召喚されて一年と少し経ちました 07
読みにくいとは思いますが、アルテミスの視点からだとこうなっちゃうんです。
馬鹿な感じが出せてたら良いのですが……申し訳ない。
最初はアルテミス視点、そのあとレーゼ視点です。
ではどうぞ。
キフルランドは商会運営の娯楽施設、それも賭場運営で利益を出すことで回っている。
利益は賭場で客側に金を払わせる事で得られる。それは賭け金を胴元が勝つことで没収するのが一番分かりやすいが、それ以外にもヴォルフ大商会のコネを最大限使ったオプションを用意して楽しませることで利益を得ている。
利益を得ないといけない。
でも娯楽施設でないといけない。
その二つを両立するのは難しいらしい。赤字経営を承知の上で他の財源を確保してゴリ押しした方が楽だと、イズもレーゼ先生も言っていた。
そしてイズ曰く、「金持ちは金で物を買うんじゃない。金で面子を買うの」
レーゼ先生曰く、「お金持ちというのはお金を払って経済を回さないといけない。だから吝嗇家は貴族や富豪の間ではお金の使い方も知らない人として叩かれるのよ」
吝嗇家とはケチな人を指すらしい。
そのことを考えた上で伝えたいのは、“お金は目的のためになら貯めて良いが、目的無く貯めてはいけない”という事らしい。
こっちの世界に来て私が冒険者になってからお金を貯めた時は二回だけ、一回はマジックポーチというドラ◯もんの制限付き四次◯ポケットのような物を買うべく頑張ってた時。もう一回はここキフルランドで遊ぶための資金を集めてた時だ。
マジックポーチは私を召喚したメーア神聖国のお古として一ノミスマ――イズが言うにはその価値は最低二〇ノミスマある――で売ってくれたのだが、冒険者として活動をしてその価値を実感したのは良い思い出だ。ただお金を出せばいい訳ではなく伝手が必要だと知った時は、商売する気あるのかと思った。
まあイズは物流が一気に変わる以外にも、持ってるだけで犯罪になる物を持ってるか分からなく出来るから当たり前とも言ってた。だから全てのマジックポーチには魔術でナンバーが記されてるとも。
その説明だけではイマイチ分からなかったが過去にあった事例を挙げてくれた。
沈溝の災剣という神剣があった。とある土地の守り神として祀られていたのだが、その国で内乱が起きた時に盗られたのだ。特殊な方法で封印されていたので守り神としていたが、勝手に抜かれた結果封印が解けて災害を振り撒く魔剣へと変質したらしい。
あとはまあ予想通り。マジックポーチに入れて反乱側の人が主要都市へと侵入、街中で沈溝の災剣を解放して巨大な地割れを起こして壊滅的な被害を出したそうだ。この魔剣の能力はまあザックリと言えば地割れを起こす代物なのだが、見ただけで禍々しい雰囲気が分かるので検問所や都市の入り口での検閲によって直ぐに見つかるはずだったのだ。
本来すぐ見つかるはずの見た目もマジックポーチという代物によって無意味になった。
結局この魔剣のおかげで反乱は成功した。魔剣へとなった沈溝の災剣は破壊すらできない状態だったので再度封印、だが十年と経たず次の反乱でまた使われたのだ。
反乱の武器として二度も使われ、しかも二回ともマジックポーチによって運ばれた経緯からテロ対策としてマジックポーチの管理を各国が進んで行われた。そしてその時にマジックポーチの場所を最も多く探し出してみせたのがシャッテン商会なのだとか。
一躍情報屋として各国に売り出されたシャッテン商会の名は、マジックポーチが盗まれた場合に国より先に頼る商会として知られた。
全世界のマジックポーチの場所が知られてるのはシャッテン商会……ひいてはヴォルフ大商会のおかげで、国は大きな借りができたとか。
そんな経緯からシャッテン商会は情報屋として重宝されるようになったのだ。
