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1.想定外の事件です(5)

     ◇ ◇ ◇


「師長! これはどういうことですか?」

「知るか! お前がやったんだろう!」


 お前がやった?

 私がやったの?

 え、私のせいなの⁉


 こんなの想定外だ。だって、私は補助魔法をかけただけなのだ。子供にする魔法なんてかけていない。そもそも、そんな魔法知らないし!


「も、もう一回同じ魔法を使ったら、今度は大人に戻るかも」

「やめろ! これ以上おかしなことになったら困る!」


 クラウス師長の悲鳴のような制止で、それもそうだと思いとどまる。


「じゃあ、どうしたら──」


 そのとき、閉まっていた休憩室のドアがカチャリと開く気配がした。


「エルマ、おはよう? なんか大きな声がしたけどどうしたの?」


 そこに現れたのは、魔術研究所の同期であるサエラだった。

 サエラは金髪碧眼の美女で、私の学生時代からの親友でもある。本名をサエラ=コリンズといい、コリンズ男爵家の次女だ。


「え? エルマ、その子どうしたの?」


 こちらを見つめるサエラの目が大きく見開く。

 独身で弟もいないはずの私が小さな子供を職場に連れてきているのだから、驚くのも当然だ。


「えーっと。この子はね、実はクラ──」

「僕はここで働くクラウスの甥のジルドだよ。よろしくね」


〝クラウス師長だよ〟と言いかけたところで、クラウス師長本人が違う名前を名乗る。


(えっ?)


 びっくりしてクラウス師長を見ると、キッと睨まれた。話を合わせろということのようだ。


「…………。そう、この子はクラウス師長の甥のジルド君。師長の親戚のお子さんなの。ちょっと面倒を見ておいてくれないかって──」

「師長の親戚のお子さん? 確かに顔が似ているわ! わー、可愛い」


 サエラはクラウス師長の前にしゃがみ込むと、にこりと笑い手を握る。


「ところで、肝心の師長はエルマにジルド君を預けてどこに行っちゃったの?」


 ぎくっとして私は慌てて言い訳を考える。


「な、なんか、急に地方に出張が入っちゃったみたい。それで、ジルド君を預けられたの。私もさっきちょっとしか話せなかった」

「そうなの?」


 サエラは初耳だと言いたげに首を傾げる。


「うん。出張前に職場に立ち寄って、たまたまここにいた私にこの子を預けたの!」

「ふうん?」


 サエラはあまり納得していないようだ。

 そのとき、「どうしたの?」とサエラの背後から声がした。実験室に戻っていたショーンさんが、騒ぎに気付いて戻ってきたのだ。


「あ、ショーンさん。この子、クラウス師長の親戚の子なんだって!」


 サエラはショーンさんを手招きしてクラウス師長改めジルド君を紹介する。


「クラウス師長の親戚の子……?」


 ショーンさんは眉を顰める。


「さっきまではいなかった気がするけど?」

「休憩室に師長とふたりでいたみたいです。たまたま私がそこに行ったら、ちょうどいいところに来たからこの子を預かってほしいって、師長から──」


 我ながら、かなり苦しい言い訳だと思う。ショーンさんは訝しげな表情でクラウス師長のことをじっと見つめる。


「お名前はなんて言うんだい?」

「ジルド君よ!」

「エルマには聞いていないよ。この子に聞いているの」

「すいません」


 ショーンさんにぴしゃりと言われ、私は口を(つぐ)む。


「ジルドだよ」


 クラウス師長が答える。


「ジルド君。クラウス師長と親戚っていうのは本当かい?」


 ショーンさんはクラウス師長と目線の高さを合わせるように体を屈ませる。


「本当だよ。よろしくね、お兄ちゃん」


 クラウス師長は屈託ない笑顔をショーンさんに向ける。

 こやつ、なかなかの演技派である。


 めっちゃ可愛い。可愛いしか言葉か出てこない。


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