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2.わけあって憧れの大魔術師様と同棲中!(2)

「あ、今日もジルド君が一緒なんだ?」


 サエラは私の背後にいたクラウス師長を見つけ、その顔を覗き込むように見つめる。


「うん。師長が戻ってくるまでは毎日連れて来るつもり」

「そっか、大変だね。それにしても、師長ってばなんでエルマにジルド君を預けたのかしら? ご実家に預ければ使用人もたくさんいるはずなのに」

「うーん、どうしてだろうね。急いでいて、たまたま目に付いたからじゃないかな」


 ここは曖昧に濁して乗り切るしかない。さらに突っ込まれたらどうしようかとひやひやしていたけれど、サエラはそれ以上突っ込んではこなかった。


「エルマ。勤務中、この子はどうするの?」

「実はね、師長に自分の不在中に執務室の留守を預かってほしいって頼まれたの。届いた書類の転送とか。だから、基本的には師長の部屋で過ごしてもらうつもり。師長の部屋なら広いし、本を持ち込めば飽きずに済むかなって」

「ふうん?」


 サエラは鼻を鳴らすと「早くクラウス師長が帰ってくるといいね」とクラウス師長に笑いかける。


「そういえばさ、昨日エルマがいなかった間、大変だったんだよ。なぜか昨日に限って実験が上手く進まなかったみたいで、ショーンさんがイライラしちゃって。実験室全体がピリピリしてた」

「そうなの? 珍しいね」

「うーん、時々あるんだよね。そういえば、毎回エルマがお休みする日だわ。運がよくて羨ましい」


 サエラは昨日の様子を思い出したのか、形のよい眉を顰める。

 私からするとショーンさんはとても穏やかで人当たりのよい人だけれど、サエラによると、実は気分屋だという。特に、思い通りに物事が進まないと機嫌が悪くなることが多いという。


「またあんな調子だと同じ空間にいるのが苦痛だから、今日は上手くいってくれるといいんだけど」

「うん、そうだね」

「じゃあ、そういうことで。私、行くね」


 サエラが片手を振る。


「うん、またね」


 私も手を振り返す。そして、クラウス師長と共に執務室へと向かった。


「ところで師……、ジルド君。魔力放出できないのに執務室の鍵は開くんですか?」


 クラウス師長の執務室の前に辿り着いた私は、横に立つ彼にこそっと尋ねる。魔術研究所の鍵は、魔力認証式だ。クラウス師長の魔力がほとんど放出されていない今現在、開くのだろうかと心配になった。


「大丈夫だ。普通の鍵を付けているから」

「普通の鍵?」

「今は魔力認証が主流だから、普通の鍵を使っているなんて思うやつはいないだろう? むしろ、破られずに済む」

「なるほど! 賢い!」


 魔術研究所でまさか普通の鍵を使っていると思う人は確かにいないだろう。逆転の発想というのだろうか。


 クラウス師長はポケットに手を突っ込むと何かを取り出す。銀色のそれが、クラウス師長の執務室の鍵のようだ。


(鍵穴はどこにあるんだろう?)


 じっと眺めていると、クラウス師長はドアに彫られた文様の窪み部分にそれを差す。ぱっと見はわからないけれど、鍵穴になっているようだ。


 カチャリと音がして、鍵が開く。


「入れ」

「はい。お邪魔します……」


 私はクラウス師長の後ろについておずおずと部屋に入る。


 クラウス師長の執務室は私が普段居る大部屋の倍ほどの広さがあり、窓際にはドアと向かい合うように執務机が置かれている。少し視線を横にずらすと、魔法陣の展開用と思しき広いスペースがあった。あとは、来客用の応接セットだ。


「知っていると思うが、一日三回各所から郵便物が届く。それを確認して、返信する必要があるものについてはお前に渡す。俺と通信用魔導具でやり取りしたということにして届けてくれ。第一便は朝八時頃だから、もうそろそろだ」

「わかりました」


 それにしても真面目だなー、と思う。

 こんな姿になってもやっぱり仕事をしちゃうなんて。


──ドン、ドン、ドン。


 そのとき、部屋の入り口を強く叩く音がした。

 時計をちらりと見ると、八時五分前だ。


(早速、朝の書類が届いたのかな?)


 私はドアを開ける。ところが、現れたのは全く違う人物だった。


「クラウス=バルト。貴様、見損なったぞ! いくら私が有能で何ひとつ欠点のない魔術師であるとはいえ、決められた結界を張る役目を無断で放棄するとは何事だ!」

「ひえっ!」


 開けざまに突然捲し立てられ、私はびっくりして後ずさる。

 そこにいたのは、筆頭魔術師のひとりであるルーカス師長だった。ルーカス師長は対応に出たのがクラウス師長でないと気付くと、口を閉ざして眉を寄せた。


「クラウスはどこに行った?」

「出張中です。しばらく不在のため、私はクラウス師長から留守中の連絡などを任されました」

「出張だと? 聞いていないぞ」


 ルーカス師長は訝しげに眉を寄せる。

 ええ、聞いてないでしょうね。だって、本当は行っていないですから。


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