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【電書化】困っていた憧れの大魔術師様に追い打ちをかけたら、予期せぬ溺愛に翻弄されています!  作者: 三沢ケイ


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3.おちこぼれ魔女の秘密(2)

 ここ数日でようやくおかしな薬の効果が切れてきたようで、魔力の放出量がだいぶ増えた。しかし、それでも平均的な成人の量と比べると遥かに少ない。


「さっきはできたのにな」


 自らの不甲斐なさに肩を落とす。


 魔力の放出量が不安定なせいか、こういうことが度々あった。できなかったことが急にできるようになったり、かと思えばまたできなくなったりする。

 昨日も、帰宅時に手を洗おうとしたとき、魔力式の自動水栓をこの姿になってから初めて自分で開けることができた。それでその後意気揚々と風呂に行ったら、なぜか水栓は反応してくれず、結局また服を着てエルマを呼ぶ羽目になった。


(上手くいくときといかないとき、何が違うんだ?)


 魔力量は変わらないはずだ。魔法のかけ方も同じにしている。何が違うのだろうと考え、ふとここ最近上手く魔法を使えるときはいつもエルマが近くにいたことに気付く。


(エルマがいると、上手くいく?)


 周囲に好影響を与える魔術師の存在は古くから知られている。

〝付加魔法師〟と呼ばれる魔術師だ。自分以外の誰かの魔法を手助けする補助魔法を、無意識に放出している。


 俺はすぐに首を横に振る。


(ただの偶然だろう)


 付加魔法師はとても貴重で、その素質を持つ人間は魔術師全体の数百人に一人もいない。

 補助魔法自体は古くから多くの魔術師達が使っているが、魔法の効果を二割増しにできれば万々歳だ。ところが、付加魔法師となると常にその効果を発し続け、意図的に補助魔法を使おうものならその威力は二倍、三倍、下手をすれば十倍近い効果を発揮させることができる。

 ひとりいるだけでその周囲の魔術のレベルを一気に上げることができる、まさに〝宝のような存在〟なのだ。


 だが、すぐにエルマが以前言っていた何気ない言葉が脳裏を過った。


『私、ショーンさんがご機嫌斜めな日はなぜかいつもお休みをいただいていて、未だにその現場に遭遇したことがないんですよね』


 そして、別のことも思い出した。


(そういえば、エルマの同期はやけに優秀な成績を修めていたな)


 例年になく優秀な出来だった。さらに、エルマが入所後の魔術研究所の研究成果も非常にいい。

 それも、過去に見つかった付加魔法師と特徴が一致していた。


 付加魔法師は周囲に好影響を与える魔術師だ。そのため、本人は至って平凡にしか見えないことが多く、周囲から気付かれにくい。多くの場合、優秀な魔術師に交じる落ちこぼれのような印象を持たれやすい。


(偶然にしては、重なりすぎているな)


 プリスト所長はエルマを入所させるときになんと言っていただろうか。


『あの子は、他の子とは少し違う。きっと君の、そして、周りの研究者の助けになってくれるよ』


 確かにそう言っていた気がする。


──カチャリ。


 ドアノブを回す音がして、俺はハッとする。


「ただいま戻りました!」


 ドアから入ってきたのは、ほくほくの笑顔のエルマだ。


「早かったな?」


 ちょうど今エルマのことを考えていたので、当の本人の登場に動揺した。努めて平静を装う。


「そうですか? もう、四時間経っていますけど?」


 そう言われて時計を見ると、確かに四時間経っていた。


「師長はワーカホリックだから、また仕事に集中しすぎて時間が経つのを忘れちゃったんでしょ。軽食は摂りましたか?」

「ああ。食べた」


 俺が頷くと、エルマは「よかった。仕事も大事ですけど、ご飯や睡眠もきちんと取ってくださいね。体を壊しちゃいます」と笑顔を見せる。


(もしかして、俺の体を心配してくれているのか?)


 そう気付き、温かなものが胸のうちに広がるのを感じる。


「……エルマが作ったものは、美味しいから」


 ぼそりと呟くと、エルマはきょとんとした顔をした。そして、ふわっと破顔する。


「またたくさん作りますね」


 その笑顔を見たら、また胸の奥にむず痒さを感じる。

 エルマは手に持っていた研究ノートを執務室のローテーブルに置くと、イスに座る。


「今日、師長からのアドバイスを元に試してみたんです。結果が出るまでには一週間くらいかかるけど、上手くいけばいいなと思います」

「そうだな」

「あと、今日はみなさんなんだか調子がよかったみたいですよ。ここ最近いい結果が出なくて研究室がどんよりしていたみたいなんですが、今日は皆さんほくほくの笑顔でした」

「……そうか」


 いつもだったら聞き流しているようなことだ。しかし、先ほどエルマのことを〝付加魔法師〟なのではないかと疑い始めた俺にはどきりとする情報だった。


「エルマ。あの本が取りたいから、上手くいくか見ていてくれるか?」

「本?」


 エルマは俺の指さす本棚を見上げる。


「取ってあげましょうか?」

「いや。魔法の練習しているんだ」

「なるほど。じゃあ、見ていますね」


 エルマは立ち上がると、にこにこしながら俺の横に歩み寄ってきた。

 俺は手に集中する。先ほどとは明らかに違う、魔力の収束を感じた。


 次の瞬間──。


「取れた」

「わあ、すごい! さっきも成功させていたし、物質移動の魔法はもうばっちりですね」


 エルマは嬉しそうに両手を口の前で合わせると、大げさに俺を褒める。完全に子供の魔法が上手くいったのを褒める対応だ。


(やはり、エルマは付加魔法師なのか?)


 重なりすぎた偶然に、想像が確信へと変わってゆく。

 一方のエルマは、俺がそんなことを考えているとは露にも知らない様子でにこにこ顔だ。


「これなら、師長が完全復活する日も近そうですね」

「え? あ、ああ」


 俺の気の抜けた返事に、エルマは不思議そうに目を瞬く。


「師長? なんかぼんやりしていませんか?」


 エルマの手が伸びてきて、俺の額に触れる。

 触れられた瞬間、胸がどきりとした。


「熱はないですね」

「少しぼんやりしただけだ。なんでもない」

「でも、顔が赤いですよ? 暑いのかな?」


 エルマは首を傾げると、【暑いの勘弁、涼しくなーれ】と言いながら手を振る。すっと部屋の気温が下がり、冷却魔法を使ったのだとわかった。


 相変わらずおかしな台詞付きだ。

 不覚にも、ちょっと笑ってしまった。


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