召喚されて一年と少し経ちました 08
なろうアプデ後初投稿。
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……使い辛い。
酔っ払いの踊りじゃなくて暴れ馬では?
そう思ってしまうのはカジノの定番であるルーレットの名前。
トリンケンダンツとこっちでは言われてるゲームは、まるで酔っ払った人が踊ってるかのように球があっちこっちに行き翻弄されるのが由来。とイズに教えてもらった。
その名前には由来を教えてもらった今も納得できないが、秋の収穫祭には酒を飲んで祝い、民謡を楽器で奏で、その音と一緒にダンスをする、というのが一般的だからそれに凖れたのだとか。
秋が収穫の時期というのはこっちの世界でも共通認識で、このトリンケンダンツというのは魔導国発祥で秋の時期に村や荘で遊ぶことから、収穫祭の影響がある名前が付けられたのだとされてる。地域ごとに名前が微妙に違うのではなく、かと言って地名も関係なく、ただこのゲームの球の動きが酔っ払いの踊りに似てるから、と。
異世界から召喚した勇者が来る以前からある娯楽で、今の形になったのは勇者が広めたからだが原型は既にあったのだとか。まあ元の世界では“カジノの女王”とまで言われてるのだから似たような娯楽があってもおかしくはないか。
だとしてもあのルーレットを跳ねる球ほどに踊らないでしょ、とは強く思う。球の速さも、動き方も、そして結果が出る瞬間も、何もかも違う気がしてならない。ただ名付けた人がそう思ったのは事実らしいので、やはり命名した人の名前を付けるのが無難なんだなと地球の様々な商品名を思い出した。
「赤の14です」
酔っ払いの踊りは止まり、球が落ちたポケットをディーラーが言う。
偶数に賭けていた私と赤に賭けていたレーゼ先生、あと13〜24に賭けていた一人の綺麗な女性が配当をもらい、男性三人は赤コインを没収されていた。
そこで損切りなのか一人の男性がゲームから降りた。ディーラーが見渡すが、どうやら他には降りる人はいないらしい。
それを見て続けるか聞こうとレーゼ先生をチラリと見ればどこか居心地悪そうにしていた。まだツーゲームしかしてないが、レーゼ先生は移動したそうなのでラストワンゲームにしよう。
「次ラストにしようよ」
「ん、あ、ああ。いいよ」
ディーラーがその場にいるプレーヤーが各々適当に最低限度額を置くのを確認してルーレットを回し始める。
これがベット開始の合図。
この世界でのルールでルーレットを回し始める前のベットは数字に賭けないといけない。そして賭けた数字に後から賭ける事も禁止――テーブルによってはオーケー――されてる。これはディーラーへのチップみたいなもので、当たれば三六倍なのだがほぼ絶対当たらない。理由はディーラーが球をコントロールできるから。
地球ではディーラーが球の入る場所をコントロール出来ないとも言われていた。しかし一般開放エリアにいるようなディーラーならともかく、この高級エリアのディーラーならばコントロールできるのだ。
理由は様々だが、その一つが寿命。この世界には寿命の長い種族が結構いる。一〇〇年以上ディーラーやってます、という人だって全く珍しくない。経験値が段違いなのだ。まあ元の世界でも『ある程度は』コントロールできるのだから、経験を積んだディーラーが球を入れる前に賭けた場所を避けるのなんて朝飯前だろう。
もう一つの大きな要因は種族特性だ。森人種なんかは王道の精霊魔術はもちろん多重並列思考で有名らしいので、ディーラーとして森人種が出てきたら運の要因は無くなり完全に“頭脳勝負”になると言われてるほど。
他にも小人種ならば手先の器用さで“細工される”ので見抜けるかという勝負になり、人狼種ならば触れた物の匂いを記憶して判別されるので匂いの無い物が使われるかの“運試し”の要素が強くなる。他には機人種のスーパーコンピュータをはるかに超える演算能力や、星詠種の未来予知などが有名らしい。
