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1.1話 再び花は咲く。

 「なぁじっちゃん。」

 清潔感のある綺麗な黒髪が印象的な中肉中背の青年、優希だ。

 「おう。なんだクソガキ。朝帰りとはなかなか度胸があるな。」

 ボロボロの古びたマントを纏ってフードを深く被り顔が見えない不思議な人物、じっちゃん。

 「だろ?」

 ドヤっと綺麗な歯が見えるように笑う。

 優希は十七歳。普通なら旧東京の為に働かないといけない歳だ。だというのに、優希は毎晩毎晩遊び歩いているんだ。

 「クソガキ。おちょくってんのか?そろっとマジで、軍に入れって命令が出そうなんだぞ?」

 「帝国軍?いいね。徴兵令が出るまでニートしてるよ。」

 この国、旧東京の軍は帝国軍で、法律的には徴兵制は無いが、十七歳を過ぎて一年間なにも仕事に就けなかった人への救済措置として軍に入りませんか?という半強制的な命令が出るんだ。

 「よくねぇんだよ。あの軍のトップはゴミだから。」

 「へぇ。じゃあ、尚更入りたいね。」

 「俺への当て付けか?」

 「どうだろうか?まぁ、怪異と戦う軍なんて魅力じゃね?」

 「誰に似たんだか・・・軍はダメだ!」

 そう言って、優希の腕を掴んで連れて行こうとするじっちゃん。

 それを振りほどいて走り出す優希。

 これまで何度も就職させられそうになったが基本的な仕事は笠を編む、とか、露店の手伝い、とか、本当に魅力を感じない仕事ばかりさせられる。だから優希は毎日毎日、低級怪異と戦ってそれを軍に横流しして利益を得て生活をしている。でもソレは生死を彷徨う事だ。だからこうやってじっちゃんに一日に一回は必ず顔を出して生きているという報告をするんだ。

 「じゃあなじっちゃん。」

 「おい!!・・はぁ、彩花・・・ちっ。おい。森には近づくな。大型の蟷螂型が出たようだ。」

 じっちゃんが呆れながら警告をする。

 基本的に無駄なんだけど、じっちゃんは優希が怪異殺しをしていることを知らないだろうし。

 優希は天邪鬼だし。

 「わかった。近づかない、づかない。蟷螂型・・・」

 今日の敵は危険な予感。

 優希は森に向かって走り出した。


 ~NowLoading~


 「未来様。報告がございます!」

 白を基調とした軍服を纏った男性が声高に言う。

 「なに?端的にお願い。」

 黒と紫を基調とした軍服ワンピースを纏った凛々しい女性がニコっと笑いながら言う。

 「新木彩花の子孫と思われる少年を発見しました。そして花の祠の活性化を確認しました。」

 「へぇ・・・彩花のね・・・」

 ふふっと微笑む。

 「いかがいたしましょう。」

 頭を傾げ聞く。

 「私が行くよ。多分、子孫君は祠に向かうだろうし。」

 軍服の男性はポカンと口を開ける。

 「あ、そんな、未来様の手を煩わせるわけには・・・」

 「一人で行くよ?」

 笑顔なのにどことなく異様な圧力を感じる。

 「あ、えっと、はい。」

 圧力に負けちゃった。

 

 ~NowLoading~


 旧東京の中央東京では空を見ることが出来なくて、怪異が狂暴だ。

 百年前の【怪人戦争】の大きな代償。不動の巨木、【死桜】。ユーラシア大陸の中央部分から生えているソレは中央東京(今の東日本)の上空を覆っている。それにより中央東京では【死桜】から放たれる瘴気と呼ばれるものに共鳴して怪異がとても活性化している。

 優希は中央東京の禁忌の森と呼ばれる領域の近くまで来ていた。基本的にここら辺の怪異は蟲の怪異と獣の怪異と相場が決まっている。この二匹は比較的弱い低級の怪異に分類されながらもその厄介さから報酬がいい。だから優希はこの蟲と獣を禁忌の森付近で狩っているんだ。

 「怪異、怪異ー♪ふんふーん」

 スキップをしながら相棒の木こりの斧を振り回して怪異を探していると森の奥の方から人の悲鳴が聞こえ、グルぎゅう・・・という鳴き声が聞こえた。

 「蟲の声だ!人が襲われてる!!」

 優希は悲鳴のした方を向き、走る。

 走っているとそろそろ見えてくる。

 蟷螂型の蟲の怪異だ。男性が喰われている。

 「あ!」

 間に合わかったようだ。ぐちゅ、ぐちゅと気味の悪い音を響かせながら怪異は男性を食べている。

 「おい!お前・・・!」

 食べかけのもうこと切れた男性を投げ捨て蟷螂はこっちを見つめる。

 ルルぐるっぎゅ・・・・

 「お前だな。大型個体さん。」

 両手で木こりの斧を構え、蟷螂とにらめっこ。

 「どうだした?ビビってる?」

 蟷螂は何かに怯えている。

 「これ、好機?」

 力強く地面を蹴って、蟷螂の懐に。

 ルル!?

