やって来ました魔導国 06
お久しぶりです。
ここ一ヶ月近くは頭痛が酷くてロクに書けませんでした。それ以前?……まあ良いじゃないすか。
一応書いたのはこの一話だけなので、反応次第で続きを書くか決めます。
ではどうぞ。
魔物には二種類の生まれ方がある。
一つは人類が何らかの理由で発狂し、そのまま永遠に狂気に囚われてしまう事で魔物になる。
この場合肉体は強化されて寿命が極端に減るのが基本的な変化といえる。他にも変化はあるが、種族ごとにも違うし、個人差も大きいので例として挙げずらい。
もう一つは自然発生するタイプの魔物だ。
発生条件は判明しており、『魔力が多い場所』で『魔力が滞ってる状態』が『一年以上』あると発生する。この場合は場の魔力の多寡で強さが決まり、魔力が多かろうと弱い魔物は発生する……まあ強い魔物も出て来るので大抵食い殺されて淘汰されるが。
前者の生まれ方をした魔物は人の多い場所による習性を持ち、後者の生まれ方の魔物だと生まれた場所から遠くまで離れようとはしない。
つまり本来なら魔物が街道などに出てきたとしたらそれは狂気に囚われたタイプの魔物だ。
「醜鬼か」
「珍しいね」「またか〜」
「「……え?」」
二人の女性が互いに何を言ってるのかと顔を見合わせる。
そして魔導師の証であるローブ――教授位を示す黒に裏地が紅と金の刺繍が施されてる――を身に纏うレーゼはその聡明な頭からすぐに正解を弾き出した。
すなわち魔王が活発に動いてる今の世の中では、醜鬼という自然発生型の魔物は街道に出て来ても珍しくないという認識を持っていてもおかしくない、と。
更に言えばアルテミスは異世界出身で常識を知らない。
そして悩む、自然発生型の魔物は街道にはほとんど寄らない習性を持つ事を教えるか。
この場で教えるのは問題はない。だが教えたところでアルテミスが覚えてるかは別だし、そもそも本人曰くノートやメモ帳に書かないと九割以上は覚えられないらしい。
要するに無駄骨ではないか、と考えたわけだ。
その上彼女は妙なところに関心を持つ、おそらくこの話をすれば自然発生型の魔物と狂気に囚われ魔物に堕ちた者の違いを聞きたがるだろう。そして何度か同じ話をするハメになる。
「レーゼ、話は後。アルテミスは魔術で倒すこと」
「ラジャー!」
そのタイミングでイズから指示が出る。
アルテミスは槍を手に持ち魔力を練り上げはじめ、レーゼは思考を切り替えて自分の役割を果たす事にした。
レーゼの役割はアルテミスへの常識の指導、そして魔術を教える事だ。アルテミスが魔術を扱うというのならその魔力運用や術式への理解度などを見ないといけない。
「アルテミスは切り裂くような魔術をお願い」
「風属性でいい?」
「……良いですよ?」
そのためにも各魔術の実戦運用がどの様な手順や術式によって使われるのか知らないと、全く見当違いのアドバイスをしてしまいかねない。
事前にある程度どんな魔術を使うのかは見たが、それは扱える魔術の種類を知るだけの簡易的な調査にすぎない。
街道にわざわざ出て来た醜鬼は六体。
レーゼの前で使うのは属性魔術という黎明派の得意分野、普通なら煽りかな? と思うような事だ。その道の専門家の前で基本的なことをするのは微笑ましいのではなく、煽りと受け取られることの方がこの界隈では多い。
あとで注意しないとな、と迂闊に魔導師の前で魔術を使う危険性を教えることを決めたレーゼは、
「《ディスク》!」
謎の詠唱と共に放たれた魔術に唖然とした。
結果だけ見れば、棍棒というよりは木の棒しか持っていない醜鬼は首を切られたり胸から切られたりと狙いはバラバラながらも全員が死亡した。
まあ魔物を倒すという目的を達成したので、魔術は成功したと言ってもいいだろう。
だが狙いが甘いとか、たかが醜鬼に対して威力が高過ぎるとか、魔力を込めすぎとか、当たった後も魔術が通り過ぎて危険だとか、色々と要改善な部分は多い。
だが何より目を引くのが、
「風属性なのに風じゃない?」
「あ、それイズにも同じこと言われた。なんだっけ、薄すぎるだっけ?」
魔術を見ただけで術式を把握するのは、魔導師ではなくても魔術師を志すレベルでも必須科目だ。
教授位を名乗れる魔導師、それも結界魔術の第一人者と言われているレーゼともなれば、かつては苦手だったとはいえ今では学閥・派閥・年代まで判断が出来るほどの術式の把握能力が高い。
その彼女をもってしてもその術式は初めて見た代物だった。
いや、初めて見た術式というだけならば在野の魔術使いで幾らでもいる。洗練されていない無駄の多い術式というのは、誰かに師事して魔術使いとなった訳ではないならば普通だ。