もちろんその他の種族でも上手い人はいる。その人の純粋な技量なんて代物は見ただけでは分からないので当然油断は出来ない。
種族特性や経験があるからディーラーはやるな、なんて考えは出てくるはずもなく、むしろディーラーの種族をオプションで指定して楽しむ事だって普通にある。森人種の客なら同じくらい頭が回るディーラーでないと勝負にならない事が多く、一方的に経験差という種族特性で叩きのめされて終わりだからだ。
そしてこの世界では種族を見抜いた上でゲームをするのが“当たり前”なので、一般開放エリア以外だと種族特有の能力を活かした勝負こそ楽しむ要素なんだとか。
「(イズの渡してくれたメモ最高!!)」
この世界では紙を見ながらでのゲームは禁止されていない。
魔術はもちろん禁止だが、ルールが複雑だったり初心者には向いていないからという理由で紙を見るのはオーケーなのだ。ただし紙に書くあからさまなカウンティングは禁止。
イズの渡してくれたメモにはルールやマナーはもちろん、ゲームの勝ち方や先に回想した通り種族の注意事項まで書いてある。
情報魔術なるよく分からない魔術がかかってるこのメモの厚さは十数枚分だが、特定の使用者――今回だと私とイズだけ――が魔力を込めるとまるで何百枚もある本のようにいっぱいページが捲れる。その上検索機能まで付いてるので使い心地はほぼスマホだ。
そのメモのおかげで昨日は時間いっぱいまでオケラになる事なく、人生初のカジノを満喫できたのだからイズ様様である。
そのせいで高級エリアでゲームせざるを得ない状況になったのは事実ではあるが、メモの情報のおかげで初心者向けのヒト種がディーラーを担当する場所を重点的に回れたので良しとする。結果的にヴォルフスアンゲルで大勝ちという貴重な体験も出来たのだから、文句を言ってしまうとバチが当たるというものだ。
それに今も先に挙げた種族特性を持つ難易度の高い種族のディーラーが担当していない場所を選んでいるので、このメモの恩恵は計り知れない。
ただルーレットの攻略法なんて書いてないので、その辺は自分で考えないといけないが。
「(今コインがあるのは10、5、36、30、17。勝っても三六〇アウレウスを超えない倍率と賭け金は……ん? 何か閃いた気がする)」
実はディーラーは勝ち負けでは給料はほとんど変わらないらしい。
だからこのゲームで大損してもディーラー本人にはデメリットは……まあディーラーとしてのランクが下がる程度。高レートエリアや高級エリアの場合一日で黒コイン以上損を出すとそれはもう色々とデメリットがあると書いてあるが、そんな損はそんなに出ないので無視して良い。
もちろん一般開放エリアとは違い全てのゲームは監視されてるので、客が手を組んでゲームで損失を出してしまった場合にはそういうデメリットはない。よほど悪質じゃない限りは客側も罰せられない。
ここはSAN値を回復させるための娯楽施設なのだから。
兎にも角にもプレイヤーは楽しむことが目的であり、ディーラーは客を楽しませる事が目的なのだ。損失は基本的には二の次、というのが前提でここは成り立っている。
それが指す意味は『ディーラーが損を避けたからと勝ちやすい訳ではない』という事なのだとか。
今回ならば多少の損失を出す覚悟で5、10、17、30、36に球を落とす場合もある、という事だ。もちろんプレイヤーが森人種だったりして予想能力が高く、先に賭けた額の方が損失が少ないと判断して落とす場所を決めるディーラーもいる。
ただしディーラーの種族が吸血種や竜人種の場合は勝ち負けに非常に拘る。多少の損失を出して傷を少なくするのではなく、一切の損失を出さずに勝つ事に拘る傾向があるのだ。それはプライドが高いからなのだが、負けがほぼ決定した場面だとヤケクソになるから読めないというのも特徴なのだとか。
そして今のディーラーは吸血種、縦列に賭ければ相手の負け確定。
「……………………」
うん、読めないや!
