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プロローグ



とりあえず十話分用意しました。

今日は五話分出します。明日以降は未定です。


まあ話の進行は少ないんで期待しないで下さい。




魔物の群れに街が破壊されるのは珍しいとは言えない。


魔王が生まれてから魔物は数を増やし、質が上がり、群れをよく作る様になる。


故に魔物がどこそこの街で暴れた〜なんて話は日常茶飯事。さすがに都市が滅ぼされたら珍しいが、街程度の規模ならば壊滅的な被害があったとしてもその地域で少し話題になるくらいだ。


行商人はそういった情報を得て、行くかを決める。


冒険者ギルドは街を襲った魔物の情報を得て、それらを殲滅する依頼を出すか決める。


国の魔物対策チームは被害の規模を把握して、いくらまで税を取るかや復興金を出すかなどを決める。




なので街が瓦礫の山、というのはまあまあある事。


まあまあある事なら当然そういう事態での行動マニュアルもあるわけで、


「……了解しました。今回は魔物の脅威からお救いいただき、本当に感謝しております」


冒険者ギルドなんかは特に叩き込まれている。


受付嬢は本当に感謝はしつつも、未だ街の防壁が崩れたままの現状で戦力になる勇者を引き止めたい気持ちでいっぱいだった。

それを言わずに感謝の言葉のみ伝えるのはさぞ辛いだろう。



そんな気持ちを知ってか知らずか、今代の勇者アルテミスは無邪気に言う。


「復興頑張ってね!」


と。


受付嬢の顔は頭を下げたままなので見えない。

だからそう言われた受付嬢の気持ちを察することもできない。


なので勇者はこう解釈する。


自分たちが街の復興をするので、どうか勇者は魔物を倒して欲しい。

そんな風に思うのだ。

となれば自然こんな事が言えるのだ。


「次の街でも魔物から助けないとね」




双方のすれ違った気持ちを知るのは、一人の少女少年のみである。











「うー、重いよぉ〜」


街道に情けない声が響き渡る。


「もう嫌〜」


声の主は女勇者アルテミス。

季節を感じさせない肌を一切見せない軽装備を身にまとう彼女は、かなり大きな声で泣き言を言っていた。


もし誰か冒険者がいれば殴ってでも止めただろう大きな声で。


この大きさの声を出せば魔王の影響で活発になった魔物が多くやってくるに違いないからだ。余計な戦闘と金にならない戦いは避けるのが鉄則の冒険者なら、気絶させてでも止めるだろう。


金にならないならば武器や防具が修理できず、それは明確に自分の死が近くなることを指すからだ。


だが一緒にいた少女(少年)は違った。


大きな声には煩そうにはするが、一向に止めようとはしない。

むしろ、


「お、魔物(コボルト)が出たよ。ささっと倒してね」


魔物が出てきた事に喜んですらいた。

そして魔物を自ら倒そうとはせず、アルテミスに倒すように指示をする。


「じゃあこの荷物代わってよ!」


出てきた魔物が街道にやって来てるのも無視して訴えるのは、自分に引きずらせているソリを外す事だった。


ソリと言うが大きさは馬車と遜色無く、二段になってる。


しかもソリの上には大量の荷物と道中で仕留めたと思わしき豚鬼(オーク)の死体が三体。オークの肉は繊細で美味しいがこうして丸々一体手に入る事は重さと討伐難易度のの関係上まずなく、普通は解体して一部だけを持つ。


