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座談

 ストレスの解消法は人それぞれで違う。

 カラオケで歌うことだったり、ゲームをすることだったり、運動をすることだったり、はたまた、お金を消費することで緩和されるという人もいる。

 俺にとっては将棋を並べることだ。

 プロアマ問わず棋譜を暗記し一局を再現する。

 味方だった駒が敵に寝返り、敵だと思っていた駒が味方に転じてお互いの王に迫っていく。

 盤上で意志を持つように駒たちが動き様々なストーリーが繰り広げられる。

 その様子を想像しながら並べることに言い知れない満足感を感じる。

 王手となり一つの物語が終焉を迎えたところでスマホが鳴った。


 「どうしたんですか?咲野先輩、こんな朝早くから」


 「今空いているか?」


 「ええ、休日ですし特に用事は入っていませんよ」


 「それならよかった。今からお前のとこにいくから準備しておけ」


 それだけ言うと、通話が切れた。

 俺は寝間着姿の自分を見下ろした。

 さすがにこの格好で迎えるわけにはいかないな。

 薄手の長袖の上に黒の半そでのシャツを羽織り青のジーパンを履く。

 あとは軽く部屋の掃除をし終えたところでチャイムの音が鳴り、玄関の扉を開けると金髪の少女と眼鏡をかけた少女が立っていた。


 「よっ。来たぞ」

 「お邪魔します」


 咲野先輩は軽く手を挙げ、眼鏡の子は遠慮がちに挨拶を交わす。

 ワンルームの狭い部屋に置いてあるテーブルの前に座った二人にお茶を入れたコップを差し出した。

 咲野先輩は両肩を出した黒色のシャツに所々が引き裂かれたようなショートパンツを穿いており、可愛い熊の顔がついた靴下を履いている。

 私服でも露出が高い服装だ。

 自分の脚に自信があるのだろう。

 程よく筋肉がついた太ももが強調されている。

 もう一人の方は、三つ編みを後ろでまとめており、青のワンピースにフリルのついた靴下を履いていた。


 女子が狭い部屋に二人も入ると瞬く間に甘い匂いが部屋中を満たす。

 まるで天然の香水だな。

 俺は対面に座りメガネの少女に視線を向けた。

 この子には見覚えがある。

 確か中庭で詩織と言い合っていた女子グループの一人だ。

 

 「まずはそちらの方を紹介してくださいよ。確か中庭で会った三人組の一人ですよね?」


 なぜ彼女が連れてこられたのか疑問に思い聞くと、咲野先輩は眼鏡の子に目で合図を送ると居住まいを正して話し始めた。

 

 「私は村上知恵むらかみちえです。粟国先輩の言う通り中庭でお会いしたうちの一人です。あまりいい印象は持たれていないでしょうが、今回は大橋詩織の件でお話にきました」


 片足を立て体を倒している先輩と比べて、背を伸ばし正座で座っている姿勢を見るに礼儀正しい子なのだろう。

 詩織のスカート捲りをした時に申し訳なさそうにしていたとはいえ、嫌がらせをしていたグループの一人であることには違いない。


 「そんな胡乱な目つきをするな。安心しろ、うちらの味方だ」


 「まあ、咲野先輩がそういうなら……」

 

 俺は話の続きを促した。

 

 「きっかけは逸見いつみの狙ってた男子が大橋のことを友達同士で可愛い子だよなと話していたのを聞いたことです。そして彼女達は嫉妬からちょっとした嫌がらせを始めました」


 「よくある話だな。恋愛となると女子は怖いからな」


 咲野先輩は見覚えがあるのか、天井を見上げた。

 女子の間では珍しいことではないらしい。


 「最初は可愛いものでした。大橋の好きな男子の噂を流したりする程度の悪ふざけだったから、私も付き合っていたけど、徐々にエスカレートしていって中庭での出来事に繋がりました。さすがに、これ以上は付き合いきれないわと思っていたところで大山寺先輩に話しかけらました。後輩を助けるために協力してほしいと」