しばらく考えたが全く分からない。
なので8・9の二数字賭けにする事にした。さらにこれで今日はルーレットを終了する予定ならばと、赤コインを没収されても構わないと賭ける事にした。
8と9なのは厄払いと掛けてる。当たればラッキー、外れても“厄”に賭けた金を“払う”ので縁起がいい。
「ぁー」
「レーゼ先生何か言った?」
「いえ、なんでも無いわ」
そう言って賭けたのは9のストレートアップ。それも金コイン二枚と限度額だ。さらにもう一人9のストレートアップに賭けた人がいた。その人も金コイン二枚、他の人は別だが五人中三人が9に賭ける異常事態にディーラーの顔が歪んだ顔をした様な気がした。
そしてチリンチリンとベルが鳴らされ、結果が出た。
「……赤の9です」
そしてこのテーブルにいた全員が配当を受けた。
赤に緑コインを賭けた男性に緑コイン一枚、1〜12に緑コイン五枚を賭けてた冒険者の男性で緑コイン一〇枚、8と9に赤コインを賭けた私は赤コイン一七枚、9に金コイン二枚を賭けたレーゼ先生と女性が七一枚の金コインをもらった。
吸血種のディーラーは血の気が少ない白っぽい顔をさらに白くさせて、今にも倒れそうになりながら合計一四四八ノミスマ分のコインを配る。
これはSAN値チェックあったなと確信させる悲惨さだ。
いっそ可哀想過ぎてコインを返したくなるほどにフラフラとしてるが、ここでコインを返せば更にプライドに傷をつけることになり、下手をすれば逆ギレして襲いかかる事も考えらる。
というか過去にもあったらしいので注意するようにメモにも書いてある。
そしてなんとか倒れる事なく配り終えたあたりで、何処からか静かに現れた森人種のディーラーが私たちに綺麗に一礼してやや大きめな声で話しかけてきた。
「お客様方、申し訳ないですがこのテーブルでのゲームは一時終了いたします。もちろん使い魔を通して不正は無かった事は確認済みですので、このまま他のゲームに参加なされても問題ございません」
そのディーラーと一緒に現れた明らかに強い警備員に連れられ、吸血種のディーラーは姿を消した。
森人種のディーラーはその様子を見送ると、レーゼ先生と女性に向かい一枚の濃い魔術の気配がする紙を見せながらさらに続けて言う。
「ツェッペリン卿、並びにエアフルト卿。ここ一週間でこのエリア最高額の七一〇ノミスマの獲得、心よりお祝い申し上げます」
「あら、ありがとう」
「ありがとう」
女性は面白そうに、レーゼ先生はめんどくさそうに、それぞれ真逆の反応をしながら同じ言葉を言う。
「つきましては、ローグライクエリアへの通行権と“終戒言語の書”を祝いの品としてお送りいたします」
そう言って女性に魔術の気配がする紙を渡すと、懐に手を入れてもう一枚の紙を取り出しレーゼ先生に渡した。
その紙は一度だけメーア神聖国の宝物庫で見た呪いの品にも似た雰囲気で、触れたら死ぬんじゃないかと思うほどに禍々しく感じる。というかSAN値チェックが行われてもおかしくない。それも1D100を振られそうなレベルだ。
そんな紙を受け取ると女性はナイフを取り出して自らの指を切って血を落とす。レーゼ先生は魔術を使って指先を切って同じようにしていた。
すると紙は光と共に消えてしまった。
「こちらが通行権の割符となっております」
パチンッとディーラーがスナップを効かせて指を鳴らせば、浮かんだ高そうなトレーが虚空から現れた。
よくよくトレーを見れば結構な量の魔力が宿っている。おそらくは魔術式が刻まれていて、特定の動作で起動できるタイプの魔道具なのだろう。荷物運び用のソリと同じ仕組み、だと思う。
浮いてる方は感じたことない雰囲気だし、多分エルフお得意の精霊魔術。
「お二人ほどの実力でしたら紛失はないでしょう。ただ一度失くせば、再度の発行には厳しい審査がありますのでご注意を」
「シャッテン商会に探られるのは嫌ですわね」
「おや、踏まれたくない影でもあるので?」
踏まれたくなくすのはシャッテン商会ではなくて? と、あらあらうふふ言いながら火花を散らしてるように見えるツェッペリン卿と言われてた女性と森人種のディーラー、それを見て頭を痛そうにしてるレーゼ先生。
レーゼ先生はなんだか気苦労が多い気がするなぁ、今までそういう雰囲気をよく出すので苦労人体質なのかもしれない()。
ふと二人が受け取った割符を見てみれば見覚えのある魔術の気配が感じられる。これは多分……メモに似たような気配? ということはイズの魔術が使われてる??