そういう面では勇者らしい才能のゴリ押しかもしれないが、術式はレーゼから見てもC評価と言っても良いレベルではあった。イズに教えてもらった可能性もあるが、余程ではない限り彼女は術式を教えたりはしない。
彼女は答えを言うくらいなら助言程度で済ませる。その助言を元にして術式を作り上げた可能性もあるだろうが、それにしても似たような術式をレーゼは知らなかった。
「アルテミスの魔術は中々面白いだろう? これで自己流だから僕は氣術も魔術も教えてるのさ」
ああなるほど、いくら勇者ならば魔術も氣術も使える才能があるとはいえ、中途半端になる可能性も大きいのに氣術も教える選択肢を取った理由がコレか。
レーゼが軽く混乱してるのを見て聞いても無駄だと判断したらしい勇者アルテミスが、醜鬼から魔石を取り出しているのを見ながら彼女の才能は素晴らしいと認識し、同時にイズが勇者のパーティー候補に挙げてくれた事に強く感謝した。
魔術使いにとって“才能”とは魔力量でも魔力出力でも術式を構築する速度でもない。
洗練された術式の美しさである。
最初は無意識のうちに術式を練り上げて発動する。それを少しずつ改良するべく、様々な術式を覚えて取り込み、無駄を省いていき、実際に使って式を足していき……それを繰り返して術式を美しく洗練されたものに変えていく。
もちろん一番最初に発動した時点で美しい術式、というのは何十年かに一人くらいの確率で見つかる。だがその程度ならば魔導師はおろか魔術師ですら「お、凄いね」と言って終わりだ。
美しい術式、というだけでは意味がない。如何にして術式を洗練させていくかが重要であり、その結果である洗練された術式の美しさこそ尊ばれる。
そういう面で考えればアルテミスの魔術は元々が独創性の強い術式で、美しい術式ではあったのだろう。
だがそれでもレーゼが美しいと思ったのは、その術式に何度も改変されたような跡があったからだ。清掃魔術の効かなくなった白衣のような、勇者風にいうなら何度も消しゴムで消したかのような痕跡があるのだ。
それが示す意味は最初から美しい術式なのではなく、洗練された結果美しい術式になったという事。
魔術を使える者にとってこれ以上の才能はそうない事だ。
「ウィン……失礼、イズ先生は似たような術式をご存知なのですか?」
「知ってるよ。三一〇〇年ほど前の勇者も同じだった」
「三〇〇〇年ですか。その時の勇者も?」
「異世界からの勇者だね。術式の性質は自分で調べなさいと言いたいけど、多分文献残ってないよね」
術式というのは当然流行り廃りがある。今ではマジックポーチや飛行船に使われている空間魔術だって、あまりの難易度に廃れてしまった。今残ってるのは簡易化された空間魔術であり、本当の昔からある空間魔術は魔導院でも使い手は数える程度しかいない。
簡易化された術式と本来の術式、この違いは発動難易度だけではなく明確に効果まで変わる。
転移魔術ならばマーキングした地点としか行き来できないのが現代の空間魔術の認識だが、本来の空間魔術であればマーキングは必要無く簡単に――使いこなしているならばだが――転移が可能だ。
もっと身近な例ならば火球の魔術か。火の玉を出して飛ばす魔術だが、この魔術は射程や飛ぶ速度火の温度など上限下限が決まっているのだ。昔の術式――もっとも魔導師レベルになると一般的な今の術式という認識になる――だと技量次第ではあるが、何キロも飛ばせるし骨すら残さない様な温度も出せれる。
これらは術式の性質によるもので、同じ術式を使った場合の“自由度”がその性質によって変わるのだ。
術式の性質というのは一般的には魔力効率や適性の多寡だと思われているが、魔導院の定義する術式の性質は先の自由度を指す。
今、というかここ数百年の流行りは『術者の技量差に影響されずらい』術式の性質が好まれる。この流行りは社会形態の維持が楽になるから、という政治的理由があるのだが……まあ蛇足だろう。
ざっくり分類するなら、
昔の術式→同じ術式でも使用者によって効果が多少変わる。
今の術式→同じ術式だと誰もが似たような効果しか出せない。
といった感じだろう。
これは昔の術式は自由度を求めた結果、今の術式は最低保証を求めた結果、こういう流行りが出来た訳だ。
昔の術式の流行りが自由度を求めたのは『対人戦』が多かったからというのもある。魔術を見て術式が分かるなら、その術式から効果を察して対処することが可能だ。
つまり術式から効果を判断されにくい様に進化した結果だ。
一方で今の術式は弱く未熟な魔術使いでも『魔物相手に』対抗するため、簡易化と最低限の威力保証を求めたからと言える。魔術が使える者=抗う術を持つ者、という認識を広めやすくしたのだ。
つまり安全圏を確保するために進化した結果と言える。
では勇者アルテミスの使った術式はどういう特徴か?
