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やって来ました魔導国 03


吟遊詩人の語りシーンをなぜ書こうと思ったのか……

読みにくいと思いますが、まあ読み飛ばしてもストーリー上は問題ないはずです。


ではどうぞ。




少年(イズ)が開けた窓から入った風で資料が吹き飛んで集めるのに四苦八苦している頃、不動の旋律亭に併設されてる食堂では多くの人が吟遊詩人の詩を楽しもうと集まっていた。


この為だけに食堂を利用しようとする者も少なくないが、宿泊客以外にはこの時間帯は食堂には来れない。


宿泊を促すことで着々と吟遊詩人のブランド力を高め、ここ最近では不動の旋律亭で詩を聞くのが上流階級の者達の間で流行ってきたほどだ。その上一つの詩を聞いて終わりではなく、「〇〇という詩よりも××の詩を聞きながら飲むワインが良い」などと感想を話す(マウントを取る)のが流行りなのだから長期滞在しないと流行りに乗り遅れる。


そんな長期滞在の客のおかげで安定した収入が得られてる不動の旋律亭だが、もちろん流行りに頼ってるのではなくちゃんと全ての水準が高く貴族でも満足できる宿となっている。

そして特に高水準なのが吟遊詩人の一席、という事だ。



今日の一席で謳われるのは有名な詩。


この世界の住人には農民から貴族まで知らない人はいないほど愛されている詩、その準備を詩人は六弦琴(ギター)の調律を皆の前ですることで知らせる。


調律は音を合わせることを目的としたものだが、同時に周囲の人に一席設けますよ、と知らせる意図もある。この吟じる前の調律を人前に来てから行うのには他にも理由があり、その詩人の腕前を宣伝したり詩の内容を知らせたり食事や飲み物を選ぶ時間を担ったりと、勇者の世界でいう映画前の予告映像にも似た効果をもたらしてる。


あいにくとポップコーンはこの世界ではない――似た物はあるが原材料に毒があるので、一部の種族しか食べられない――が、酒やジュースは色々とある。この調律の時間に飲み物や軽食を頼むのは一般的で、宿(食堂)にもメリットがあるので吟遊詩人が雇用されてることも珍しくない。

現にここにいる者たちも各々飲み物を頼んで、吟遊詩人が謳うのを待っていた。




「えー、今宵謳うのは皆様ご存知“冥界に咲く泥戒華(でいかいが)”のお話。どうぞ酒のお供にお聞きください」


詩の導入は話の名前でもある泥戒華の逸話。


曰くその華は美しく撫子色をしているという。奇妙にも泥の中にしか咲かず、そのために滅多には見つからない華。


見つけるには泥から僅かに出る蔓や葉を辿らなければならず、しかしその葉に触れれば忽ち魔力を吸われて最後には死んでしまうという恐ろしい華。


ただその華を燃やして出した煙に身を委ねれば死人が生き帰るという。


他にも似た効果を持つ華はあれど、その華を使って復活した存在が未だ存命というのはこの話を除いて無し。無論その様な物が多少の艱難辛苦で手に入れば話にならず、その試練ともいうべき泥戒華を手に入れるまでの話もまたありきたりなハズも無し。


「実はこの華、この詩が広まるまでお伽話にもなっていなかったという。それもそのはず、かの門番が黙していたゆえ。そしてご存じの通り、かの門番がうっかり話す笑い話から物語が動き出します」


この音楽の都ができるより前、百を五つ六つと重ねた年月に帝都よりしばしの場所にてある鬼が村に訪れた。


その日は年に一度の収穫祭、秋の実りをその手に取り、重さを計りて一喜一憂。

冬を如何して超えるか悩む者、酒が飲めると笑う者、踊り明かせと楽しむ者、露店を歩いて冷やかす者、酔いに任せて懐を軽くする者、実りの影で紐を緩ませる者。


この日は楽しく騒いでいれば、一人の小柄な鬼が宴だと酒樽を奢ると言い出した。


村に鬼はいないと訝しめば、露店を敷く商人のまとめ役の商隊主が護衛だと言えば疑いは無くなり、金貨を商人に渡せば猜疑は酒とともに消えた。


樽を出した鬼と飲み比べをする男衆、酔った旦那を放って飾りを買う女衆、いい雰囲気を察して菓子をねだる子供達。


そこに商機を逃すまいと商人が口を開けば、収穫祭は火に油を注ぐがごとく熱を増していく。


あらかた鬼が酒にて潰した頃、珍しきことに魔女医(ウィッチドクター)の弟子として働いているという一人の男を酒を携えてやって来た。その身分に見合わぬ薬酒を手土産に、旅する先でこんな話を聞かないかと。


男が言うにはその村は薬草が採れるので魔女医が居るのだが、その魔女医の知識を持ってしても知らぬと匙を投げる不思議な植物がまま見つかるのだと言う。さらに不思議なのはこの魔女医、魔導院の教授の弟子だったこともあり情報を集めたのだとか。


