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やって来ました魔導国 02


体調崩して色々とおかしな部分を見逃してる可能性があります。ご容赦ください





魔導型飛行船という本来なら物語(ゲーム)の終盤になってようやく解放されるはずの移動手段で、勇者アルテミスはメーア神聖国のある縦断大陸からグラウカッツェ魔導国へと場所を移した。


さて、飛行船という物が普及して――まだ金持ちしか利用できないが――から千年以上経つこの文明で、勇者というのは歴史の特異点として認識されている。大きな戦争が起きたり終わったり、数百年に一度というはずの現象が起きたり、国が滅んだり興ったり……と様々だ。


勇者には異世界から召喚される者と、現地で生まれる者といるが、そのどちらも“何かが起きる”という特徴を共通する。


例えば千年前に召喚された勇者は錬金王国を築いた。彼は元の世界にあった様々な近代的な物を作り上げて文明の発展に大きく貢献し、勇者としての責務を全うし、バラバラだった国々を纏めて錬金王国を建国、千年以上もの年月を経て今も続く大国の基盤を作ってみせた。


もちろんこれらは彼一人で全てを成し遂げた訳ではない。こちらの世界に来てから仲間を作り、冒険者として働き金を稼ぎ、様々な場所で人を救った。

それらを元に支援やら支持やらを受けて魔王を倒すことに成功し、この世界に来てから四〇年ほどで建国に至ったわけだ。


ただこの錬金王国というのは建国者が大概“アレ”な勇者だったからか、国全体の気質というか国民性が偏ってる部分が大いにある。そのせいで鬼種や竜人種と戦争が起きたりしたが、これもまた勇者の作り出す歴史の特異点だと思えば納得できる(せざるを得ない)


他にも例として挙げるならば『奴隷制度の復活』を成し遂げたこの世界の勇者や、『剣技のみで地形を変える』事を目標とした剣術を広めた勇者、古いものだと『魔術を使わない水洗式トイレ』を広めた異世界の勇者もいる。


先に述べた様に勇者が自発的に行動する事で起きた何かは有名だ。ただ勇者が何かした訳でもないのに起きた出来事もまた当然ながら存在する。


死火山――この世界では五千年以上噴火の記録がない山のこと――が噴火したり、冥界から死者の魂が出てきたり、隕石が落ちて小国が滅んだなんて事もあった。


そしてこれらは()()()()()()()()()()()()()()()


魔王がいるから起きてるのではない、というのは悍ましい手段でもって証明されている。それを行ったのは勇者なのだが、まあ政治的にも勇者のイメージ的にもその手段が広まるのは良くないので隠匿されている。

ただ事実を知っている者はいる。たとえ書物にされていなくても、この世界には寿命の無い存在だっているので当時を知っている者も珍しくないからだ。


ともあれ、勇者は魔王を倒す代わりに色々と“やらかす”のだ。そこに例外は存在しない。



では、勇者アルテミスの場合は?




「多分ね、僕はモンスターの出現じゃないかと考えてるよ」


少女(少年)は哀れみをもってそう口にする。


奇妙なことに少女(少年)の周囲には人はいない。いるのは何かの金属でできた鷹のような姿をした機械だけだ。


「証拠というには少し弱いけど、ここ二〇年でモンスターが活発になってるデータがある。他にもダンジョン内にモンスターが現れた、なんて話も少しだけど聞く」


コトリと異世界の勇者から伝わった漆塗りの盃を置き、瓢箪から透明な酒を注ぐ。


入れられた酒は盃に描かれた蒔絵を際立たせる。


そうして浮かび上がった蒔絵は華が結晶に包まれているもの。それは幽結晶と呼ばれるで物あり、冥界でしか華を咲かさない滅多にお目にかかれない希少な植物だ。


幽結晶は二つのことで有名だ。一つはポーションの材料として、そしてもう一つはポーションを開発したイズの家紋として。千年と少し前にできたばかり(・・・・・・)の家紋ゆえにイズからすれば馴染みは薄いが、千年以上の年月はこの世界でも普通に長い。