「ねえねえ、レーゼ先生」
「なんでこう……ああ、すまない。なにかな?」
つい先ほどレーゼ先生はこのエリアに来る前にも同じことを言っていたような気がするけど、触れてはいけないと思うので無視。
「その通行権の割符ってイズと同じ魔術の気配がするんだけど、まさかイズが作ってる訳じゃないよね? どうして?」
「気配? 術式の放つ魔術波長のことかな?」
「そんな風にも言われたっけ。多分そうだよ、“勇者を特別たらしめる能力”の一つって言ってた」
「うーん興味深いけど、今は質問を先に答えようか。この割符は刻印術によって魔術が特定の時に発動するようにできてるの。そしてその刻印する内容は常に一定、刻む人こそ違うけれど術式自体が変わらないようにしてるの。そしてその術式を作り上げた人がウィンフィル卿、つまりイズ先生という訳」
ただ正確には術式を作ったのはイズではなく他の魔導師で、それを改良して今の形にしたのがイズなんだという。
魔術波長は個人によって似てる事はあるけれど、同じことになるのは全く同じ術式を使い、同じ波長の魔力を使った時のみ。普通術式を使う時には個人に合わせたカスタムがされるし、魔力の波長はほとんど同じになる事はないので、魔術波長が一緒になる事はまず無いのだとか。
さらにこの魔術波長は犯罪の解明にも繋がるらしい。同じ術式を使って冤罪にも利用されるとの事だが、魔術波長の詳しい違いを計測できる魔道具があるので直ぐに分かるんだとか。魔術波長は感覚的に理解できる――この世界における第六感に近い――のだが、感覚を騙すことは出来てもこの計測器は魔導院の教授であっても出来ないほどの詳細が分かる性能とのこと。
何でも古代遺跡から出土した物の複製品らしい。
魔力波長ではなく魔術波長なのは術式が同じである必要があるからで、どちらかの波長に限れば一緒になる事態も起きることは少なくないらしい。
そして厄介なことに第六感は術式の波長に対しては分かるのだが、魔力の有無ならばともかく波長までは分からない。イズが作ったのかと騙されたのは、まさにこれが原因。
まあ確かに魔術の事件への悪用なんて、マジックポーチのエピソードのようにいくらでも思いつく。対策はして当然だろう。
「ちなみにこの魔術の原型になった術式を作ったのはウィンフィル卿の一番弟子、セラエノ卿だよ。教えられた術式を使っていたからか、かなりウィンフィル卿の魔術波長に似てるの」
そう教えてもらえたが、イマイチ理解できなかった。
ただそう言うと初日にバーでグーフォ帝国について教えてくれた時のように、いや下手をすればもっと長い時間勉強会を受けるはめになりそうなので、
「ふむふむ。イズってそんな事まで手を伸ばしていたんだね」
と理解したっぽい雰囲気を出して話をずらす。
後でイズに詳しく教えてもらおうと決めて、とりあえずはカジノを楽しむ事を第一だ。勉強は嫌いでは無いけれど、ノートに書いておかないと覚えるなんて無理。
とりあえずカジノだとノートに書く事は出来ないから、勉強に繋がりそうな話は終わらせるに限る。
「分かってくれて嬉しいよ」
……なんか分かってなくてごめんなさい。
第十三話 この間僅か一〇分!
如何でしたか?
かなりアプデで仕様が変わったので、慣れるまで時間がかかりますが今後ともよろしくお願いします。何か読みずらいなどありましたら対応するので(多分)、感想お願いします。




