やって来ました魔導国 05
イベ駆け込み終了。
新しいエピソード追加されたからやりたいけど、そんな気力湧かなぬ……
文字数少ないです。
魔導国における魔導院教授という地位は下手な貴族よりもよほど高い。
官僚というのが一番表現としては近いが、教授に命令出来るのは皇帝と同じ派閥の長くらいのもの。
そして魔導院における最も力がある――所属人数ではなく実力・貢献度・財力の観点から見た場合――四大派閥のトップともなれば五家しかない公爵家の当主に並ぶほどの重要人物であり、皇帝といえど命令は簡単ではない。
専制君主の国のトップから命令を受けても拒否権が与えられるほどに強い――多義的な意味で――のだから、その恐ろしさが窺えるだろう。まあ教授クラスの実力者だと単身で帝都を更地にしかねないほどの魔術を使えるので、半ば脅しに近い背景があるのは言わぬが華か。
ともあれ、実力に差はあるが最低でも戦略級魔術が使えるのが教授という存在だ。買出し一つろくに出来なかったという中々に酷い醜態を晒したレーゼもまた、一般的には十分化け物と言えるスペックを持っている。
そんな彼女は過去の事もあり造形魔導師という建設系に秀でた専門家だ。特に結界魔術の第一人者と言われるほどの実力は、防御破壊や建物への与えるダメージは非常に高い。弱点をよく知っているからだ。
造形魔導師は黎明派という派閥に多く所属していて、レーゼもまたこの派閥に所属している。
その理由は一旦置いて、イズは幽玄派という派閥の創設者であり、その力がパワーバランスを崩すほどに強すぎるので派閥を抜けざるおえなかった経緯があるとはいえ、黎明派とは違う派閥には変わりない。
ウィンフィル学閥という幽玄派が多く所属する学閥――派閥は魔導院における予算分与を決める時の“アプローチの仕方”での枠組みであり、学閥とは何を重点的に勉強研究しているかという“研究テーマが似通った”者の集まりを指す――もあるのだが、レーゼは別にイズが率いる学閥に所属しているという訳でもない。
では何故、レーゼは派閥も違うイズの要請に応えたのか。
これは単に勇者の情報というメリットがあったから、というだけでは受けられない要請だ。
最悪派閥の長に「抜け駆けしたから派閥を抜けろ」と言われても仕方ないほど、派閥を跨いでのやり取りというのは嫌われる。まだ学閥が一緒なので、と言い訳ができればいいが今回は当て嵌まらない。
たとえ千年以上昔から生きてる偉人であろうと、派閥を超えた要請というのはそれ程までに“あり得ない”ものなのだ。
仮に「派閥が違うので、もし要請があるなら閥長を通してお願いします」と門前払いをされても文句は言えない。というか言ったら決闘騒ぎに発展したケースが多々あるので暗黙の了解という感覚か。
そうなった理由というのがまだ魔導院が出来たばかりの頃、イズが他派閥の研究生を引き抜いて決闘騒ぎになった事が起因しているのだが、まあ詳しくはまたの機会に。
そんな過去もありイズは色々と嫌われている。そのイズからの要請に応えたとなれば、派閥から抜けさせられるのであれば穏当な処置、最悪過去のように閥間紛争に発展しても不思議はない。当然そんな事態を引き起こせば、そのきっかけであるレーゼは皇帝直々に死罪を言い渡されるだろう。
では彼女はその危険性を呑み込んでまでして、イズからの要請に応えたのかというと当然ノーだ。
彼女が応えたのは政治的理由から。決して『魔導院の教授イズ・ウィンフィル』からの要請に応えたのではなく、『魔導国皇帝ヒルデガルド・ハインリヒ・リヒャルト・フォン・クラウゼ=グラウカッツェ』の命令によって“勇者の観察”という名目の下にイズのところに来たのだ。
それがたとえイズが皇帝に相談した結果であろうと、皇帝の命令に従った形なのだ。