だが馴染みが薄いと思っているイズからしても幽結晶の紋は誇るべきものであり、様々な思い出を想起させ、酒を飲むにはピッタリだと素材からこだわって作らせた盃に描かせるほどに好んでいる。


酒精の強さによって結晶内の華が浮き出る具合が変わるという珍しくもない仕掛けは、魔術によらない技巧によって施されこの盃の価値を跳ね上げている。所領を買えてしまうほどに高いそれは、勇者の世界における『茶器は領地と同価値』というバブル的なものではなく、素材だけを集めるだけで下手すれば国すら傾くほどに金がかかっているのだ。

もちろん盃だけではなく瓢箪も酒も同様に高いのだが、話がズレるので置いておこう。


とかく、そんな代物を使って一人で酒を飲んでいた。


「モンスターの発見数の上昇、スライム素材の価格低下」


机の上に置いてある紙束をめくり憂鬱そうにため息を吐く。


「それに水位の上昇と怪魚種の出現、更には水脈の乱れ。まったく、いつぞやの悪夢を思い出すよ」


その紙束に書かれていたのはシャッテン商会が集めた世界各地の情報。

レーゼ・フォン・エアフルトがまだレーゼ・ガルシアだった頃、ダンジョン都市のスタンピードでモンスターが出たのは勇者に起因するものだとイズは判断していた。


おおよそ二〇年ほど前、エルダーと呼ばれるあのモンスターはレーゼが会うより少し前から活動報告があったのだ。


運が良いのか悪いのか、それは分からないがエルダーの出現場所の近くには魔導師やSランクの冒険者がいた。だから被害こそほとんど出なかったが、そのせいで情報が出回らなかった。一般には重要視されなかったのだ。


もちろん一部のエルダーというモンスターの脅威を知っていた存在は重要視したし、大貴族と呼ばれるくらいの地位にいる者たちも情報を集め始めた。それらの行動は無闇に民草が怖がり、商人達が変な買い占めだのを起こさない様に秘密裏に行われた。


そして世間で注目され始めたキッカケが、レーゼがダンジョン都市にて遭った悲劇である。


イズが出向いて事態解決に動いたのは偶然だ。偶々旅をしていたイズの近くであの悲劇が起きたのであり、その事を予知していた星詠種(ドゥム・トホター)が率いていた部隊からの要請で助けた。

その部隊も魔導師が複数人いたりとかなりの精鋭だったのだが、イズという規格外の怪物には及ばなかった。


ゆえにモンスターの掃討はイズが、生き残りの市民の保護救助や魔物に関しては星詠種率いる精鋭部隊が、それぞれ役割分担を行なって事態収束を図ったのが真相だ。


そしてこれをキッカケに各国もモンスターに注視し始め、魔王による魔物の活性化に加えてモンスター対策に追われる事になった。


この紙束に書かれていたのはそれ以前から集めていた情報であり、特にどのモンスターが出やすいかなどの原因だと思われる変化をまとめてある代物だ。ここまで事細かに書かれた情報は各国の上層部くらいしか知らないだろうレベルであり、イズはこの紙束の情報からこの先の未来をおおよそ予知していた。


そしてその予知は外れればいいものの、もし当たっていれば星詠種が未来視で発狂しかねない代物だ。かの種族が視れる範囲は個人差が大きいが、族長クラスになれば実際に見るのと遜色ないほど完璧に視えてしまう。


族長クラスの人物が発狂してしまうのは被害が大きすぎる。未来視ができるだけあって各国の上層部と繋がりが深く、国王――もしくは皇帝や教皇などの国のトップ――が交代したタイミング、あるいは勇者が国王などに接触したタイミングで星詠種に未来視を依頼する。


未来視の内容は不変という訳ではなく、何か大きな影響――もちろん石一つの位置が変わる程度では影響はない――を与えれば変えられるので、ごく一部の人にしかその内容は知らされない。