その伝手もあったおかげか他の場所にもある植物の多くは書庫に入っていたそうだ。これだ! と分かったのは多けれど、不完全ながらも分かったものもあったけれど、一つ「全く分からぬ」と教授先生の地位と知識と伝手を持ってしても完全に謎に包まれた植物があったらしい。


これには魔術に詳しくない者でも驚こう。


魔導院の教授ともなれば大抵のものは知っている。当然知らぬ事もあれど、「全く分からぬ」となれば沽券に関わる話になろうゆえに。

なればあらゆる手段を使い一部のみであれ解明せんと必死になる。


こうなれば時間はかかれど分からぬ物は、無いとは言わないが数える程度。そのほとんどが勇者文明と名付けられてる今より遥かに高い文明を持つ古代の遺跡であり、その他だとすれば……と男は話を止めた。


話を聞く鬼とてこれには驚き、男衆を潰した時も止まらなかった酒を注ぐ事を止めていた。そして酒精によって滑らかになった思考を回せば、さすがは鬼というべきか空回りすることなく結論を弾き出してみせた。


『操氣術の分野か!』


膝を打って言えば、男も我が意を得たりと頷いた。


男は鬼を霊鬼族と見ていた。青鬼にしては肌が透き通るようにあり、巨鬼にしてはヒト種の少女ほどの高さではあり得ない。かと言って角鬼にしては筋肉が少ない。


いかに珍しい種族とはいえ男は魔女医の弟子、霊薬を作る腕前は魔女種にも並ぶという霊鬼族を知らぬはずもない。


不相応の薬酒を手土産にしてまでこの話を持って来たのは、その霊鬼族の知識を知りたいがゆえ。「魔導師がダメならば龍種か巨人種か鬼種に聞け」とも云われ、運が良いことに霊鬼族に出会えたのだからこの機を逃さぬように話しかけたのだ。


そして霊鬼族の鬼もその理由を察してみせた。しかし鬼は鬼、いくら興味をそそられようとも護衛を途中で降りるような筋の通らない真似はする訳もなかった。


護衛が終わってからならば協力もできるが、今は収穫祭が各地で行われる時期。鬼の護衛の仕事は始まったばかり。


すまぬが力になれぬ、と断りをいれれば男は仕方なしと残念がる。


「ここで話が終われば物語も終わり。されどここからが男の妙技、鬼を出し抜く一計を仕込んでいた! それは残念、どうぞこの村を忘れてしまわぬようにと男はさらに薬酒を持って来た! さあさあ一献傾け下さいと瓶に入ったそれをトクトクと注ぐ。僅かな香りは晩夏を思わせる癖が無く、上質な酒精は喉に熱を帯びさせ後に響かぬ。おお! 魔術の掛かった酒か、と鬼は瓶から感じる独特の雰囲気に感嘆をあげた」


そんな上質な魔術酒を振る舞ってもらえば気分も良くなるもの。次々と注がれる訳でもなく、肴の代わりに男は修行の日々を話せば鬼も応えて話が弾む。


やがて一刻も飲み続ければ酒瓶が大きくとも無くなるのは必然。


酒瓶が底を突きそうな時男は言った。


『鬼に酒が尽きるまでもう少し、それまでに少しでも知恵を貸してはいただけまいか?』


ここを断れば器が小さかろうと鬼は笑いながら頷く。


鬼のこの身なれば、たとえ明日か今日か分からぬこの時から飲み続けようと、酔いで戦いに影響を与えることはなし。断るハズもなかろうよ。


ならばと男は魔女医から習ったという植物の扱いを聞く。それは幽結晶の華のことから始まり、実に魔術薬を作ることを生業とする魔女医らしい話題を成功から失敗まで様々に語る。


鬼はそんな時期もあったと助言をしながら酒を飲む。酒瓶を見ればあと十杯かと注いで、男の話を促す。


さらに何杯か飲んだ頃に男は魔女医から課題を出されたと言う。その課題はかれこれ一年以上は取り組んだいるが未だに一片の光すら見えぬとボヤく。


そんな男に驚いた鬼はなんだなんだと興味を惹かれた。それもそのはず、男の話す失敗談からおおよその魔術薬を作る腕前が高いことは分かっていたのだ。それほどの者が光の一片すら見えぬと言うならば、さぞかし楽しい話であろうと。


曰く、葉に触れれば忽ち魔力が吸われてしまう植物を使った煙草を作れという。


鬼はそれを聞き、はてそんな植物あったかと考えた。


樽に入った酒にそこらに転がる幾つもの酒瓶、それほど飲めば土人種(ドワーフ)であろうと前後不覚になるだろうがこの鬼は少しもふらつかない。

少し厠にと席を外しながら酒が滑らかにした頭を叩いてみれば、おお一つの植物があった!と思い出す。


席に戻れば気分良く鬼は口を開いた。


『思い出したぞ。たしかそれは泥戒華といってな、葉だけを泥から出して他は泥の中。地脈の集まる場所の沼にしか咲かぬから、見つけるのにひどく苦労した記憶がある』


それを聞いた男は魔女医の師の意地の悪さを嘆き、何処に行けば良いのか助言を頼んだ。


『過去の例であれば迷いの森か、近場であれば幽世洞だろう。運が良ければダンジョンの深層にあるハズだが……聞かぬな』


そして酒瓶を傾ければ丁度一杯分の酒で終わり、男は助言感謝いたすと懐から小さな瓢箪を渡して頭を下げた。この瓢箪はお礼ですと加えれば、徐に鬼は瓢箪の栓を抜き一嗅ぎすればさらに上質な酒の香り。


