鏡の中の僧侶
鳴り響く不快なアラーム音と甲高い鴉の声で目を覚ますーー。
「やはり寝る前に見た僧侶は現実ではなかったのだろうか?」
僧侶は赤と黒が混ざった袈裟を着て、布が2枚に分かれて頭から垂れ下がった帽子を被って私の部屋の姿鏡の前で座っている。なぜ私の部屋に居るのだろう?夜勤明けで疲れた私がいくら考えてたところで検討も付かなかった。
僧侶の隣には3〜4歳程に見える子供が2人佇んでいる。わいわいと2人で何か話しているように見えるが、部屋の扉の前からでは内容は聞き取れなかった。話しているのは子供2人だけではない、僧侶も独り言かのようにブツブツと呟いている、説法だろうか?
私はゆっくりとその姿鏡の前へ近づいてみる。後2m付近という所まで近づいたが、子供2人は私に気づく様子もない。ただ僧侶は私の存在に気づいているようだった。鏡を使って顔を覗き込むと確かに目が合った。私は鳥肌が立つような緊張感に襲われた。そして唱えていた説法を止め、こう私に告げた。
「お前は外側なのだ」
言っている意味が分からなかったが、聞き返す暇もなかった。そう言われた瞬間、立ちくらみと目眩で意識が朦朧となった。その場で蹲り、次第に意識は途絶えた。
目が覚めて何か大切なことを忘れている気がしてならなかったが、今は心の中でそれが夢であることを強く望んだ。
「もう思い出すこともないだろう」
そう決意し、今日も刑務作業を行うーー。