もっとも一部を運ぶにしても、冒険者ギルドでオークの死体を持ってくるような依頼を受けた場合がほとんどだ。

それほどまでオークの死体は場所を取り非常に重い。


そんなオークが三体のソリを引きずって移動してるのだから、その上戦闘しろと言われたら抗議したくもなるだろう。


「魔術か操氣術の遠距離攻撃で対処すれば良い」


「この鬼! 悪魔!」


「残念、僕は悪魔じゃないよ。それよりそろそろ射程だけど」


「えっ!? あっと、なんだっけ! ええとーー、《爆ぜろ》!」


道端にいる魔物(コボルト)達に向かって手を向け呪文を唱える。


魔術において呪文は重要な要素だ。

そして当然呪文を唱える時間は隙となり戦闘に用いるには難しくなる。


そこで生まれた技術が短縮詠唱魔術と無詠唱魔術。

短縮詠唱は呪文を切り詰めて魔術を発動させるスピード重視の技術だ。もちろんちゃんと全て詠唱するのと比べれば威力・規模・消費魔力・強度その他諸々が悪い方向に働く。


これは無詠唱も同じで、これらの技術は発動スピード以外ではメリットはほぼ無い。


そしてデメリットの中には魔術の命中性能が落ちるのも含まれている。更に使用者が未熟だと暴発(ぼうはつ)したり、狙い通り飛ばなかったり、そもそも発動しなかったりする。


それは使用者の心理状態、心の余裕にも左右される。


「あっ」


今勇者は街を出て数日もの間ソリを引きずり、野営で睡眠時間が少なくなり、訓練として毎朝限界まで魔術を使い続けた。更には魔術に関してはまだまだ素人同然。


それらが引き起こすのは、



──ドゴォォオン


「うんうん、期待通りで嬉しいよ」


狙いは外れコボルト達の手前の地面となり、威力は十体に満たない雑魚コボルト相手には過剰。


それがもたらすのは地面ごと吹き飛ばされたコボルト達。

そして街道に大きく空いた穴。


「じゃあ街道の修復と今の爆音によって来る更なる魔物を倒そうね、ゆ・う・しゃ・さ・ま?」


「ノォォーー!!」


女勇者は自分がやらかした事を見て悲鳴をあげた。


これが普通の状況ならば、馬車はおろか馬や人も通れない程の穴を空けても大した問題ではないだろう。

ああやってしまった、と笑いながら魔術で元に戻せば良い。


ただここは街と街の中間地点。


そして片方の街にはつい先日魔物の群れが襲い半壊したばかり。

襲った魔物達をあらかた掃討したとはいえ、逃げた魔物まで倒しきった訳ではない。そういう魔物は疲労や傷などがあり、現在進行形でそれらを癒すために動物や木の実を食べたり寝たりして回復を促しているのだ。


寝るのならば巣にでも帰るが……腹を満たすべく動物や木の実、あるいは薬草を入手するには森や林に行く訳で、そんな中で大きな音を立てればどうなるか。


警戒心が強ければ、賢ければ、勘が良ければ、また話は別だっただろう。ただ大概の魔物は『大きな動物が木にぶつかった音』だと判断して弱ったはずの大きな動物を食べるべく寄ってくる。


果たしてそこまで考える知能が魔物にあるかは定かではない。

だが事実として、森や林の近くで大きな音を立てると魔物がそこそこ出てくるのは確かだ。



そしてその性質を利用するべく少女(少年)は女勇者に精神・肉体に対して負荷をかけた上で、咄嗟の魔術行使を誘発させた。


結果は期待通り。


案の定女勇者は苛立ちやストレスから強い魔術を使い、そして大きな音を立てた。街道に被害が出ても土魔術の練習になるから良しという善意の判断ではなく、面白そうだからという愉快犯的な動機。

もちろん勇者の成長を考えてはいたが、その割合は少ない。


確実に魔物がやって来るのを気配で察知し、


「じゃあ望み通りソリは外しておくよ」


パチンッと指を鳴らし、女勇者の腰と肩につながっていたソリのロープを切った。


女勇者は不貞腐れながらも背中の槍を持って構える。


女勇者(アルテミス)も分かっているのだ。

精神的肉体的に負荷をかけているのも、機会を作って多くの魔物と戦わせるのも、モンスターの情報を集めているのも、まだまだ弱い自分を鍛えるためだと()。


そして疲れ切ってしまえば休息も十分に取らせてもらえるし、自分の趣味の一つである少女(少年)とのコスプレだってしてくれるし、写真も撮らせてくれるし、甘いものを奢ってくれるし、綺麗な場所や楽しめる場所を探してくれたりもする。