 この短い間で三人が一枚岩ではないのを見破って接触したのか。

 怖いぐらいの洞察力だ。

 絶対に敵に回してはいけない存在だと再認識した。


 「まっ、流れとしてはこんなもんだが、もう一つ面白い事実がある」


 勿体ぶるようにお茶を流し込み、テーブルに置いてあるペットボトルから空になったコップへといっぱいにお茶を注いだ。


 「それは一体何なんですか?」


 長い沈黙にこらえきれずに口を開いた。

 それを待っていたとばかりににやけた顔で言う。


 「青倉逸見あおくらいつみ丸谷里香まるやりかの二名はお前のクラスメイトの滝沢春日と同じ中学出身で部活も同じ吹奏楽部だったらしい」


 別に中学の後輩が同じ高校に入ってくるなんてのは不思議なことではない。

 憧れの先輩が居るからというのも高校選びの基準になることもあるだろう。


 「それを情報としてここに出すってことは滝沢が関わっているということですか?」


 「半々ってところだ。知恵もそこらへんは何も聞いてないみたいだからな」


 「はい、私も初耳でした。思い返してみると、体育の時間で大橋に用具倉庫へ運ぶように言ったのは逸見達でそのすぐ後に男の先輩が同じ倉庫へと向かっていたのを覚えてますが」


 つまり滝沢の指示で嫌がらせをしている可能性があるということだろう。

 恐らく傷ついた詩織を慰めて付き合おうというマッチポンプ。

 だが、辻褄を合わせようと思えば合わせられる。

 中庭の時も通学路の時も用具倉庫の事件も近くに滝沢が必ずいた。

 とはいえ、証拠が足りないので断定はできない。

 大体の事情は把握したところで、一番欲しい情報を聞くことにした。


 「俺が先輩に頼んだ件はどうでしたか?」


 「ああ。何か後ろめたいことがないかってことだったな」


 そう、俺は彼女らに隠したい過去や知られたくない秘密があるか先輩に調べさせていた。

 もちろん確証があったことではなく、ダメ元で頼んだことだったが先輩の口ぶりからは何か発見したみたいだ。


 「どうもなパパ活をしているらしい。だよな、知恵」


 体を前のめりにさえ、好奇心を隠し切れずににやけた顔をした。


 「はい、二人ともお金使いが荒かったので、何かバイトしているのかと聞いたところ私にこっそりと話してくれました。休みの日に繁華街で年上の男を捕まえて、いろいろとお世話をするかわりに対価をもらっていると」


 パパ活とは、まるで父親におこづかいをねだるように見ず知らずの男を自分のパパと見立てて彼らの要求に答えることで金銭を得ることだ。

 その内容は人それぞれだが、下の世話など過激なものほど多くの報酬がもらえる。

 

 「それは思わぬ掘り出し物を見つけましたね」


 「ああ、話によると毎週日曜に外に出て遊んでいるらしい」


 つまり日曜の今日、彼女らはパパ活にいそしんでいるのだろう。

 胸が躍り、俺は舌なめずりをした。


 「怖い顔になってるぞ、知恵が引いてる」

 

 「あの……それを知って何かするつもりなのでしょうか」


 眼鏡っ子は少し怯えながら言った。

 

 「今から繁華街に出て彼女たちを探して尾行し、男と一緒になっているところをこっそりと撮影する。そして、二度と嫌がらせをしないようにそれを使って二人を脅す」


 立ち上がり、アンチヒーローのごとく悪役面を浮かべる。

 この瞬間がたまらない。

 味方だと思っていた友達に裏切られ、自らの弱みをさらけ出す。

 そこに付け入り王手を打つ。


 「そんなことだろうと思ってたよ、うちも大概だけど厚金も性格悪いよな。たちが悪いのは行動力があるところだ。普通、話を聞いて、よし行動しようとはならんだろう」

 

 咲野先輩も立ち上がり、まるでアンチヒロインのようにニヒルな笑みを浮かべた。

 結局、俺と先輩はとても気が合う。

 悪事を企む男友達のように見つめあった。


 「……え?もしかして今から行くんですか?」


 村上知恵はそんな俺たち二人を見て、背筋を伸ばした正座姿から体を仰け反らせて引きつった顔をしている。


 「もちろん」


 俺と咲野先輩は一寸たがわず声を重ねた。

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