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第二話 アネリの召喚獣


 どう見てもチワワな子を召喚しちゃってから、はやひと月。

 いまだに父やお姉さまたち含め、誰もわたくしの召喚獣がただの犬じゃないかとは疑っていないみたい。

 けれども……チワワはチワワで、犬以外の片鱗をまったく見せないわ。


 朝は早くから散歩に行きたがり、温かい午前中はひなたぼっこ。

 午後はお茶するわたくしの膝の上でまどろんだり、一緒にボール投げして遊んでから、夕方にもう一度軽いお散歩へ。

 夜はわたくしのベッドの足元付近で丸まって寝ているわ。

 もうまったくもって可愛いワンコの一日よ。


 しかも抱き上げてそのモフモフの首筋に顔をうずめると、お日さまのにおいがしてすっごい癒やされるの。

 ちなみに手足の肉球は香ばしいポップコーンの香り。


 って、癒やされるのはいいんだけど……もしこの子が本当に魔獣じゃないのなら、色々と問題があるわね。

 だって召喚獣はただのペットじゃないのよ?

 わたくしが王子たちの護衛に任命された暁には、不審者や刺客と戦ってくれないといけないんだから。


 できればもう一度召喚をやり直したい気分なんだけど、魔獣の召喚は生まれてから十五歳になる成人まで、魔力を貯めに貯めてから行うから無理なのよねぇ。

 同じレベルの召喚ができるのはまた十五年後になっちゃう。

 つまり、わたくしは少なくとも十五年間はこのチワワを召喚獣として過ごさなきゃいけないってわけで……。


 そんな長期プランはさておき、まずは宮廷魔道士にならないといけないわ。

 普通に考えて、こんな可愛がって癒やされるしかないチワワが召喚獣で、宮廷魔道士になれるわけがないんだけど、それだと困るの。

 まずは宮廷召喚士にならないとトゥルーエンドどころか普通のエンドにすら進めないのよ!


 だから、宮廷召喚士になること、これは至上命題だわ。

 宮廷召喚士になるには、まずは七人いる王子のうち誰かの護衛に選ばれる必要があるの。トゥルーエンドを目指すなら第二王子ね。

 ちなみにトゥルーエンド以外のわたくし、キャスティーヌの末路はこうよ。

 一番外見も中身も冴えない第六王子の護衛になって、アネリへの嫌がらせが度を過ぎて王宮から追放され、最後には民間召喚士養成学校の教師になるというものだったわ。

 しかも父からも勘当されて、独り身のまま孤独な一生を過ごすことになる……。


 そんなの嫌だから、わたくしは死ぬ気で第二王子の護衛の座を射止めないといけないわ。

 真面目だけが取り柄でやや地味な第二王子は、その性格に反して迫力のある凶暴な召喚獣がお好みらしいの。

 なんでも武に秀でる兄、第一王子へのコンプレックスによる反動なんだとか。

 だからわたくしにはキマイラが必要だったのだけど……チワワは迫力とはもっともかけ離れた存在だし、どうやって第二王子に売り込めばいいわけ?


 なんて悩むわたくしをよそに、あっという間に王子たちに謁見する日がやってきてしまった。

 光あふれるだだっ広い謁見の間には、今年召喚士になったばかりの者も含めて全部で五十人近くの召喚士たちが集まっていた。

 ここ数年の間で召喚士養成学院を卒業した中でも、上位の実力者ばかりよ。


 周りをチラッと見れば、翼が生えたヘビ、ケツアルカトルを連れている者や、青白い球体のウィルオウィスプを肩付近に浮遊させているもの、さらには二本足の邪悪な妖精コボルトと手をつないで歩いてくる者もいる。


 う~ん、みんなたいしたことのない召喚獣だけど、さすがにチワワと比べたらどれも強そうねぇ。

 こんな中で凶暴な召喚獣を好む第二王子に選んでもらうのって、至難の業じゃない!?

 一体どうすれば第二王子の目に止まるのかしら……。


 そんな風に思案していると、少しおどおどした様子でゲームの主人公であるアネリがやってきた。

 そんな彼女の傍らを見てびっくりよ。

 ライオンのような迫力のある召喚獣を連れているじゃない!

 あれ? ちょっと待って。

 アネリの召喚獣、顔はライオンだけど……身体は白いし、尻尾がヘビ!?


