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リュドミラの秘密

「まぁ雲母君も見たでしょうけど……今のリュドミラはどうかしら?」


校長は砕け散った机の瓦礫の下から背もたれが吹き飛び、高そうな黒革が無惨に破けたがなんとか原形をとどめているあの高そうな椅子を引っ張り出し座ると俺に問いかける。


「そりゃもちろん校ち……久美恵先生。さっきまで俺を殺す気満々だったリュドミラはなぜか気弱そうなというより臆病な雰囲気を纏って出口の近くで縮こまってますけど……これってどういうことで?」


校長先生と呼ぼうとしてギロリと睨まれたのでうまい具合に久美恵先生と呼び直した俺は見たままの現在のリュドミラの様子を答える。


「そう!ものすごく気弱そうよね。雲母君もなんとなくわかっているでしょうけど彼女、リュドミラは俗に言う二重人格なのよ」


パンと手を叩いた久美恵先生は俺が思いいったていた答えとまったく同じ事を口にする。


「それで雲母君。少し話が変わるけどドイツの隠し球リュドミラの実力はどうだったかしら?SS級の雲母君としてはどう思う?」


久美恵先生は何やらやや語弊のある言い方でリュドミラの実力について問う。


「……久美恵先生、SS級なんて大それたランクなんて付けないで良いです。ただまぁ……確かにリュドミラはドイツの隠し球として十分な素・質・はありSS級といえる。ただ現時点では良くてAの上のほう……剣聖学園で1番強いあいつにやや劣勢……てところでしょうね。慢心をなくし場数を踏めばあるいは……」


リュドミラとの戦闘を思い返しながら客観的に結論付ける。


実際リュドミラの氷刃は目を見張るものだった。


リュドミラ本人の戦闘スタイルのせいか大きさは小ぶりだったが数は多くなによりコントロールがずば抜けて良かった。


しかし実戦経験が少ないのだろう。挑発にのりやすいところがある。


そこを直せば今の俺では勝ち目はほぼない。


「ふーん、よくリュドミラを見てるわね。もしかして彼女のことが好きなのかな~?」


その言葉を聞いた久美恵先生は笑みを深めながらからかってくる。


「そんなわけねぇとだけ返しときます。相手を観察するのは癖みたいなものですからね」


またうまい具合にはぐらかされているような気がしてきている。


「良いわね~命の駆け引きから始まる恋ってやつ?まぁこっちに留学させたのもリュドミラに最初に雲母君を襲わせたのも実は私なんだけどね~なんせ雲母君、強いし日本でも指折りのSS級なのだから特に気にしてなかったんだけどね」


ボウッと俺の中で怒りの炎が火力を増したように感じた。


別に俺は勝手に命を狙うよう陰から指示した久美恵先生に対して怒っているわけではない。


稀なことではあるが命を賭けた『私闘』が行われないわけではない


俺の怒りが向いているのは別の言葉だ。そちらは今の精神状態の俺ではとても感化できない。


「何度も言わせないでくれないですかね編入のとき言っただろう俺に対して『SS級』やら『指折りの実力者』なんて言葉使わないでくれと。そもそも俺にそれは似合わねぇです何よりそんな資格もないわけですから」


口調が普段使う言葉より鋭くなっていることに気づき冷静になるよう努めるが眉間にシワが寄っていることだろう。


「で久美恵先生は結局なにをお願いしたいんですか?頼みたいことがあると言って、ただ俺をからかいたいだけと言うのであれば俺は帰ります」


そう鋭く言い俺は必死に爆発しそうになっている怒りを抑えながらもう扉もない出口に向かって歩きだしたが出ていこうとする前に出口の辺りで座り込んでいたリュドミラがこちらに身をのりだして親指と人差し指だで弱々しげに裾をつまんで俺を引き止めた。