そしてそのシャッテン商会とコンタクトする場所にはキフルランドがあり、時間を潰したり、運を占うためについでとばかりに利用されたり、と色々持ちつ持たれつの関係になったのだとか。
「んー、何考えてたんだっけ?」
「何を考えてたのかは知らないけれど、アルテミスが高レートエリアか高級エリアに行くかで悩み始めたのは覚えているよ」
「おお!そうだった」
誰でも簡単テロ装備は入手にあたって国が出す身分証か冒険者ギルドの出すBランク証明の割符が必要だったのだ。
勇者という身分のおかげで手に入ったマジックポーチは常に監視されてるから気をつけろ、とイズに言われたのだった。
実質的には鉄鎖刑――重りをつけて生活させる見せしめの一種――と同じじゃないか、とイズはボヤいていた。教授クラスの魔術師ならば魔術でもってマジックポーチと同じことをできる以上は意味がないとも。
ただ教授クラスの魔術師なんて世界中探しても千人いないとも言ってた記憶があるので、そんな相手を想定するのは酷だと思うと言ったのはいつだったか。
「おーい、聞こえてる?」
そんな風に言った自分をイズはため息一つを吐き、「そのレベルの魔術の腕を持つならば隠れた実力者はその倍はいる。魔術に限らないならば五倍は堅い」と言われたのだ。
なるほど確かに表舞台に出てる人物が全て、という訳ではないのは当然だ。魔導国の教授は今は一四四人、宮廷魔導師は一〇人程度、魔導国が世間に発表してるだけで一五四人なのだから魔導国と錬金王国と帝国だけでも四〇〇人近くはいるハズ。この時点で既に千人の四割まできたのだから、各都市の強い魔術師を合わせればもっといるだろう。この飛行船に乗る前にいたシャンタク鳥を倒すために向かった宝石の街でも、イズが中々筋がいいと評価した冒険者の魔術師だっていた。あそこは宝石が豊富だから強い冒険者が集まりやすいというのもあるだろうけど、それでもその辺のそこそこな規模の街にすらそのレベルの魔術師がいるのだから、知られていない優れた魔術師が千人より多く居たっておかしくない。教授というのは魔術の実力だけではなく知識として体系化された学問を教える立場だから、マジックポーチの代わりになる魔術を使えるという実力面だけならばもっと多いのも頷ける。でも魔術というのは魔力と適性があれば使えるという代物じゃないし、マジックポーチの代わりになるための魔術を行使するための術式も知らないといけないはず。術式というのは変に公開して面白そうだからと悪用されてはいけないからと、高度な術式は結構厳重に保管されてるとも聞いたからなおのことマジックポーチの代わりの魔術は使えないんじゃないかな。いやでもマジックポーチという実物があれば術式を編むのは難しくないのかも。それが洗練された術式でなくても消費魔力の多さでカバーできるとも教えてもらったから、マジックポーチを見て真似するのはできなくはないのか。ただどうやってマジックポーチを見るのかという問題が残るけど、そのレベルなら遠見の魔術を通して術式を編むことだってできるのかもしれない。自分で実証できればいいけどイズは教えてくれないし。……教えてくれないで言えばレーゼ先生は魔導学院の教授だっていうのは知ったけど、それ以上の話は全く教えてくれないし。魔術を教えてくれなくても良いからせめて貴族だっていう事くらいは教えて欲しかった。昨日シャッテン商会の職員さんに、ん?職員さん?
「職員さんの名前なんだっけ?」
「え、何の話!?」
「なんのって……そういえばカレー食べたいかも」
「カレー? ああ帝国のブレンド香辛料理か。いやそうじゃなくてアルテミスさん?」
帝国のブレンド香辛料理、ブレンドって言ったらコーヒーか米じゃないのかな?
