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医務室の観音菩薩

「なんでこうなった!」


俺はやっと見つけれた医務室のベットで頭を抱えた。


「ここは医務室よー静かにしなさい」


初老の目尻が穏やかに下がったおばさん、というよりおばぁちゃんの覇気のない声がした。


「あ……すみません」


ここが医務室だと言うのに叫んでしまったことに気づきおばあちゃんに謝る


「いくら彼女さんひとりだからって騒いじゃだめよーほらこんなに可愛らしい顔で寝てるんだから」


おばぁちゃんが見たベット俺の向かいにはしっかり毛布をかけられて寝ているそれはそれは美しいリュドミラがいた。


「たしかにそうですね・・・・ははは・・・」


正直俺には眠っているドラゴンや熊に見えるが


そもそもこうなった原因は、この観音菩薩みたいな微笑みを浮かべるおばぁちゃんのせいだ。


俺がぜえはぁ言いながらようやく担ぎ込んだリュドミラと俺の顔を見て、彼女、彼氏の関係だと勘違いしたのだろう


『先生たちには女子生徒が一人運ばれてきたとだけ伝えておくからあなたはそばにいてあげなさい』


と本当の彼女、彼氏なら神の一言に聞こえる素晴らしい気遣いをしてくれたのだ。残念なことに今回は最悪の言葉になってしまったが事情を知らないおばあちゃんを誰が責められようか。


もちろん俺とリュドミラはそんな甘い関係ではない。勝手に命を賭けさせられて激しい駆け引きをした相手だ。それ以外にも運び込まれる原因になった事件もあり、次会ったら確実に殺されることが目に見えていた。だから俺はおばぁちゃんが医務室から出ていった後にそっと帰ろうとしたのだが玄関口でおばぁちゃんがこの状況になるとわかっていたのか待ち構えていてあえなく失敗に終わり今にいたる。


はぁ、ヅァヴァーはまだ回復しきっていないし、リュドミラが起きたて俺の顔を見た瞬間にまたあのレベルの氷刃を作られたら俺よりもおばぁちゃんが危ない。防御結界はおばぁちゃんのほうに張ってどうにか守りつつ俺が窓から飛び降りるとかをして離脱すればおばぁちゃんの安全は守れるだろう。それまでに俺が死んでないかはもはや神のみぞ知るってものだろう。今のうちにおばぁちゃんの肩でももんでおいた方がいいのかな。


「あらあら、もうこんな時間。彼氏さん、おばぁちゃんちょっと用事があって席を外すけどちゃんと彼女さんと一緒にいるのよー」


一人、リュドミラが起きた時の行動を考えているとおばぁちゃんが座っていた椅子から立ち上がった


「はーい……いなくなったか。これで心配事の一つが消えた。後は医務室内の損傷を避けるために俺が逃げねば」


ゆっくりとした動作で出ていったおばぁちゃんを見送った俺は即座に次の脱出計画を実行に移す。


やることは簡単、医務室の窓、5階建ての筒ヶ峰高の3階から飛び降りるだけだ。


「このぐらいの高さなんて死ぬほど飛び降りて来たんだ。失敗することなんてない!」


縦横無尽に飛び回る氷刃の中を離脱するよりはましだ!


窓を勢い良くスライドさせ、いざ空中へ!と身を乗り出したとき目線の先、グラウンドの中央に立っていたのは……おばぁちゃんだった……


「おばぁちゃん……あんた未来予知の能力でも持ってるの……最高齢能力者だよ……ん?なんか叫んでる」


グラウンドのおばぁちゃんが両手をメガホンにして何か叫んでいる。


正直何を言っているのかは聞こえなかったが、何となくの雰囲気から予想できる。


「『心配して見に来てくれたのね、おばぁちゃん嬉しいわ』……ってところですか……おばぁちゃん、俺の負けです。俺……いや私はおばぁちゃんのおかげで、悟りを開くことができました。絶対に医務室は守り抜きますからね」


とても晴れ晴れとした気持ちでグラウンドに立っているおばぁちゃんに手を振ると窓を閉めた。閉めるときの勢いが強すぎて窓ガラスにひびが入ったような気がしたがもう気にしないしない方が良い。


大人しくベットに腰掛ける前にコンコンコンと律儀なノックが医務室の扉から響いた。


「はいはい、どちら様ですかっと」


ためらいもなく開けた扉の前に立っていたのは、30代後半ぐらいのフレンドリーそうな女性だった。


「あら、こんにちは。探したのよ」


「えっと……どちら様ですか?」


何処かで見たことがある人だな~とは思うのだが、そこから先は見当もつかない。


「もう冗談を言って、ここ筒ヶ峰高等学校の校長先生よ。始業式の時に挨拶したの聞いてなかった?」


「はい、もちろん聞いていましたよ。すみません度忘れしていたみたいです」


内心はドッキドッキだった。聞いてなかったどころか始業式中ずっと寝ていて一切話を聞いていないのだ。


「そうなの、度忘れなら仕方ないわね。ところで今空いてるかしら?校長室まで来てほしいのだけど」


友達と話すような気軽い調子で、校長先生は言った。


「はい。すぐに向かわせてもらいます」


リュドミラがいる医務室から逃れて建物の損傷の恐れもないなら職員室でも校長室でも地獄でも大歓迎、快く了承する。


「そう!じゃついてきてくれる?」


こうして無事にドラゴンが眠る巣穴から逃げ、医務室も守ることができそうだ



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