未来というのは容易くは変えられない。ただそれは言い換えればそれなりの労力を払ってしまえば変えられるという意味であり、未来の内容を知っていれば何処がターニングポイントかを予想するのは難しくない。さらに星詠種は経験から何処を変えればいいのか想像できるので、より未来の改変は容易になる。


星詠種の固有魔術(種族特性)とはそれほどまでに凄まじい性能を誇り、その上勇者の世界であるような星座占いほどの気軽さで未来視ができるのだ。


もっとも未来視の確度を高めれば難易度は上がり、より遠い未来を視ようとすれば才能が必要になる悲しい現実もあるが。


この固有魔術(種族特性)は努力ではどうにもならないので“魔術”と言うよりは“魔法”に近いと言われているが、そんなお粗末な(チャチな)代物ではないと断言しておく。

事実はどうあれ一般的には“魔法”に近いと認識されてるほどの固有魔術(種族特性)は時に残酷な光景を使用者に視せてしまう。未来視を使って1D10のSAN値チェックを受けるのはザラにあり、魔王襲来の光景を視てしまい発狂というのは何も両手両足の指で数えられるような珍しい話ではない。


そして言うまでもなくここまで重宝される魔術が使える存在が発狂してしまう(不定の狂気になる)ことは避けるべきだ。


ましてや魔物に堕ちてしまえば何が起きるかわからない。過去には族長クラスの星詠種が魔物に堕ち、その固有魔術(種族特性)を活かした戦い方でもって小国が滅びたという話すらあるのだ。人類が魔物に堕ちれば言語が話せない程度には知能が下がるが、戦術を用いて戦うことはできるのだからその脅威は小翼竜(ワイバーン)よりも高くなり得る。


もし魔物に堕ちれば(狂気に囚われれば)貴重な未来視が出来る者が消え、小国が消えるほどの戦力が敵になるのだ。当の星詠種だってそうなれば悪いことしかない。


なので未来視の内容から星詠種を護らなければならない。


正確に言えば星詠種が未来視にて視る内容をあらかじめ悲惨である事を教えたり、発狂しても回復させたりする準備を事前に整えたり、非常時以外には無闇に使わない様に伝えないといけない。


未来視をするために未来を予想し、ヘタな未来の改変を起こさない程度に根回しする。本末転倒のような気もしなくはないが、未来視によって得られる情報量は現在の情報を整理して導き出す予想(・・)とは違い桁外れに多い。

となれば自然、こういった危険性――SAN値チェック的な意味で――を強く予想できる状況に対応した行動マニュアルが作られている。


ちなみにだがスタンピードや星詠種保護などのマニュアルは非常に洗練されている。世界各地で多少の差はあれどどれも似通っていて、より良い方法を模索して行き着く先は同じなのだと理解させられるような内容だ。



「狂気発散の儀式は材料が必要か。たしかあの材料は……」


所領一つを買えるほどの盃に新たな酒を入れている少女(イズ)のように、星詠種が未来視によって発狂しないようにと動く者は世界各地にいる。


暇に明かして盤上遊戯で遊び続ける森人種、柵が嫌になり引き篭もっている魔女種、商機を逃さぬように情報を集め動く人狼種、研究の傍ら息抜きに未来を演算する機人種、旅をしているうちに自然と集まった情報を元に勘で未来を予想する龍種、地脈海脈から情報を得てバランスを保つ巨人種(ミーミル)


こうした未来を予想できる者達のボランティアによって星詠種は保護されている。


ボランティアというのも、昔から「俺らが居ないと困るんでしょ? なら発狂に怯えずに好き勝手できるやん」という考えを持つ星詠種が出てくるので、別にお前らいなくても問題ないよ、というのを教えるためにそう表現してるのだ。