そのまま酒瓶を回収して帰ろうとする男に、この瓢箪は些か過剰な礼だと思い、されど瓢箪を突き返すわけにもいかず、礼を尽くさねば霊鬼族が廃ろうと鬼はさらに口を開いた。


『幽世洞には冥界へと繋がる細道があるという。思うに地脈龍脈の集積地である冥界ならば、確実に泥戒華があろう。あそこは泥も多いぞ、魂の方が多いがな』


これで礼は十分かと思い、頭を再度下げた男を満足気に見た。


そろそろ見張りの時間にもなると思い鬼は瓢箪から一口飲み村の入り口に向かう。今日の夜は飲み明かそうと干し肉を肴に、瓢箪の美味い酒を飲み過ごす。



夜が明ければ収穫の続きをするべく村人達が出てくる。


商人達はそろそろ出発かという時、鬼は瓢箪から酒が一向に無くならない事を不思議に思っていた。世にいう魔道具とやらかと思えば納得もいこう、されどこの瓢箪の雰囲気がどこか覚えがある。


『ああ!』


唐突に大声を挙げて、昨夜のことを思い出した。


鬼は魔術を雰囲気で読み取る。思えばあの魔女医の弟子という男が最後に振る舞った酒瓶と同じ雰囲気ではないか!


「まんまと魔女医の弟子を名乗る男に乗せられた鬼は笑った。あの男は上質な魔術酒を飲ませて恩を売り、酒瓶に施された酒が湧き出る魔術でもって鬼との話す時間を伸ばしたのだ。そして話術でもって興をのらせ、最後により上質な酒が出る瓢箪を渡す事で返礼を期待したのだ。鬼は貴重な植物の話をしてしまい、その上更なる助言を渡してしまった」


「されど鬼は怒らず笑った。見事なり! そう男の妙技を讃えて瓢箪から一口飲めば、次に考えるは男の未来である。場所を知ろうと先に挙げた泥戒華が咲くは非常に難しい場所ばかり、一体如何にしてあの華を得ようとするのか」



これにて物語は一度終わり、次なるは第二部。




「ご静聴ありがとうございます。酒に潰されてしまい怒られる男衆の様にならぬよう、今日はここまで。酔い潰され寝てる中、自身の財布から飾りを買われぬようにお気をつけて」


詩の中での男衆と女衆の話を出して終わりを告げる吟遊詩人に、お駄賃と少なくないお捻りが投げられ終幕となった。






続きは明日、と言われても困る。


「レーゼ先生、たしか明日出発だよね?」


「まあそうだね」


と、私の言いたいことが理解出来たのかレーゼ先生はどこか気まずい雰囲気でワインの入ったグラスを回す。


吟遊詩人というのは何部か話を分割して何日かに分けて謳う。純粋に話が長いと飽きられるというのもあるし、お捻りをもらえる回数を増やす狙いもある。あとは声を上げるので喉が枯れないように、とかだろう。その辺の事情はイズから聞いていたので知っている。メーア神聖国でも吟遊詩人の詩はまあまあ聞いていたので、そういう代物なんだと知っていた。


皆様ご存知、と言うからには何処か他の場所でも聞く機会はあるだろう。


だけどこの宿は音楽都市の高級宿だからか、吟遊詩人の弾く楽器の音や声が聞こえやすくする設計になっていて、さらには吟遊詩人一人だけの楽器演奏ではなく邪魔をしない程度にBGMがあるのだ。


吟遊詩人の良さを引き出せれる宿はここくらい。


そうレーゼ先生は褒めていた。実際楽しかったし、ただ村でのやり取りを謳っただけなのに惹き込まれる魅力があった。


だからこそ、


「続き聞きたかったな〜」


これにて終わりというのは受け入れ難かった。








第一六話 BGM付きの詩が聞けるのは魔導国では数えれるほど




補足として、操氣術とは魔術とは全く違う術のことです。亜人種ならば簡単に扱える『氣』を使う術で、特に鬼種は魔力の代わりに氣を持ってるので操氣術が上手いのです。

魔種や精霊種にはほぼ扱えないのがミソ。



前話での補足ですが、何を書くのか忘れたのでちょっとした設定を。

メタ的な考えで言うとモンスターは神話生物です。ただ著作権の問題で名前は言えないのでその辺暈してるんですが、モンスターのことをアルテミス派この世界に来る前から知っています。もちろんTRPGをしていたから、ではありません。


まあ理由は言えませんが、『何故この世界に神話生物と全く同じ者たちがいるのか?』という部分にも繋がります。

つまり物語後半で明らかになっていきます。



どうぞ気長にお待ちくださいませ。


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