やって来ました魔導国 04
日常を書くのって難しいっすね。。
多めに見てほしいです。
ではどうぞ
吟遊詩人の腕前などほとんど理解出来ていないながらも知らない話を聞いて楽しめた勇者アルテミスと、既に数十回は聞いた話ではあるが吟遊詩人の腕前とBGMによって楽しめたレーゼ。
その二人はイズに出立の準備をするよう言われ、街を歩き回っていた。
昨日のこともあって盛り上がっているが、アルテミスは昨日の詩の続きを聞きたかったと後悔しているし、レーゼの内心としてはこの勇者はろくに買出しも出来ないのかと呆れを通り越して納得すらしていた。
そんな女らしいと言えば各方面から叩かれそうな雰囲気の中、二人が入ったのは小道具屋。
イズは「旅に必要だと思う物を買ってきて」と実に大雑把な指定をして宿の前で解散したのだ。使っていいのは五デナリウスまで、という一般人からすれば非常に高額なお小遣いなのだが……ここにいるのはキフルランドで金銭感覚が狂った二人。
まあ昔はともかく今レーゼは魔導院の教授、それも領地持ちの貴族なので一般的な金銭感覚は非常に薄いか。
もちろん二人にお小遣いを渡したイズとて最高位の冒険者で、魔導院の教授、さらに言えば長命種特有のいつの時代だったかの特需景気時のイカれた金銭感覚まである。持ってる資金も二人とは比べるべくもないほどに差がある。
それでも一デナリウスを“そこそこ高い金額”と認識できる程度の常識はあった。
だから二人の金銭感覚を一般的な程度にまで落ち着かせるために買い出しを頼んだのだ。アルテミスは勘で、レーゼは貴族との付き合いによる経験から、まずその辺の輩に騙される事は無いと踏んで。事実、二人は騙される事態には陥っていない。
ただいかんせん“何が必要か”が分かっていなかった。
アルテミスは今まで準備はイズがやってくれていたので、レーゼは貴族用の馬車や旅籠を経由していたので準備などほとんど必要が無かったのだ。
食料や水? 旅籠で買った食べ物を空間魔術が施されたマジックポーチに入れとけば問題無し。水なんて魔術で生み出せばいい。
焚き火や寝床は? 暖も魔術で大丈夫、寝床は旅籠で。
魔物に野盗なんかは良い的扱い。馬車を引く馬は軍馬の血筋の一級品。強いて挙げれば武器や防具くらい。
そんな訳で、彼女たちは何を買うのかわからないでいた。
まだレーゼは食器や長持ちする食べ物を買っていたのでまだマシだろう、アルテミスは広場で演奏を聞いてお捻りを出していたのだから。レーゼが呆れを通り越すのも無理はない。
だがこの小道具屋に来ていたのは背嚢が欲しいからとか、薪が欲しいからとか、長靴――この時代では厚い布を足に巻く足袋のような物が旅には好まれる――を買いに来た訳でもない。
単純に綺麗な手袋があったから買いに来ただけである。なんの魔術的効果はないのだが、その装飾に何やら擽ぐられるものがあったらしい。手袋は戦闘用にも使えるようにとグリップが効いている代物だったらしく、一デナリウスと二〇アスというそこそこの値段だがあっさりと購入を決めたようだ。
一応言っておくが銀貨は非常に高価だ。食事――パンと具なしスープ――付きの宿一泊で二〇アス程度、素泊まり雑魚寝なら二泊で五アス。昨日の不動の旋律亭は一泊七五アス以上だが、これは少し高めの料金設定だ。
街の屋台なんかで売られてるホットドッグは大体一個七アス程度、この音楽都市だと一〇アスくらい――田舎に行けば五アス以下――の価格設定だ。ケチャップがかかってるホットドッグ二個分、もしくは野菜を適当に入れた粥とパンを一食分と考えれば約一〇〜一五アス。
一日を暮すのに二五アスあれば凍死の危険無く生きていけるのだ。
冒険者の収入はピンキリ過ぎて何とも言えないが、一日四〇アスもかけたら“まあまあ”な贅沢という認識だ。
つまりは三日間“まあまあな暮らし”をする金額がイコール手袋と同じ値段であると考えれば、この手袋の異常さが伝わるだろうか。ああ手袋は高いが素材やら加工技術やらを加味すればちゃんと適正価格、いや値切りが前提だと考えれば安い方だ。
とはいえこの手袋を作ったのが小人種だと考えれば、値切りすれば売ってもらえない可能性が高いので値段は変わらないだろう。
値段相応の性能はあると言える手袋は、確かに実用性と見た目を高い水準で兼ね備えてる良い商品だ。
だが旅の準備をしろと言われて買う代物では断じてない。
勇者アルテミスに手袋が必要かと聞かれれば不要、とまではいかないがほぼ要らない。槍――というには特殊過ぎるが――を扱うのにこの手袋は役立つだろうし、見た目もお洒落なので普段使いもできるだろう。
ではレーゼはどうかと聞かれれば不要どころかむしろマイナス面が大きいだろう。仮にこの手袋に魔術をかけて魔道具の一種にしたとしても、貴族として見れば貧相な物だ。面子を重視する貴族からすれば貧相な物を身につけているというのは格好の責める要因だ。