コーヒーはこっちの世界だとケルクという名前だった。まさかコーヒーという名前の飲み物は既にあって、黒茶という様々な草の葉を乾燥させてお茶と同じようなものの名前がコーヒーだとは思っていなかった。
紅茶は錬金王国の特産品なんだそうで、黒茶は魔導国の特産品、ケルクは帝国……じゃなくてメーア神聖国の特産品。
なんでもケルクは雨季と乾季がしっかりとした気候で、寒いところはダメなんだとか。帝国は地脈や龍脈の関係で全体的に寒いから気温を一定に保つ結界魔術を張る必要があるから高いとも聞いた。
《アルテミス》
「うおっ! なになに!?」
「アルテミス、話を……いや高レートエリアか高級エリアか、どっちに行く?」
「……え、一般開放エリアじゃダメなの?」
思念伝達の魔術によって強制的に中断された思考は完全に吹き飛んで思い出せない。
そして今ここはキフルランドのロビーだと思い出し、でもなぜここにいるのかは思い出せない。レーゼ先生は頭痛が痛いとでも言いたげな雰囲気で目を閉じて私の肩を掴んだ。
「いいかい? 君は昨日とっても稼いだ。なので一般開放エリアではなく、より高額でのやり取りができる場所で賭け事をしないといけないの」
「あ、吝嗇家は嫌われるってやつだね!」
「え? ええ、多分そうよ」
「じゃあ高級エリアに行くよ! 入場料がいるんだっけ」
お金を多く持ってるなら使わないとダメ!
こういうカジノみたいにパーッと使う場所なら勝とうが負けようが楽しいだろうから、お金を持っているならケチることは良くないはず。それに一昨日バーで欲しい物リストを書いたら一般開放エリアでは四割くらいしか交換できないらしかった。
そもそもあのバーがあるのが高級エリアの更に奥のエリアなのだから、バーで欲しい物が見つかったのなら奥のエリアに置いてあるものばかりなのも納得できる。地球で言うならあのバーは物産展、今どきならネットで取り寄せてしまえるが、本当なら本場のところに行かないと買えないのだ。
ただ奥のエリアに行くには伝手が必要だから、私では高級エリアや高レートエリアにしか行けない。高レートエリアは一般開放エリアと交換できる物は大して変わらないらしい。
昨日イズと連絡をとり、欲しい物リストをイズに高級エリアまでなら入手可能な物のみが書かれたものに訂正してもらった。あとどのゲームなら勝ちやすいか、などのアドバイスももらったのでバッチリだ。欲しい物リストの中でもトップクラスで欲しいのはトビリンゴ酒・戦闘魔術礼装Ⅸ・異世界風戦闘服の三つ。
本当はトビリンゴ酒はお酒大好きなイズが勝手に買うと思っていたけど、イズはあの苦味が嫌いらしく飲まないって言ってた。だから自分で調達しないといけないのだ。
次の街まで残り四日、楽しく遊ぼう!
「なんでこう、こう……」
「レーゼ先生行こう?」
何やら先生は悩んでいるかのように見えた。
さあ移動だという時に頭を抱えて蹲ってしまいたいと言わんばかりに悩んでいるのなら、手の一つでも差し出して一緒に行こうとするのは当然だ。
「……はあ、わかった」
色々と思った事を飲み込んで吐いたため息は、質量を持ったなら地面にのめり込むだろう。
それほどに何を悩んでいたのかは分からないがそれを聞いても大抵「なんでもない」と言うので、この短い付き合いではあるが聞かないことにしたのだ。
きっと聞かれたくない事なのだろう。
こんなはずではなかった。
そう思って後悔するのは生きていれば当然誰しもが経験するだろう。その大小は問わないが、少なくとも成人する年齢にもなれば一度や二度などという回数では収まらないはずだ。
共感されやすいエピソードならば、子供の頃に勉強をしっかりしていれば良かった……などだろう。学校に行って外国語を学んでいなかったから就職に不利になった、あるいは就職が出来なくなった。というのは往々にしてよくあるものだ。
私的なエピソードで言うなら、宝の地図を入手したけど愉快犯が書いたのかと思う内容で、でも実際行ってみたら正解だった……というところか。
ああもちろん、宝の地図とは“宝”が『異世界の情報』で“地図”は『聞き出す方法』だ。愉快犯はウィンフィル卿を指す。
