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占い師

 人は期間限定品に弱い。

 その期間を過ぎるといくら売り上げが良くても終了してしまう。

 店側の狙いとしては話題性を高めて新規やリピーターを増やすためにあえて期間を絞って販売している。

 そして、まんまとその策略にはまった女子が目の前にいた。

 ショッピングモールの広場に期間限定の占いブースができていた。


 「占いをやってもらえるみたいだぞ」


 咲野先輩は興奮した様子で指をさしている。

 占いが好きだとは知らなかった。

 どちらかというとオカルト系の話は鼻で笑ってあしらいそうなイメージだ。

 

 「私はそういうの苦手なんですよね。他人に好き勝手に詮索されたくないっていうか。良いことがあっても幸せの半分が奪われているみたいで」


 意外にも松下は乗り気ではないらしい。

 てっきり女子はみんな占いに興味を持っているのかと先輩を見て思ったが、どうも違うようだ。


 「先輩一人で行ってきたらどうですか」


 当然俺も興味はないので、ここで待ってますからと言うとガシッと腕をつかまれた。


 「厚金も一緒だ。あれを見ろ、二人ペアだと値段が安いみたいだぞ」


 おそらく家族連れやカップルを狙った戦略だろう。

 黒いカーテンで覆われた怪しいお店に入ろうと思う人は少ない。

 しかし、子供やカップルのどちらかが関心を持てば言い訳として誘いやすくなる。


 「はぁ、まあいいですけど」

 

 「よし、行くぞ!」


 俺の手をつなぎ大股で列へと並ぶ。

 子供のような純粋な目をした先輩の顔を見ると断れなかった。


 「あの二人仲いいわね」


 その後ろで村上は小さく呟いた。

 十分ほど待っていると「次の方どうぞ」と声をかけられたので二人で一緒にカーテンをくぐった。


 「いらっしゃい。そこの席へどうぞ」


 黒いローブで全身を覆っている老婆が高そうなクッションの上に置いてある水晶玉を挟んで奥に座っていた。

 

 「なかなか雰囲気があるじゃないか。これは期待できそうだぞ」


 「先輩が楽しそうでなによりです」


 「厚金は興味ないのか?詩織との仲でも占ってもらったらどうだ」


 「ペアってことは基本的に俺たちに関しての占いですよ」


 「そうなのか、てっきり二人一緒に見てくれるのかと思っていた」


 「今からでも個別にしますか?先輩も占ってほしい人がいるでしょう。俺たちの仲なんて占ってもしょうがないですし」


 「うふ、それも面白いではないか。うちは占ってもらえるなら何でもいいぞ」


 目の前で老婆がくくくと低い声で笑いながら会話を聞いている。

 薄暗い店の中で俺たちを目に皺を寄せながら見ていた。

 その態度が堂に入っていて思わず唾を飲み込んだ。


 「それじゃ、まずはお金を払ってもらいましょうかね」


 「うむ、よろしく頼む」

 

 咲野先輩が会計を済ませると、水晶玉に両手をかざし空中で八の字を書くように腕を動かした。

 店の中に流れているゴーンと芯まで響くような低い鐘の音を聞きながらその様子を見守った。

 水晶玉が黒く濁ることも、魔法のように光ったりもしない。

 ごく普通の一般的なものだった。

 目を凝らしてみても反対側の景色をぼやけながら映しているだけだ。

 この儀式に意味はあるのだろうかと顔を上げた瞬間、老婆の細い目がぶつかった。


 「くくく、お主。わしを疑っておるな?水晶玉を覗いても何も見えなかろう。でもな、わしにはいろんなことが見えとる」


 抑揚をつけてまるで魔女のように話す。

 ちらりと横目で先輩を見ると、雰囲気にのまれているのか神妙な顔つきをしていた。

 占いなんて万人に受けるように当たり障りのないことを言うだけだろう。

 誰しもが過去に思い当たることがありそうな言葉を投げかけて信用させ、誰もが通りそうな未来についてそれっぽく忠告するだけ。

 晴れの日に雨が降ることもあるように天気予報と同じだ

 何も起きないならただ忘れるだけ、予言が当たればあの時の占いが当たったと思わせる寸法だ。


 「お主ら二人の関係はどこか歪じゃの……同級生ではない、恐らく……先輩後輩の仲じゃろう」


 「そ、そうです。こいつは高校の後輩だ」


 そりゃ俺がこの老婆の前で先輩呼びをしていたのだから、誰でも分かることだろう。

 どうせなら、入る前に子芝居でも打っておけば良かった。

 手品を見るとタネが気になってしょうがない性分の俺は、占いに対しても発言の根拠を探してしまう。

 自分で言うのもなんだが、こんなひねくれた客で老婆もやり辛いだろうな。

 