「なんであなたがキマイラを召喚してるの!?」


 驚きのあまり声を上げてしまった。

 謁見の間に集まった召喚士たちが、いっせいにこちらを見た。

 そしてから、わたくしが腕に抱えてるチワワを見て、ちょっとビックリした顔をしている。


「えと……この子が私を選んでくれたようで……」


 アネリが怯えた顔でそう答えた。

 召喚士養成学院じゃ、顔を合わせるたびに「どうして下賤の者がこんなところにいるのかしら」みたいなことを言ってきたから、わたくしへの恐怖が身に染みついちゃっているのね。

 ゲームのシナリオの通りにやったこととはいえ、なんだかとても可愛そうで申し訳ないわ……。

 でも今さら路線変更なんてできないの。


「おかしいわねぇ、あなたみたいな平民にキマイラが召喚されるだなんて。キマイラはうちのバラグダート家のような、高貴な召喚士の血筋にこそふさわしいのよ。あなたみたいな地味でさえない庶民の娘とじゃあ、まったくもって釣り合わないわ」


 いつもの条件反射で嫌味が口をつく。

 でも地味って点でいえば、まるきり嘘じゃないわ。

 明るい金髪を長く伸ばし、そこそこ整った顔立ちにグリーンの瞳という派手な外見のわたくし。

 対して茶色い髪を二本の三つ編みに結った地味な外見のアネリ。

 ちなみに出身も中流階級で、制服以外の私服もなんだか地味なの。


 だから性格は大人しいけど、とっても心優しい素敵な女の子よ。

 わたくしがキャスティーヌじゃなかったら……そしてわたくしに前世の記憶がなかったなら、是非ともお友だちになりたいくらい。


 そんなアネリはまだ怯えた顔をしているものの、チラチラとわたくしのマロン――あ、チワワって呼び続けるのもかわいそうだから名付けてみたわ。ちなみに男の子よ――を見ている。


 マロンがあまりにも小さくて可愛いからビックリしているのね。

 まあ、無理もないわ。

 多分体重は二キロもないし。

 こうやって小脇に抱えていても全然重くないし。

 ていうか、抱えてないと好奇心旺盛だからすぐにいろんな人のところに行って、尻尾を振って飛びついちゃうのよね……。


 けれどもアネリにマロンがただの小さい犬だなんてバレたらマズイわ。

 わたくしはつんと顎を上げて、自信ありげに口を開いた。


「ふふっ、わたくしのチワワが気になっているようね。これは世を忍ぶ仮の姿なの。その証拠に……あっ、マロン!」


 話してる最中にマロンがわたくしの腕の中から飛び降りて、アネリの横でおすましして座っていたキマイラの方へ行ってしまった。


「いやっ、食べられっ……」


 キマイラは頭がライオンなだけあって気性が荒いはず。

 だからマロンなんかが無邪気に飛びついたら、苛ついたキマイラに食べられちゃうわ!


 と、思ったんだけど、マロンがキマイラの尻尾のヘビに甘噛みして遊びだしても、キマイラは「えぇ……何この子?」みたいな迷惑そうな顔で見て見ぬ振りをしている。

 そして胴にヨダレをつけられている尻尾のヘビはというと、なるべく顔を遠ざけて必死に堪えていた。


 え、怒らないの?


「えっ……」


 呆然とするわたくしとアネリ。

 そんなわたくしたちを見守る他の召喚士の中から、「今、食べられちゃうって言おうとしていませんでした?」という声が聞こえてくる。

 大変、とっさのことでつい本音が出ちゃってる!


「だ、大丈夫そうね。うちのマロンがあなたのキマイラを食べてしまうかと焦ってしまったわ。こう見えて中身は凶悪凶暴極まれりなのよ。でもちゃんとわきまえているのねぇ、甘噛みで済ませたようで良かった。ところであなたのキマイラ、何か言ってる? その……わたくしの召喚獣について」


 するとアネリは急いでキマイラの方に顔を向け、しばらく沈黙すると、さっと眉を上げて「まあ」とつぶやく。

 召喚獣は自分を召喚した者とだけお話できるのよ。

 ……まあ、マロンは例外のようだけど。


「す、すごいですね……この子は『私をもってしてもこの者の魔力をまったくもって感じることができない。これほどまでに魔力を隠匿できるとは、あな恐るべし』と言っています。さすがキャスティーヌさま、とても強力な魔獣を召喚されたようで」

「ふふっ、当然よ。本当に強い魔獣というのは、その強さを内に隠すものなのよ」


 そうなのね、魔力をまったく感じられないのね……。

 そりゃマロンはほぼ間違いなく、ただのチワワですもの。

 でもバレなくて良かったわ。

 わたくしはヘビさんをヨダレでびちょびちょにしているマロンを回収して、今度は小脇にしっかり抱える。


 そこで謁見の間中に「静粛に!」との声が響いた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] マロンちゃんかわいいです! 実はすごい強い魔獣だといいですね^_^ ヨダレでびしょ濡れは笑いました(笑
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