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第一話 召喚の儀


 すぐ近くの燭台の上で、ろうそくの炎がゆらゆらと揺らめいている。

 召喚の間は恐ろしいほどの静寂に包まれていた。

 なぜなら今から新米召喚士のわたくしが、魔獣召喚を行うから。


 代々強力な魔獣を召喚することで有名なバラグダート伯爵家、その末娘に異世界転生しちゃったのがわたくし、キャスティーヌなの。

 しかもわたくしはこの世界の主人公、アネリの恋路を邪魔する悪役令嬢でもあるわ。


 実はこの世界、わたくしが前世で唯一ハマった乙女ゲーム「私があなたを護ります~王子さまと宮廷召喚士のときめき護衛ライフ~」とまったく一緒なの。

 つまり乙女ゲームの世界に転生したってことだと思うわ。


 ちょっと神さま、どうせなら主人公に転生させてよ!

 って、神さまを恨みもしたけれど、転生しちゃったものは仕方ないわね。

 前世の記憶を取り戻したのもほんの数年前だし、その記憶もゲーム以外はもうけっこうあやふやで……自分の死因すら覚えていないくらいよ。

 それに、すぐに大事なことを思い出したの。

 わたくし、悪役令嬢であるキャスティーヌが幸せになるエンドが、一つだけあることを。


 それはもっとも到達難易度が高いトゥルーエンドというもので、主人公アネリがここモデラルド王国の第一王子と結婚してゆくゆくは王妃となり、わたくしは第二王子と結ばれてアネリの義妹になるっていうシナリオよ。

 つまりわたくしが幸せになるためには悪役令嬢を演じつつも、アネリをさりげなく助けてトゥルーエンドに導いてあげなきゃいけないってこと。


 だからわたくしは召喚士養成学院でも、ゲームの中で語られていたエピソードどおりに庶民出身のアネリに程なく嫌がらせをしたし、首席で卒業できるよう必死に勉強に勤しんだわ。

 そしてその仕上げとして、わたくしはこれからメチャ(つよ)な魔獣を召喚しようとしているのよ。


「ではキャスティーヌ=バラグダート、召喚を」

「は、はい!」


 わたくしは召喚陣の中に進んだ。

 召喚の間は窓のない地下室にあって、だだっ広い空間のど真ん中に召喚陣が描かれた殺風景な部屋だった。


 しかし今、そのホール内にはバラグダート家にゆかりのある召喚士や、召喚士養成学院でお世話になった先生や先輩方、先に召喚士となって国に仕えているわたくしのお姉さまたち、さらには一家の長でありバラグダート伯爵であるお父さままで集まっていた。

 召喚の間に入れるのは召喚士だけとはいえ、軽く三十人近くが召喚陣を取り囲んで、薄暗い闇の中、固唾をのんで見守ってくれている。


 ……ていうか、ギャラリーが多すぎじゃない?

 緊張で足がちょっと震えてしまうのですけど。


 全キャラクリア後に進むことができるトゥルーエンドのシナリオでは、悪役令嬢のキャスティーヌは通常シナリオよりも格上のキマイラという魔獣を召喚していたわ。

 だから狙うはキマイラ一択よ!

 キマイラはライオンの頭に山羊の胴体、ヘビの尻尾を持つ化け物で、強そうだけど……想像するとちょっとキモいわね。


 ちなみに普通のエンドに向かうシナリオで召喚するのはグリフォンだったわ。

 グリフォンは上半身がワシで下半身がライオン。

 つまり、どう転んでもちょっとキモいの。


 はぁ……どうしてわざわざ別々の動物をくっつけるのかしら。

 主人公が使役するのはフェニックスとかペガサスとか見た目が素敵な魔獣なのに……。

 わたくしは可愛い動物の方が好きなのよ!

 女の子は普通そうじゃないの?


 でもまあ、わたくしは悪役令嬢だから仕方ないわね。

 キャスティーヌはこの先も主人公の恋路を邪魔して王宮から追い出そうとしたり、事故に見せかけて命を狙ったりする嫌なやつだもの。


 って、そんなこと今はどうでも良かったわ。

 さあ、お願いだからキマイラさん、どうかわたくしの元に来てくださいませ。

 わたくしはあなたと共にトゥルーエンドを目指しますわ!