 「そうじゃろう、そうじゃろう。くくく」


 手をかざしながら水晶玉を見るふりしてこっそり俺に視線を向けているのを感じる。

 さて、一体どんな言葉が飛び出してくるのだろうか。

 老婆は水晶玉に手をかざしながら怪しげな笑みを浮かべている。

 咲野先輩は水晶玉の中に何かを見つけようとしているのか夢中で覗いている。


 「そうじゃの、男女のペアといえば大抵は恋人同士なんじゃが……お主らはそうではないな?」


 「はい、こいつはうちの男友達です」


 「くくく、そうか、そうか」


 会話で俺たちの仲を探っていることに気づかず、先輩は驚いた様子で自ら情報を渡し続けている。

 

 「見てきた、見えてきた。女の方も男の方もそれぞれ思い人がおるのだろう。ふむ……これは、お互いが協力関係にあるな?」


 「なっ」

 

 思わず声を漏らし、口を押えた。

 口調から確信している様子だった。

 水晶玉を睨みつける老婆の目つきは鋭く、俺の額から汗が出てくる。

 

 「そこまで分かるのか、うちは厚金に手伝ってもらっている。もちろん、逆もしかりだ」

 

 「そうだろう、そうだろう。ならば、お前達の恋占いをしてやろう」


 呪文のような言葉を呟きながら、水晶玉へ両手を動かす。

 店の中に響き渡る低音の鐘の音と合わさって、俺達の視線は水晶玉へと吸い込まれていった。


 「見えた!女の方は万事順調に事が運ぶだろう。恋人ができる日も遠くない」


 「なかなか嬉しいこといってくれるじゃないか」


 咲野先輩は緊張が解けたのか、満足した笑みを浮かべて腕を組み椅子の背もたれに体を倒した。

 老婆は俺をちらりと見て、間を空けてゆっくりと口を開いた。


 「男の方は……そうさな、あまりいい未来は見えぬな。だが安心せい、仮に成就せずともまだ若い。星の数と同じぐらいの希望がお主を待っておるだろう」


 「ははは、婆さん、今回ばかりは外したぞ。厚金と詩織の仲は順調だ。安心しろうちが保証する」


 「くくく、そうかね。その様子だとわしの目も曇ったかもしれんのう」


 咲野先輩は心配するなと俺の方へと顔を向け笑顔を見せている。

 まあ、考え見てれば当たり前の話だ。

 容姿が良く、スタイル抜群な彼女ならほっといても恋人ぐらいすぐにできるだろう。

 だから比較的可能性の低い方を下げることでより真実味が増す。

 結局、店に入ってきてすぐに興味を示した先輩を客とみなし、俺はただの付き添いだと見破ったのだろう。


 「では、うちらはこれで」


 「くくく、またいつでも来なされ」


 占いが終わり俺は椅子から立ち上がった。

 先輩は一足先に出て行く。

 

 「お兄さん。頑張りなさい」


 その顔は怪しげな占い師ではなく、親切なお婆さんのように表情をゆるめていた。


 「占いはどうでした?」


 俺達が外に出ると待っていたのか村上が近寄ってきた。

 苦手と言いながら気になっていたようだ。


 「面白かったぞ。知恵も一度行ってみたほうがいい」


 「へー、先輩がそう言うなら今度試してみようかな」


 それから咲野先輩は占いの内容を話し始めて、村上は興味深そうに頷いていた。

 俺は老婆の最後の言葉を思い返してため息をつく。

 恋は成就しないと言いながら頑張りなさいって、そりゃ卑怯だ。

 仮に上手くいったとしても、あれほど優し気な目をされては悪く言えないじゃないか。

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