自分の考えだと“イメージの具現化”に最適化した術式だ。どの時代の流行りにも属した記録がないそれは、あまりにも個人差が大きすぎて体系化自体が困難とされてる分類であり、感覚派を嫌う魔導院ではほとんど研究してる者がいない。
そんなある種異端な術式。
魔導院の書庫で研究論文に記載されてた魔術陣を見たことはある。文書の方は、まあ、うん。感覚的なことを理論的に話すのは難しいと分かる内容だったかな。
魔術陣はともかく術式そのものは調べた限りでは無かったが、どうやら三〇〇〇年も昔の代物のようだ。
……いつから生きてるんだろう、この人。
「特徴としては無詠唱魔術が使えないし、自由度が極端に低い。あとは属性魔術の分類に属する事象しか行使出来ない事か」
「やはりさっきのは属性魔術でしたか」
「うん、風属性だね。レーゼが勘違いしたのは、土属性が混じってるように偽装した術式の一部だよ」
「偽装、ですか」
魔術には種類があり、その中でも属性魔術というのは主流、というか七割以上の魔術使いはこの魔術を使う。
自然現象と同じことを引き起こし、それを増減させ操る魔術。
最も身近なものを利用するので魔力消費が少なくて済み、術式自体が軽い――魔術陣にした時文字や記号の数が少ない――ので発動が容易なメリットを持つ。
その反面、相性勝負な部分があるので火属性ならば水属性のように対応が楽にされてしまいやすく、術式が軽いからこそ妨害されやすいデメリットがある。あとは術者の苦手意識――川で溺れたから水が嫌いなどのケース――によっては特定の属性が使い辛かったりする。
もちろん相性勝負という面を魔術師や魔導師が放置するはずもなく、複数の相反しない属性同士を掛け合わせて使うことが多い。
この場合は術式が重くなるので、メリットが薄まる。
そして複数の属性を使ってると見せかけ、実は一属性しか使わない事でメリットを活かす偽装術式というのも存在する。
だがこの偽装術式はよっぽど上手く組み込まないと術式が重くなりメリットが活かせず、更には相手にも偽装だとバレてしまい対策される危険性も孕んでいる。騙そうとする相手が魔導師レベルともなれば、難易度は跳ね上がる。
だが勇者アルテミスの使った術式は、確かに自分も欺いてみせた。
「でもイズは初見殺しではあるけどそれ以上ではない、って言ってたじゃん」
「だから偽装術式を教えたの、実際にレーゼでも混乱したくらいだから及第点だと思うよ。まあ僕は属性魔術は専門外だからこの先の魔術の改良はレーゼに任せる事になるけど」
「えっ、私がこの魔術を改良しろと?」
驚いて彼女の方を見れば首をすくめていた。
それは言葉通り、これ以上この魔術には関わらないと態度で示していた。
勇者の方を見れば魔石でジャグリングをしており、こちらもやる気が無いことがよく分かった。
「……努力はします」
貴族というのは面倒だ。
見栄を張らないと弱肉強食とばかりに食いものにされ、嘘を言うと信用ならないと人が離れていく。吝嗇家であれば貴族の義務も分からぬ阿呆と謗られ、趣味を持てば弱点となりかねない。
故に過剰にならないよう周囲を見ながら自身を着飾り、信用を獲得せんと約束は守り、周りにはバレないように緊急時用の金を貯め、攻撃の材料にされない様に真剣に趣味を持たないといけない。
出る杭は打たれるので、目立つならば計画的にしないといけない。
自分は武威でもって制圧した。
だが彼女はそこまでの武威は無い。
ならば知恵でもって制するのか、嵐を呼び寄せ更地にするのか、はたまた自分も想像できぬ奇想天外で何かを成すのか。
彼女は賢い。
おそらくは貴族という面倒な代物に負けはしないだろうが……
第一九話 属性魔術は効率厨が好んで使う傾向がある。
属性魔術の設定が完全にフリーレンと一緒で辛い。
アニメ見て嘘だろと思いました(泣)
感想評価待ってます。