具体的な方法は()()()()()()()()()()()()()()()()事だ。


つまりは最悪その場で殺すことも含んでいる。



そもそもの前提の話として、


SAN値チェックとは『精神的なダメージを負う事』

発狂とは『一度で精神に大ダメージを負った時』と『精神的に耐えられなくなった時』に起きる現象。

魔物に堕ちる条件は『完全に狂気に呑まれてしまった時』


というのがこの世界でのルールだ。


そして魔王は出会ったら確実に発狂(10D5のチェック)なので、勇者や一部の発狂を自身で治せる者のみが立ち向かえる訳だ。


“勇者は発狂しない”というルールが、この世界でどれほどのアドバンテージなのか分かるだろう。SAN値チェックで戦闘不能にならず、また強大な力の持ち主が魔物に堕ちない……勇者が特別扱いされるというのも頷けよう。



あぁサラッと言ったが、発狂を自身で治せる術は存在するのだ。


幾つか存在するが非戦闘時のような事前準備が可能だったり、時間によって自然回復させるのを含むならば三つある。うち一つは隙が少ないので戦闘時にも使える。ただし一般にはこの術がある事実はほぼ知られていない。


その戦闘時にも使える発狂を治す術――魔術にも氣術にも存在する――だが、非常に高度な技量が要求される。専門家であっても失敗するリスクは常にある難しい技術で、もしこれが一般に知られてしまえば発狂への認識が甘くなる危険性が高く、結果魔物に堕ちる者が増えてしまう可能性があるからだ。


さらに言えば一度でも発狂すれば後遺症が残ることもあり、記憶を完全に消すわけではないのでセルフ発狂の可能性もある。ポーションのような気軽さで扱われたら、術者はたまったものじゃない。

そんな訳で、この術は一部の高位の貴族や王族などを除き知られていない。


まあこうして述べたので察せるかもしれないが、星詠種の未来視を行う時にこの術を使うことで発狂しても魔物に堕ちないようにするという意味。


先のその場で殺す手段は星詠種が調子に乗らないための警告であり、最終手段ではあるが実際に行う事実である。


族長クラスの力を持つ星詠種が未来視を行う時、同時に魔物に堕ちないように狂気発散の術も行われ、その場には“万が一”に備えて相応の実力者が待機するというのが『未来視の儀式』だ。


少女(イズ)が呟いた狂気発散の儀式とはつまり、未来視の儀式を行う際に必須の魔術を指す。

難易度が高いので儀式化することで魔術の安定化と難易度の低下を図り、少しでも後遺症が残らないように動く必要があるのだ。


予定を早めて魔導国の入り口である音楽都市ライプツィヒで飛行船を降りたのは、勇者アルテミスが魔導国の皇帝と出会うタイミングを遅らせるためだ。


モンスターの活性化は勇者アルテミスの影響だと思ったから、星詠種が未来視をした時に危ないと思ったから、少女(イズ)は予定を繰り上げ狂気発散の儀式に必要な材料の準備をするための時間を稼ぐべく動くことにした。


「エルダー、スライム、ハイウィング、怪魚種、クラーケ、そして発見例の少ない異様に大きい怪魚種」


活性化したモンスターとして挙げられるのが今の六種。


どれもモンスターのデータはある。どの魔術が効き、逆に効かないのか。物理的な強さや確認された邪術の種類、さらには見た時のSAN値チェックの減少幅。

何千年も続く歴史からモンスターは特に注視され、魔物とは違いほとんど変化しないのでそのデータは膨大だ。


中には絵では無く写真としてその異形の姿が資料として存在する。その中にはひたすら巨大な蜘蛛が巣を作り続けてるような、SAN値的な意味でしか危険がない不思議なモンスターの資料だってある。




「……まさか東雲派の改造狂いに感謝する日が来るとはね」


ぐいっと盃を空にし、毛がないのに毛繕いする鷹のような機械に小袋を括り付ける。

すると翼を広げ窓に向かっててくてくと歩き出す。コンコンと催促するように突つかれた夜の窓を開ければ、


『kyuaa』


とそれっぽい声を出し機械の鷹は飛び立っていった。


「はあ、メーア神聖国の星詠種に未来視の内容聞いておけばよかった……」








第十五話 狂気発散の儀式は東雲派が改良した作品




しんどいので土日にでも補足書くと思います。多分。



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