「では、召喚を始めます」


 わたくしは声が震えないよう、なるべく声を張って召喚呪文の詠唱を始めた。


 するとすぐさま床に描かれた召喚陣がマグマのような朱色に光り輝きだした。

 同時に焦げ臭いにおいが立ち上る。

 さらには緊張でガチガチのわたくしの目の前で、白い蒸気がもくもくと膨れ上がっていき、視界が真っ白に染まったと思った次の瞬間、パッと霧散していった。


 そうして元どおりに色を失った召喚陣の中、現れたのは――。


「…………は?」


 一瞬、何もいないのかと思ったわ。

 それほどに小さかったから。


 クリーム色のふわふわの長い毛。

 黒豆みたいなまん丸な瞳。

 そして三角の大きな耳をピンと立てて、ちょこんとお座りをした……。


 ちょ、待って。

 これって……。


「チ、チワワ?」


 わたくしの疑問に答えるように、その小さすぎる獣はすくっと立ち上がると、くるっと右回りに回ってから尻尾をパタパタと振る。

 口角をキュッと上げて笑うように開いた口元からは、ピンクの舌がちろっと垂れていた。

 その愛らしい仕草は、まさに前世で見たチワワそっくり。


「なんで……?」


 これ、魔獣召喚の儀式なのだけど……え、本当にチワワなの?

 いや、そんなはずは……。


「ほう、この魔獣はチワワというのか。しかし、これほどまでに小さき魔獣は初めて見るな」


 父だった。

 いつも以上にイカツイ顔をしかめ、難しそうな顔でチワワ(仮)を見ている。

 というか、睨みつけてると言っても過言ではない。

 やめてよ! そんな恐い顔で見たらチワワが怖がっちゃうわ!


「お父さま、この魔獣は本来、あまりにも強大で極悪で迫力満点過ぎる外見なので、人間を怖がらせないため、あえてこの小さきモフモフに姿を変えているのです」


 ついうっかり。

 チワワが震え出す前に父の睨みを解きたくて、ものすごい嘘をついてしまったわ……。

 ちょっと大げさだけど、魔獣は自分を召喚した召喚士としか会話できないことになっているから、バレないはずよね?


「なに? それほどまでにすさまじく強力な魔獣を召喚したというのか!? さすが、我が娘たちの中で最も魔力の秀でたキャスティーヌだ、はっはっは!」


 お父さまは満足げに高笑いをする。

 そして周囲で召喚を見学していた人々の間からは、感嘆の声が漏れた。


 良かった! 信じてくれた……のかしら?

 う〜ん、自分で言うのもなんだけど、良くあんな嘘を信じてくれたものね。

 まあこの世界には犬はいるけど超小型犬はいないから、チワワだってバレることはないはず。


 でもねぇ、どうしてチワワなの?

 わたくしのキマイラはどこに行ったわけ!?

 まさか、可愛い動物が好きとか言ったから罰が当たったのかしら?


 だからって、これしきのことでトゥルーエンドを諦めるわけにはいかないわ……。

 だって今までどれだけ苦労してアネリを虐げたり、勉強に勤しんだりしてきたことか。

 それにわたくしが自分の幸せを諦めるってことは、アネリのトゥルーエンドも諦めるってことなのよ?


 つまり、わたくしとアネリが真の幸せをつかむため、このチワワとともにトゥルーエンドを目指すしかないの!


 わたくしは決意とともにその可愛らしいチワワに歩み寄り、しゃがんで手を伸ばす。

 するとチワワは嬉しそうに尻尾を振りながら、わたくしの指先を舐めたのだった。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

前作の短編と違い、だいぶコミカルな話になりました……。

もとは短編用に書いたつもりが、あまりの文量に連載用に変えたという経緯がありますので、さらっと短めに終わる予定です。

今日はニ〜三話投稿しようと思ってます。

良かったら引き続きよろしくお願いします。


そしてブクマや評価(↓の方にある☆)をいただけるととっても嬉しいです!

引き続き更新頑張りますので、よろしくお願いします〜!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです! 魔獣がまさかのチワワなのが良かったです! [一言] これからも頑張ってください!
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