 「気付くの遅い。」

 足から頭にかけて大きく斬りつける。

 緑色の液体が溢れ出て蟷螂は黒い靄と共に消える。

 コロン・・・

 綺麗なビー玉のようなモノが転がり落ちる。

 「綺麗・・これ、なんだ?ってか!?死体が残ってない!?」

 どうしよっかな?と頭を掻きむしって考えているとふと気づいたように立ち上がって。

 「ここ、どっこだぁ?」

 いつの間にか奥まで入り込んでしまっていたようだ。 


 ~NowLoading~


 「くそ。あぁ、失敗した。本当に馬鹿。」

 よくわからないまま歩くが蜘蛛の巣に引っかかったり、溝でつまずいて転んだり、運がないんだなぁと呟きながら歩く。

 どれくらい歩いただろうか、いつの間にか太陽が沈んでしまった。

 「あぁ、こんな時間・・・怪異がめっちゃ出てくるぞ・・・」

 仮にここが禁忌の森だとすると【蜘蛛の怪異】が出るかもしれない・・・蜘蛛の怪異は中級の怪異で結構手強いし、花の瘴気で活性化もしているだろうし、はぁ・・・と俯いていると目の前に鳥居が見えた。

 「神社?なんで?」

 異様に新しさを感じる綺麗な赤の塗装をされた鳥居に奥に続く石階段。

 「上に誰かいるかも?」

 ふとそんなことを思い鳥居をくぐってしまった。

 結構長い石階段を登るとそこには祠があった。

 月の光に照らされて、不気味な雰囲気を醸し出すその祠に優希は直感した。これは触れちゃいけない、関わっちゃいけない、ダメなモノだ。と。

 ごくんと唾を飲み込む。ヒヤッとほっぺを汗が伝う。

 この祠はまずい。

 ゆっくりと後退りをする。

 『助けて。だれかそこに居るんでしょ?』

 頭に響いてきた。可愛らしい声だった。

 「誰だ!?」

 『やっぱり!!ねぇ!助けて!!』

 急に切羽詰まった喋り方になった。

 「どこ!?助ける!」 

 『その祠!祠を壊して!お願い!』

 祠!?

 祠を見つめる。

 「お前、何者だ?」

 どこからか桜の花弁が舞いほっぺに付く。

 「・・・彩りの花・・・」

 『え・・?』

 大きく息を吸って木こりの斧を祠に叩きつけた。

 木製の祠はバキっと壊れ、中から光が漏れだす。

 『ありがとう・・・・』

 光は集まって人の形を映し出す。

 その人は桃色の綺麗な髪を持った美少女だった。

 「やっぱり、花の、」

 『花だって分かって壊したの?なんで・・・』

 「騙したつもりだったようだけど、俺は彩花、貴方の事を知っていた。」

 『知っていた?そっか。そうなんだ。だから、彩りの花って言ったんだ。』

 「で?どうすんの?」

 『私は、ハナって人から逃げたいの。だから、契約させて。」

 「契約?」

 『怪人契約。』

 怪人契約、それは怪異と人が手を取り合う契約だ。怪異の力を人が行使できるようになる契約。

 「怪人!?・・・花の怪人・・・」

 『いや、だよね。』

 「いいよ。かっこいい。」

 『え!?あ、っはは!君、悠斗みたいだ!』

 えへへ、とちょっと照れながら優希は笑った。

 彩花が手をだしてきて、

 『契約、しよ?』

 うん。と頷くと優希は彩花の手を取って

 「よろしく。」

 彩花が光の粒子となり優希の中に入り込んだ。

 髪の毛がピンクに変色している。

 「あれ?自慢の黒髪が・・・」

 『え!?そうだったの・・・ごめんなさい・・・』

 「あ!大丈夫だよ!」

 『うぅ・・・ごめんなさいぃ・・・』

 とても申し訳なさそうな声が頭に響く。

 「怪人契約すると心に怪異が住むのねぇ・・・あ、俺の名前は優希。よろしく。」

 『あ!よろしく!優希!私は彩花!』


 「ねぇ、少年。なにしてるの?」

 いつの間にか後ろに人が居た。それも軍服ワンピースを着た、あの・・・

 「【黒姫】・・・三良坂未来・・・・」

 「知っていたのかい?光栄だ!うれしいなぁ・・でさ?君、花の怪異と契約、しなかった?」

 「してませんし。なんなんです?花の怪異なんて・・・」

 「あくまでも言い逃れようとするか・・・悠斗君みたい・・・でも残念。さっき見てたよ?」

 「そうですか。ええ。そうでしたか。」

 斧を三良坂未来に投げつけ森の中に入って走る。

 「うお!ちょっと、危ない・・・はぁ、逃げないでよぉ。もう!」

 一心不乱に逃げる。

 「ヤバいね。あの人は強い。」

 『知ってる!ごめんね。私が契約とか言うから・・・未来ちゃんがぁ・・・』

 「知ってるの?」

 『元ヴァルフォール・・・えっと、仲間!』

 「じゃあ、交渉で平和的解決が可能なんじゃ!!」

 

 「黒き炎よ彼の者を包め。」


 次の瞬間、黒い炎が優希を包み込む。

 「ごめんねぇ。平和的解決は無理かなぁ。中身が彩花ちゃんでもね。」

 『未来ちゃん・・・なんで・・・・』

 「くそ!離せ!熱くない炎ほどけ!!」

 「無理だよぉ・・拘束、するね?帝国の敵さん。」

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