そう例えば「おや、魔道具がお好きでしたか。どうです、良い職人に紹介しましょうか」とか、もっとストレートに「見る目はあったかと思ってましたよ」みたいにチクチクと煽られるハメになるのだ。
たとえ人目に付かない場所のみで使っていても何処からか情報が漏れて口撃の材料にされる。そんな非常識がまかり通るのが貴族、というかそういう情報戦をしない方が悪いという風潮すらある。
まあその辺を考える余裕があったので、アルテミス用に一双だけ買い小道具屋を見て回るにとどまった。
だが客観的に見てアルテミスにとってほぼ不要な代物だというのは変わらず、高価な買い物をしてしまうのは金銭感覚が狂ってる証拠と言えよう。
キフルランドで遊ぶ前はカルカルの実が現金払いとコインとの交換とで二〇アス違い、キフルランドで稼ぐぞ! と意気込んでいたというのにこの変わり様だ。
イズも心配になって買出しを頼むはずだ。
そんな数日前のことをすっかり忘れている女性二人はというと、
「良い買い物だったね!」
「天駆山羊の革はしっかり手入れすれば長持ちするから大事にすると良いよ」
実に暢気なものである。
いやレーゼは目的を覚えているが何をすれば良いのか分からず、アルテミスが完全に忘れているというのが正確な表現か。
二人を庇うような言い訳をするならば、マジックポーチという存在が便利過ぎるのだ。容量に制限はあるし時間が止まってたりはしないが、一週間分の腐りにくい食料を入れれば馬車に乗せれない程に場所を取る物がポーチ一つで収まる。
デメリットは容量制限と入手の難しさ、あとは入れた物を取り出すのに時間がかかるくらいか。入れた物のリストが無いと大変な目に遭うが、液体だって入るのだから便利さが勝つ。
容量制限だってマジックポーチ事態の性能にもよるが、最低でも六畳の部屋くらいは入る。
最安値のマジックポーチでそのくらいなので、勇者という肩書きから高品質とまでいかないが中程度の物を持つ必要のあるアルテミスが持っているのは、大体一戸建て住宅が丸々入るくらいの広さか。
物流が乱れるだろと思うほどの代物だが、そんなに多く存在していないので大きな問題はない。せいぜいが魔術との組み合わせでリアルに一夜城が建てられる程度で、それも中堅国家が一丸となっていないと難しい。
だが勇者という立場上建築物質が必要になることもあるので、この程度の大きさのマジックポーチ一つは必須となってる。
まあ単に旅をするには過ぎた物だというのは変わりないが。
そんな代物に腐らない食材や長期保存ができる食料が入っていて、さらには魔術薬や綺麗な布なんかまで入っているのだから何を買えば良いのか分からなくなるのも当然(多分)。
加えて旅のほとんど初期から持ってるともなれば“あるのが前提”として、それありきの行動になってしまうだろう。
ちゃんとアルテミスはマジックポーチに何が入ってるのかリストにして保管してるし、何日後に食料がダメになってしまうのかなども把握してる。場所が分かる発信機的な魔術もかかっていて、さらには本人以外には使えないような魔術での防御も施されてるので無くす心配も盗られる心配も要らない。
マジックポーチの中にはメーア神聖国からの贈り物として魔石――魔物や魔獣からのみ取れる魔力の石――で起動できる結界装置があるので、野宿であっても外敵から身を守ってくれる代物まである。
もっとも後者は訓練にならないとしてイズに回収されてるので、活躍したのはこの世界に来て数ヶ月だけだったが。
貴族宛らの潤沢な物資でこの世界の旅に慣れていない勇者アルテミス、そしてもう何十年も一般的な旅に出ていないで裕福な貴族のように野宿など久しくしていないレーゼ。
この二人に普通の買出しを頼む方が間違っていると言えよう。
もっとも、これらは全て言い訳にすぎない。
「それで? 一刻も買出しに出て買ったのは食器と干し物にその手袋、と。そういうことで良いのかな?」
ここに来い、と場所だけ知らされた手紙鳥――紙を擬似生命化させて織った鳥のように飛べる手紙、魔導師同士では普通の連絡手段――に記された場所に向かって何を買ったのかを聞いたイズの反応である。
レーゼはそりゃ怒るよね、と理解しつつも納得はできていなかった。買出しなら物を指定してよ、と思っているのだ。
一方のアルテミスはそもそも買出しだった事を忘れていた。
手をポンっと叩いて「そう言えばそうだった!」と反応したのを見て、イズは監視役を兼ねて付き添わせていたレーゼを睨んだ。と言っても本気でアルテミスをどうこうできるとは最初から考えていなかったが、まさかレーゼが全くストッパーの役割を果たせないとは……あんまり思っていなかったのだ。
