要な場面を逃さないよな。将来はパパラッチに向いているんじゃないか?有名人のゴシップを撮るのが得意そうだ」
関心したように舌を鳴らす。
褒められているのだろうがパパラッチでは純粋に喜べない。
俺は肩を竦めて返事をした。
「ふふふ、知ってますか?パパラッチってぶんぶん飛ぶ虫を意味しているらしいですよ。あまり誉め言葉としては微妙ですよ。そこは、週刊誌御用達の情報屋と言った方が相手に感心が伝わりますよ」
「初めて知ったぞ。知恵は物知りだな」
それもどうなんだと思ったが口にはしなかった。
「三人がカフェに入った。中に行くぞ」
俺達はターゲットから見つからないように店の端のテーブル席に座った。
「よく考えたら昼食べてないんでお腹すきましたね」
「知恵が昼頃から行動すると言っていたから、占いに時間を取られていたのもあって食べる時間がなかったな」
「彼女らも昼をとるみたいですし、俺達も腹ごしらえしていきましょう」
メニュー表を手に取り眺めるとパンケーキの写真が並んでいた。
女子が好きそうな甘いクリームがたっぷり乗っていておいしそうだ。
先に入った三人組は一足先にパンケーキが届いて食べていた。
男にスプーンを差し出して「あーん」をしている。
すかさずスマホでその様子をこっそりと撮った。
昼食を済ませて外に出て尾行を継続する。
「次はどこに行くんですかね」
「厚金、今まで撮った写真でいけそうか?」
男と手を繋いでいる所や、カフェで間接キスをしている瞬間は撮れたがどれも脅すには弱いものばかりだ。
「ある程度の効果はありそうですが、いまいちパンチが足りないですね」
このまま解散でもされたら大した収穫はなさそうだと思っていると、前を歩いてる三人は路地の暗い道へと歩き出した。
「尾行がばれたのかな?あっちには大した店はなかった気がしますけど」
「うちもここらへんは来たことがないな」
「いえ……これは、大当たりですよ」
大通りの喧騒から外れて人気が少なく、薄暗い路地の先にあるもの。
ちょうど前を歩いている三人もある建物の前で止まった。
「この建物って……」
「ほう、確かにこれはいい材料になりそうだ」
「ええ、ピンクに光っている看板が意味しているのはラブホテルです」
少女二人と男一人が一緒に手を繋いで中へと入っていった。
その様子を顔も映るようにしっかりと撮影した。
「えーと、とりあえずこれで目的は達成したんですか?」
「厚金の気持ち悪い笑みを見ろ、上手くいったのだろう」
「はい、最高です。あわよくばと思っていたんですが、途中まで大した光景を取れなくて半分諦めてました」
いくら校則がゆるい高校だといっても、女子高生が年上の男と一緒にラブホテルに入るところを目撃されれば基本退学は免れないだろう。
当然、二人の両親にも連絡がいくことになり家族仲は不穏になる。
脅しの素材としてこれ以上のものはない。
「今日は楽しかったです。友達を売るようなことで気分はあまりよくなかったけれど、先輩達ってすごくお似合いっていうか。一緒にいて心躍りました。もしかして、ですけど、お二人は付き合っているのですか?」
空を仰ぎながら満足そうに背伸びをしながら俺達に向けて聞いてきた。
「これで退屈だった。なんて言われたらうちも悲しかったから良かったよ」
咲野先輩は村上をよく気遣っていたからか満足した様子の彼女を見て安堵の息を吐いた。
「ただ、一つ勘違いをしているようだから正すが、厚金はただの仲の良い後輩だ。一緒にいて飽きないからつるんでいるだけだぞ」
聞き捨てならんとばかりにはっきりとそう言った。
俺との関係が噂になれば杉山を落とすのに無駄な障壁ができてしまうのだから先輩からしたら強く否定するのは当然だ。
「そうだったんですか。あっ、そうだ、私はもう大橋の嫌がらせには加わりませんよ。なので、私に対して今日みたいなことしないでくださいよ?」
反対の立場になったところを想像したのか、怯えながら俺と先輩を見る。
咲野先輩の見る目を信頼しているので、彼女がここにいる時点で裏切るような真似はしないと確信しているが罪悪感に付け込んで一つ仕事を頼んでみることにしよう。
「とはいっても、過去が消えるわけではないしな。もし、詩織に何かあったら逐一俺か咲野先輩に連絡を入れることを守れるのなら水に流してあげてもいい。あと、本人にはちゃんと謝罪することだ。口を聞いてもらえないかもしれないが、それが最低限の償いってもんだ」
「はい!粟国先輩の言いつけ承りました」
右手をおでこにつけ敬礼する。
この様子なら大丈夫そうだな。
「ははは、気をつけろよ知恵。こいつは約束を守る男だが、敵だと決めた相手にはどこまでも粘着して追い詰める一面も持っている」
語気を強めた先輩の言葉を聞き、青ざめた表情で俺の顔を見た。
これも、裏切らせないためなのだろうが勝手なことを言わないでほしいものだ。
目的を達成したので解散となった。
村上は「私は味方ですから」と言って三つ編みを揺らしながら帰っていった。
「久しぶりに厚金とデートできて楽しかったぞ」
「変な言い方しないでくださいよ」
そう言うと、はっはっはと笑いながら村上を追いかけるように去っていった。
一人だけになり騒がしかった路地裏が本来の姿を取り戻す。
俺はため息をつき、スマホで撮った写真を確認しようと視線を落とすと暗い画面の中でにやついた顔をした男が映っていた。




