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【電書化】困っていた憧れの大魔術師様に追い打ちをかけたら、予期せぬ溺愛に翻弄されています!  作者: 三沢ケイ


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3.おちこぼれ魔女の秘密(3)

     ◇ ◇ ◇


 その日の夜。

 クラウス師長と一緒に家に帰ろうとしていた私は「エルマ」と声をかけられて足を止めた。


「ショーンさん、どうしましたか?」


 声をかけてきたのはショーンさんだった。帰宅するところなのか、肩に鞄を掛けている。ショーンさんは、片手を上げてこちらに歩み寄ってきた。


「今日、この後空いていたら食事でもどうかな?」

「え、食事?」

「うん。今日、少し実験を手伝ってくれただろう? お陰で上手くいったからそのお礼もかねて」


 ショーンさんははにかんだような笑みを見せる。


「そんなの全然気にしなくていいのに。上手くいったのは、ショーンさんの実力ですし」


 今日久しぶりに長時間研究室にいた私は、自分の作業が終わった後、ショーンさんの研究補佐をした。ショーンさんの研究はここ数日間上手くいかない日が多かったらしく、今日はいい感じだと喜んでいた。


「いや、すごく助かったよ。だから、よかったら──」


 そのとき、服の腰の辺りを引かれるような感覚がして私は振り返る。斜め後ろにいたクラウス師長が不機嫌そうな顔をして私のブラウスの裾を掴んでいた。


(あ。もしかしてクラウス師長、自分が置いて行かれるって心配している?)


 可愛い反応に思わず頬が緩む。


「とっても嬉しいお誘いなのですが、私はジルド君を預かっていますので」


 ショーンさんは私の背後にいたクラウス師長にようやく気付いた様子で、「あ、そっか」と呟く。

 そして、少し考えるような様子で顎に手を当てた。


「師長って、その子を預けたときどんな様子だった?」

「え。どんなって?」

「いつもと同じ感じ?」


 私は質問の意図が掴めず、小首を傾げる。


「うーん。焦っている感じはありましたけど。お急ぎだったみたいで」

「……そう」


 ショーンさんはそれ以上深く質問してくることもなく、にこりと笑う。


「わかった。じゃあ、また明日」

「はい。また明日」


 私はぺこりとお辞儀して、ショーンさんの後ろ姿を見送ると、クラウス師長と一緒に歩きだす。


「〝嬉しいお誘い〟なのか?」

「何がですか?」


 クラウス師長がぼそりと呟いたので、私は聞き返す。


「さっき、ショーンに誘われて、そう言っていた」

「ああ。礼儀としてそう返すのが普通じゃないですか?」


 なんで不機嫌そうなのだろうと思い、自分のせいで行けなかったかのような断り方をされて不本意だったのかと気付く。


「師長、ごめんなさい。師長のことをのけ者にするつもりはなかったんですよ」


 クラウス師長を窺い見ると、不機嫌そうに口を尖らせていた。


「お詫びに、明日の朝は師長の好きなパンケーキを焼きます」

「お前が俺の好きな物を作るのは、俺の機嫌を取るためなのか?」


 クラウス師長がまっすぐにこちらを見上げる。真意を問うような真剣な眼差しに、なぜこんなに突っかかってくるのかと困惑してしまう。


「機嫌を取る? 違いますよ。師長が嬉しそうに食べてくれると、私も嬉しいからです」

「俺が嬉しそうだと、お前も嬉しい?」


 クラウス師長は目を瞬くと、「そうか」と呟く。

 私から顔をふいっと背けて、代わりに鞄の端をぎゅっと握ってきた。


(なんかあったかな?)


 今日は自分が研究をしに行ってしまったせいで、クラウス師長を長時間独りぼっちにした。本人が大丈夫だと言っていたからお言葉に甘えてしまったけれど、不安だったのかもしれない。


 私は自分の鞄を握るクラウス師長の手を優しく外すと、代わりに自分の手でその小さな手をぎゅっと握り込んだ。


「パンケーキのお供、何がいいですか? ハチミツバターか、いちごジャムか」

「……両方」

「食いしん坊だ」

「だめか?」

「いいですよー」


 こちらの機嫌を窺うかのようにおずおずと見上げてくる姿が、めちゃくちゃ可愛い。

 こんな風におねだりされたら、だめなんて言えないでしょ!


「たくさん作りましょうね」

「うん」


 私はクラウス師長と手を繋ぎ、我が家へと向かったのだった。


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