薄々は止めることはできないだろうな、とは思っていた。自分も制御するのが最近になって漸く出来るようになった暴走娘を、こういう相手と関わる経験が少ない元商人現貴族のレーゼが熟すことを期待する方が酷というもの。
「じゃあ質問を変えよう。二人は旅をする上で何が必要だと思ってる?」
「水と食料とテント!」
「ええと、食器や調理器具でしょうか」
とはいえ、とはいえだ。
まさか飛行船に乗るまで旅をして来て経験のあるアルテミスと、元商人として商隊に参加していたレーゼ、その二人が揃って防寒装備はおろか替えの靴や服などの基本的な物すら挙げられないほどに、旅について知らないとなると誰が予想できようか。
そしてこの程度の認識なので、今挙げた物は全てマジックポーチがあれば買出しも必要無いと判断したのだろうとイズは想像ができた。何を買うのか分からないからとりあえず“それっぽい物”を買ったのだろうとも。
買う物リストを渡すべきだったかと考えるが、この程度の買い物で既に二デナリウスも使っているとなれば五デナリウスをオーバーしてしまうだろう。
子供のお使いならば余ったお金は懐に入れて良し、としてしまえば考えながら安く親が納得する品質の物を買ってくるだろう。
だがそれはお釣りが欲しい場合に限る。銀貨をそこまで欲しがっていない彼女たちでは、残念ながらその手法は効果を発揮しない。むしろ金が足りないとか言い出しかねない。
八〇アスの干し物は高過ぎる。おおかた貴族向けの商店で買ったのだろうとレーゼに聞けば、缶をマジックポーチから取り出した。
缶を見ればヴォルフ商会の文字が書かれていた。
それを見たイズは瞑目し、ため息を飲み込むようにクルクルと回していた煙管に火を付けて吸った。その少女のような見た目からは想像がしずらいが、こうして煙管を吸っている姿は違和感などなく頭痛を堪えてる苦労人という様相を感じさせる。
そしてたっぷり一分間、煙管に詰めた吸い殻を燃やし尽くして目を開ける。
「旅に必要なのは食料や水だけじゃない。着替え、靴、薬、天幕、寝具、布、薪、まあ基本的にはこのあたりが普通か。中には桶や小樽も必要という連中もいるが、まあ多数派ではないかな」
「え、じゃあ私たちは何を買えばよかったの?」
「布と薬、あと着替えと靴が今は足りないね。靴と布に関しては僕が用意しておいたけど……まさか整腸薬すら買っていないとはね」
この世界での旅では整腸薬は必須アイテムだ。
ポーションとは違うこれは中軽度の毒なら耐えられるようになり、旅先で食料が傷んでたり、その辺の果実を食べても安心、という超便利アイテム。
魔術薬の一種だが非常に安く、割高だが宿屋にも売ってるし、薬屋にも当然ある。確実に安定した安い値段で売っているのは衛兵の詰所で、都市や街から出る時に買えるように大量に保管されている。少なくとも魔導国では法で一定数以上派確保するように定められている。
街が魔物によって破壊された時なんかは特に悪くなった物を食べないといけない状況になりやすく、先日アルテミスが救った街――第一話と第二話冒頭の街――だってこれを服用した上で食事をしていた。
それほど有用で重要な代物なので、品切れを起こさないために常時生産されてるし、需要が常にあるので貯まりすぎる事もない。
調合した者の実力によってどの程度体に害があっても大丈夫なのか決まるので、その辺の見極めをレーゼに期待していたのだが存在自体を忘れていたらしい。
「これからは旅に必要な物リストも渡しておくか」
「おお〜、それ良いね!」
「自分で書くんだよ?」
レーゼは自身のした大ポカがショックだったのか、三人で再度買出しに行く最中も沈んだ雰囲気のままだ。一方のアルテミスはへこたれていないで元気だ。
対照的な二人を連れているイズは、さてどうしたものかと考える。
正直なところレーゼがここまでポカをするとは思っていなかったのだが、それが良い傾向なのか悪い傾向なのか分からなかったのだ。
教授となって二〇と数年、たかがその程度で少女であった時代の教えを忘れるものか? 貴族として暮らしていようと幼い頃の価値観を全く引き摺らないものなのか?
「……勇者か」
少なくとも以前魔導院で会った時はこんなではなかった。
第一七話 三つ子の魂百まで、というのはこの世界でも通じる
この世界だと腐った物を食っても薬で治すのが当たり前です。
流石に毒は種類ごとに薬を作らないといけないんですが、イズがポーションを開発して以降は脳筋探知が主流になりつつあります。そのせいで少ないくない冒険者が死んでるんで推奨はされていないんですがね……
考えずに済む方法というのは魅力的なようです。
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それとストックが切れたので不定期更新になります。
ある程度エピソードが貯まったらまた水土日と投稿すると思いますが、不評ぽかったら改訂版出すと思います。