そう、レーゼに集合場所と日時を書いた手紙を送った後に皇帝に相談したという順序だったとしても、それは皇帝からの命令だ。
レーゼが手紙をもらって「あ、これ皇帝から命令書がくるパターンか」となって、相談を受けたクラウゼ現皇帝こと定戦帝が「命令書の定型分ってなんだっけ」とぼやきながら書類を探したとしても、表向きは皇帝の命令なのだ。
まあ横車を通した形に近いのは事実だが、そこはレーゼの今後の立ち回り次第で変わる。
まあもしかしたら、イズが魔導院に寄った時にでも決闘騒ぎに発展するかもしれないが、よっぽどヘマをして最悪の結果を引き寄せたとしても個人間での戦いで収まるだろう。
もし閥間紛争なんかが起きたらモンスターの大量発生なんて目じゃないほどの被害が出かねない。そうなったらストレスで皇帝が胃潰瘍になる悲劇がまた一般人の間で流行ることは想像に難くない。
表向きレーゼは皇帝の命の下に勇者アルテミスと行動している。
ならば体裁を整えるために仕事をしないといけない。具体的には勇者アルテミスの性格・能力・趣味・行動原理といったプロフィールの作成だ。
そういうマニュアルがあれば良いのだが、普通の人ならば通じるはずのプロフィール表も勇者の特殊性の前には、無力とはまではいかないが力不足。備考欄に書くべき内容が多かったり一つの欄が異様に埋まったりと、美しくない資料が出来上がる。
ゆえにプロフィール表は書く人によって変わる。ただ先述の性格・能力・趣味・行動原理の四つは書かないといけない。
その他の面は個々人に任せるが、各国の勇者との関わりがある人物は報告書の提出義務があるし、その報告書を纏めたプロフィール表を主要人物がそれぞれで作り上げる。イズはもちろん、メーア神聖国の聖女や騎士団長に教育係と他数名がプロフィール表を作っていた。
もうそろそろ勇者アルテミスが召喚されて一年半が経つ。それはつまり、勇者のパーティーメンバー加入の期限が近いという事。
以前イズも人気ディーラーのレーツェルに愚痴っていたが、パーティーメンバーは勇者の心理的な面での支えになるので必須なのだ。もしパーティーメンバーが二年経過してもいない場合、それは召喚国の責任問題になる。
なので召喚国であるメーア神聖国は必死に各国にプロフィール表を送りつけて、良いパーティーメンバーがいないか探している。
察しが良ければ分かるだろう、レーゼは帝国のお勧めする――実情はイズの推薦なのだが――勇者のパーティーメンバー候補なのだ。
他にも候補はいるのだが政治的な柵があり、それらを全てイズが無視した結果レーゼが選ばれた。
例えば次期皇帝候補でありその箔付として実力も教養も性格も良いシュタイン辺境伯家の長男(先日家出して行方不明)とか、払暁派閥の中でも屈指の実力者であり勇者アルテミスと性格が合うと思われてるツェッペリン卿(キフルランドで遊び過ぎて勇者が飛行船から降りたことを知らない)とか、婿探しの旅を兼ねて勇者の仲間になりたがってるが同性愛に目覚めたらいけないと親に止められてるシュヴァルツ侯爵家の次女とか。
他にも居るのだがイズ的にはまとも――他の候補者に比べれば――なレーゼに白羽の矢が立ったわけだ。領地持ち貴族だからといえど一〇年やそこらなら一時的に皇帝直轄領にして管理すれば良いのだから、横車を通すのが楽ではあるのだ。
とはいえ、当人がその気にならないと意味がない。義務感から仲間になられては勇者もレーゼも損しか被らない。
過去に政治的理由から勇者の仲間になった者も少なからず居たが、今推奨されていない事から分かるだろうが色々あったのだ。裏切りハニトラはもちろん、自身の敵対勢力に勇者をぶつける者、珍しいのだと勇者を犯罪者に仕立て上げて奴隷にしようとした者もいた。