「……リュドミラ、どういうつもりだ?」


眉間にシワを寄せたままリュドミラの顔を見る。


「……」


リュドミラはそれで怯えたようで顔をうつむけ黙ってしまっている。


俺はため息をつきそうになるのを我慢しリュドミラの手を外すと出ていこうとまた歩きだした。


「ま、待って!」


校長室を少し出たところで後ろからか細い声がかかり今度は左手の袖が掴まれた。


今度こそため息をつき同時に今もなお燻っている怒りを鎮火させ振り返る。


「からかいとか一切なしで必要なことだけ教えてください」


元いた位置から1歩たりとも動いていない校長にむけて言う。


「分かってるわよ、さっきはごめんなさいね。地雷を踏んでしまったわ。では手短に今回雲母君に頼みたいのは気弱モードになったときのリュドミラちゃんの護衛よ」


ここにリュドミラがいて俺をひき止めたのがリュドミラならリュドミラに関係するものとは察しがついていたがまさか本人の護衛とは予想していなかった。


「リュドミラは並みの能力者なら余裕で撃退出来るはずでは?」


あれだけの手数とコントロールだA級に絡まれたとしてもあいつ意外なら逃げる程度造作もないはずだ。それどころか普通に勝てる。


「あーそれね。なんかよくわからないらしいけど気弱モードになってると魔法が一切使えないらしいのよ。C級にすら負けちゃうほど弱くね。けどリュドミラを狙う組織やら能力者は多いしこの秘密がばれるわけにもいかないから護衛をつけようってわけ」


なるほどと合点がいったあれ程の強さを持ちながらドイツが出してこなかった理由は隠し球とすることで自然な流れでこの弱点を知られないように隠すためだったわけだ。


「はぁ、まあ何となく分かった。でさっきから黙って袖を掴んでいらっしゃるご本人としてはどうお思いで?」


俺はリュドミラのほうを一切見ずに話をふる。


一方唐突に話を振られたリュドミラはビクッと体を震わせたが目が泳ぐだけで答えようとはしない。


「正直現時点で、俺はこの件を断ろうと思っている。護衛対象が命、狙ってきたやつってのもあるが面倒くさいからな、何が起こるかわかったもんじゃない」


こう言われてもリュドミラは何か言葉を返すわけでもなくただオドオドしているだけ。


「この護衛も能力的に見て俺が適任だと思っているのだろうが……まぁリュドミラは知らねぇと思うが……使い勝手は悪いし高確率で俺が痛い目に会う。迷惑でしかない。その上で」


そういうと袖を掴んでいるリュドミラの手を振り払うとその場で体ごと振り返り初めてリュドミラと向かい合う。


「リュドミラ自身はなにを選ぶ、俺にデミリットしかない事を知った上で俺に頼むか他を当たるか何もせずに縮こまるか……ってのも言えないかならもうい。若干気分も悪いことだしちゃっちゃとすませたいから手短にしよう」


俺はリュドミラのほうに右手を出した。


「俺に頼むなら頷くなり握手するなりしろ。他をあたるならあのお調子者の校長の所に行け。そりさえわかりゃ話が進むからな」


そう言うと俺は他にはなにも言わず口を紡ぎリュドミラ自身の判断を待つ。


カチコチともうほとんど存在しなくなったアナログ時計が時を刻む音だけが延々と響く


その中リュドミラは落ち着きを取り戻したのかオドオドせずひたすら考え込んでいるようだった。


その間も手をあげ続けているため腕が痛くなってきたがそれでも俺は手を下ろさない。


30分を余裕で過ぎ1時間も回った頃ようやく顔を上げたリュドミラは俺の手をとったり頷いたりせず校長のほうに歩きだした。


「と言うわけで俺は帰ります。俺よりも強い人はまだいるはずですから。なんならあいつにでも頼めば良いですよ」


上げ続けていた手を下ろした俺はそう言い放ち俺は校長室を出た。今度はリュドミラも校長も引き止めはしなかった。

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