そう、ウィンフィル卿は全てちゃんと教えていた。勇者アルテミスは教えるのに苦労するというのも、信用されれば容易く異世界の情報を教えてくれるとも。ただそれは果てしなく面倒で疲れて自ら宝を捨ててしまいたくなる苦労の末に得られる、“かもしれない”というだけで。
宝があるのは事実だった。地図もまた正確だった。ただ何か一つ間違えれば今後信用される事はないだろうとも想像はできていた。そして本人は自身の欠点を自覚した上で直せないから、一瞬を全力で楽しもうという方針になっただけの話。
その判断が正しいかはさておき、そういう性質なのを無意識のうちに利用してる気がある。自身の持つ宝は武器にも防具にもなるという事を理解して、おそらく勘でもって制御しているのだ。
情報は小出しに、自分は価値あると思わせるように、そして暴走させない程度に焦らす。
これを全て考えて行うなんて歴史に残るレベルの頭脳がないと無理だろう。そんな相手ならばウィンフィル卿が見抜けずに疲れを蓄積させるはずもない。あの方ならば逆に利用して骨の髄まで吸い尽くされそのまま捨てられてる。
この高級エリアに鼻歌でも歌いそうなほど上機嫌な勇者アルテミスは、つまるところ馬鹿と天才は紙一重という言葉を体現してる存在という事。
「おまけに宝の内容まで分からないとは……」
思う通りにいかないのは当然だ。あのウィンフィル卿が苦労しているのだから。
ただこの勇者と似て享楽主義な部分があるからか、はたまた膨大と言ってもなお足りないその経験からか。ウィンフィル卿は上手い具合に常識を教えてみせ、信頼を勝ち取り、彼女の持つ異世界の情報を得ているらしい。そして得た情報は決して無駄ではなかったと私に教えたのは、まあ十中八九私を勇者アルテミスを見限らせないためだろう。
苦労して得られる宝が全てその労力と吊り合う価値があるとは限らないのだ。
事実、私は昨日のうちにウィンフィル卿が“彼女から得た情報には価値がある”と教えてもらっていなければ、おそらくは魔導国に飛行船が着いた時点で見限っていただろう。
労力と吊り合わないならば、と。
勇者アルテミスとウィンフィル卿の意図にまんまと引っかかっていると分かっていても、最低限の保証があるのなら相当の労力が必要だと理解しても宝を手に入れるべく動くとも。得られるはずのものを失うのは忌避すべきことだから。
この辺の考えは魔導師のそれではなく商人のそれだ。一〇にも満たない時に教わった事を未だに覚えているのだから、異世界の言葉で言うならば『三つ子の魂百まで』というのはよく言ったものである。まあ寿命を考えれば百では足りない種族が大勢いるのだが、そこは異世界だから仕方がないだろう。
この世界に合わせるなら『三つ子の魂千まで』という感じか。
私は教授位を賜ってしばらく経ったが未だに弟子はとったことはない。だからかこうして一対一で向き合うというのは新鮮な気持ちもあるが、同時にひたすら面倒に感じてしまう。
ウィンフィル卿はおそらく私を魔導国にいる間は指導役を任せるつもりだろう。勇者と共に魔王を倒せ、とまでは言わないはず……多分。
そもそも私は戦闘魔導師ではない。
シュヴァルツ卿やツェッペリン卿ならば魔術の運用データが取れると嬉々として戦うだろうが、そんな人物は戦闘魔導師と呼ばれる者であってもごく一部。魔王を倒せとは死ねと言われるのと同義なのだから。
「……そう言われないだけマシなのか」
「何が?」
ぐるぐると考えて出た結論は果たして正常だったのか。
少なくとも非常に悩んでいたのは事実で、気づけば高級エリアにあるトリンケンダンツの席に着いていた。そして数秒考えた末に出たのは、
「いや、なんでもないよ。赤に賭ける額を悩んでいただけだとも」
「じゃあ最初だし運試しと行こうかな」
思考の先送りだった。
きっと未来の自分が解決してくれるだろう。頭のどこかで後悔するぞ、と言ってる自分がいる気がするが気のせいだ。
きっとね。
第一二話 後悔すると分かってもついやってしまうものだ。
個性を出すための書き方なので、不自然だったとは思います。
苦情はコメントや評価していただければ伝わるので、アドバイス等ありましたらお願いします。
もっと経験値積んだら改訂版出すかもしれません。(予防線)