お互い監視できるので各国から一人ずつバランスの取れた勇者パーティーを作るのが理想的、というのは共通認識だが各国のお偉い人が出し抜きたいと思うのはごく自然な事。
魔導国も例外ではなくイズが皇帝に相談した折に挙げた名前はレーゼのみだが、候補が増えてる時点で数打てば当たるだろうという考えが見え透ける。
そんな数ある一人でしかない、しかし現状一番勇者に近いレーゼは今プロフィール表の作成の真っ最中だ。
「え〜、私ってそんなに魔術下手?」
「ええ、三級魔術師試験にも受からないでしょうね」
それも本人の目の前でだ。
これは別に悪いことではない。というか勇者によっては隠れてコソコソやってる方が悪い印象を与えかねないし、勇者というのは誰もがバグってる性能をしてるので隠し通すことが非常に難しい。それこそ魔導院の教授という世界的に見ても上澄みの実力者であっても困難極まるのだ。
それは推測であったり、勘であったり、感覚器官での感知であったり、様々だ。勇者ごとに違うので対策する意味が薄いのだ。
だからといってプロフィール表の全てを見せている訳ではない。本人が隠したがっている性癖や過去なんかは、見せないように細心の注意を払う。
そういう部分は飛び抜けて強い人が書いたり、シャッテン商会のプロが書いたり、国お抱えの隠密部隊が書いたりと、その道で生きるような連中が書く。
まあそれでもバレる時があるのは勇者がバグってる証拠だろう。
「三級魔術師試験ってどんな感じなの?」
「冒険者ギルドで出来る試験で、種類・強度・理解度を実技と筆記で測る感じかな。まあ大したことないよ」
「ヨヨヨ、大したことない試験に受からない私って」
イズの三級魔術師試験が大したことないという発言は正しいし、レーゼが合格すらできないと言った評価も正しい。わざわざ口にヨヨヨなどと言ってるアルテミスもそれは理解していた。
氣術が得意なアルテミスは魔術との相性は悪い。氣術に使う氣は魔術を構築する術式を霧散させてしまうからだ。
術式を霧散させないほど氣と魔力を扱う技量があるならば魔術を使えるだろうが、それはレーゼですら出来ない超高等技術。魔術の天敵たりえると有名な術を魔導院の教授が対策として身につけていないことがその難易度を物語っているだろう。
アルテミスは魔術と氣術を同時に扱うことをやめ、勇者であるスペックによるごり押しで魔術と氣術を使い分けている。
『氣術を使える=魔術が下手になる』という図式は基本的に誰にでも当てはまる。魔導院の教授たちが氣術を知ってはいるが習得しないというのはそういう理由も大きい。
「ところでその三級魔術師試験に筆記テストあるの?」
「あるから受からないって断言したのよ」
その言葉に少し傷ついた様子だったアルテミスも納得したようだ。
いや納得するなよ、とはイズもレーゼも思うがアルテミスの今までの学習能力を考えると言葉が出なかった。実際のところ筆記テストが問題無ければ魔術の実技テストを合格出来るだけの実力はあるからだ。
まあ勇者であるアルテミスは三級魔術師の資格を持っていてもメリットはほぼない。せいぜい自分は魔術が得意です、というアピールにしかならないのだ。
「魔術は学問だからね。才能がないと使えないけど、使えるなら勉強次第でより上手く強くなれる」
「やっぱり氣術を選んで正解だったね! 魔術なんてファンタジーで憧れてたんだけど、弱かったらロマンも何もないし」
第一八話 魔術と氣術の両立は理論上不可能ではない。
アククセス数ガタ落ち。
いったい何が悪かったのだろう……。やっぱ流行りに乗っていないからかな。単純に下手だからってのも大きそう……
気長に待ちますか。