他にも色々と難しいことを代わってくれてるから、今もこの世界で生きてられるのだと理解できてる。


なら多少の、いや結構……いや滅茶苦茶? な無茶振りも我慢できる。……多分きっと。

元の世界にいた時に比べれば、良いことだらけなのだから。


「でもキツいものはキツ〜〜い!!」


林から出てきたゴブリンに向かって槍を突き出す。

まだ距離が開いて届かないはずの一撃は、しかし穂先が飛んでいきゴブリンの頭を破壊する。


続いて槍を動かせば、穂先と柄を繋ぐ糸がゴブリンの首を刎ねる。

木で隠れてるゴブリンも木に糸を引っかけ穂先の軌道を変え、何故死んだか理解させないまま頭部を破壊される。


槍を動かして糸と穂先であっさりゴブリンを全滅させる。

そんな動きは旅の当初ならばまずできなかったのだが、この特殊な槍を短期間で泣き言を叫びながらも手足を操るようになったのは間違いなく少女(少年)のスパルタな指導のおかげだ。


だがそれでもアルテミスは満足しない。


「うぅ〜、また爆散しちゃったよぉ」


糸で首を刎ねたゴブリン以外は、加減ができずに当たった部位が爆散しているのだ。

爆散した部位が多いと多くの血が飛び散ってしまう。


前者は必要以上に力を入れているから持久力の問題に繋がる。これは多くの敵と戦うならば無視できない課題であり、体力を増やすのと並行して加減を覚える必要がある。

後者は飛び散った血の臭いから更なる魔物が出て来る要因になり、既にいる魔物が興奮状態にならないためにも必要な事だった。



「まあこの類の武器で繊細なコントロールは難しいからね」


「ううぅ、ガンバリマス」


カタコトの返事に、自分が悪いのは理解しているもののどうしたものかと少女(少年)は思案する。


明らかにテンションが下がっている。それが一体なぜなのかは明白だが重要ではなく、アルテミスはテンションの高さが戦闘力に直結するタイプの人間だというのが重要だ。

更に言えば学習速度までもテンションに関係する。


となれば、と呟き、徐おもむろにソリから一枚の羊皮紙を出す。


「これなーんだ」


「……? ……! こ、これは!!」


ひらりと見せたその羊皮紙は魔術的な処理がされてる。

冒険者ギルドが発行する重要な代物。


「そう、アルが欲しがってた例のチケット」


「キフルランドの入場許可証!」


「次の街からキフルランド行きの飛行船が出てる。遊びに行く資金はハイウィング討伐で手に入るけど……ここで魔物を倒して素材を売って稼げば、当然予定よりずっと長く遊べる」


「死体が綺麗ならもっと稼げる?」


「もちろん」


うおーー! とアルテミスは声をあげて走り出す。


すっかり元気になったその様子に満足そうに頷き、何処からか取り出したオカリナを奏ではじめた。


その音はなぜか聞こえない。


だが確実に何か心を揺さぶるような、そんな気持ちになる。



そしてたっぷり二分ほど。

ようやく音の聞こえないオカリナを吹き終えたらしく、オカリナが消えた。


すると、


──ガアアアアァァ!!


と雄叫びが聞こえてきた。


ある程度冒険者として活動していたならば、この雄叫びはオーガと呼ばれる魔物のものだと分かるだろう。

かなりの興奮状態だという事も。


そしてごく一部の者ならば、先ほどのオカリナの正体にも気づくだろう。

魔物を引き寄せる音を出す特殊なマジックアイテムだと。


この類のマジックアイテムは街中で使えばとんでもない被害が出かねないため、非常に厳重に管理されてる。



「この声はオーガだ。傷少なく倒しなよ」


そんな代物を持ち、女勇者を支えてるのは十五にも見えない少女(少年)


「たしかオーガは金貨五枚以上!!!」


倒した魔物をソリで運ぶのは自分だというのをすっかり忘れて魔物をお金として見てるのは、未熟な女勇者。




これはINTロールを失敗し続ける勇者と、性別年齢不詳の少女(少年)が描く物語。







第二話 残念、勇者アルテミスは土魔術が使えない!







がれき道


抜けた街道


魔物道




……深夜テンションでお送りいたします。



追記:作中でコボルトに対して魔術を使っていますが、別に相手は遠距離攻撃手段を持っていないので普通に倒せます。

それでも魔術を使ったのはイズの誘導ですね。

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