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始まりの旋律は静かに流れ出す

ジリリリと、けたたましい音が鳴り響いた。


「んーー、ああー!うっせぇ!」


俺は音の発生源である目覚まし時計の上部に付いているボタンに、手を叩きつけ黙らせた。


「痛った、今何時だ?」


目覚まし時計に叩きつけたせいで痛む右手を擦りながら映し出されている時刻を見る。


「やべぇ!遅刻する!」


映し出された時刻は7時40分、最寄りのバス停から学校行きのバスが出るまで残り20分を切っている。


「これならスマホの目覚まし機能も使っとくんだった!ほんと学習しねぇな俺!」


ハンガーに掛けられている2種類の色違いの制服のうちの黒色のほうを急いで着け、腕時計その他細々したものを身に付ける。


壁のほうに押しやっていた手提げカバンと長い全長90cmのやや反った竿のようなものを持って外へ出ようとしたが、あることに気がついて急ブレーキをかける。


「……そうだった、もうこっちじゃねぇな」


竿のようなものをベットに放ると机に置いていた手のひらから、10センチ程飛び出る大きさのものを2個掴むと無造作に手提げカバンの中に放り込む。


「っ!もう10分もねぇじゃねぇか!」


立て付けの悪くなった扉を、勢いそのまま、蹴破るようにして外に出る。


「ここの階段急なんだよな、ええい!まどろっこしい!」


2階建ての古アパートの急な階段をチマチマ下ることを諦め、落下防止用のフェンスを助走を付けた跳躍で飛び降りショートカットする。


「あと2分しかない!」


左手に付けた腕時計を、着地後の加速の前に目の端で確認する。


「距離を考えると、ギリギリだな」


ここから緩いカーブを抜けた先にバス停があるが、距離にして大体480メートル。


そこそこ距離がある上に常に最低、秒速4メートルで走らなければならない。


「とにかく、全力で走るしかない」


幸い歩道には誰も人がいない、なんとかならない程ではないはずだ。着地の衝撃を吸収し走り出した俺は、頭の中でざっくりと弾き出した計算結果からそう判断した。


アパートから出てすぐの直線を駆け抜け、カーブを曲がった先はバス停までの一直線。


既にバスはバス停に着いており、後数秒もしないうちに出発してしまうだろう。


限界まで両足を動かしてさらに加速する。


「はぁ、なんとか間に合った」


実用化されてもうしばらくたつ無人自動運転バスに乗り込むと、後ろで扉が閉まりバスはゆっくりと加速して次の目的地へ向かう。


俺以外に、乗客は1人もいない。


「今日から2年生だって言うのに早々遅刻は印象悪すぎるからな。一応転入生なわけだし」


俺、矢神 雲母(やがみ きらら)は現在高校2年生なのだが、とある事情で転校することになった、と言うより転校せざる終えなくなった。しかしその転校先は前の学校とたいして離れていない。同じ区切られた土地に建てられているのだからそれも当然だが、なかなか面白い状況だ


それでも転校した理由には、やはり前述のとある事情が深く関わっているわけだ。


『10分後、終点、筒ヶ峰高等学校前です。お降りの方はお忘れ物のないようご注意願います』


俺が物心ついたときから、少しも変わらない女性の声に似せた合成音声が告げる。


「もうそんな場所まで来たか」


窓から、約一週間ぶりに拝む町並みを見る。


その目線の先には、東京湾に確固たる存在感を醸し出す巨大な島があった。否、大きすぎてもはや島ではない。何せ、東京23区の半分をやや超えるぐらいの広さなのだから。


筒ヶ峰高等学校は、東京湾のど真ん中に作られた外周約80キロの人工島の東端に建てられている。俺が前通っていた学校は西端に存在していてそこそこ距離があるように思えるが、今日から通う筒ヶ峰高の生徒も前の学校の生徒もこのぐらいはあってないようなものだと感じるだろう。第一俺もそう思っている。


このあまりにも巨大な人工島が出来たのにも理由がある。


2030年、東京周辺で大規模な地盤沈下が起き、

首都であった東京の海岸線はそれまでの海岸線から40キロも後退し旧東京都の土地は海の中へと沈み日本経済は大打撃を受けた。


さらに追い討ちをかけるように全世界を大量の隕石が襲い世界を一時期ながら、第2次世界大戦前まで文明レベルを退化させた。しかし隕石は多くの被害を世界中にもたらしたが幸運なことなのか何なのか人類に新たな力を発見させることになる。


その研究をするための施設も人工島の中に存在する。皮肉にも後退した海岸線によって湾内は十分な広さを確保していた、多少の爆発では人工島の周り、本土には影響しないし都合が良かったのである。現在その分野での研究はいち早く経済を建て直しスタートダッシュを決めれた日本が先進国の1歩先を行っている。


「はぁ、またあの場所へ戻らねぇといけねぇのか楽しくはあるんだが、ほんと憂鬱だ」


誰も人が乗っていないことを良いことに盛大にため息をつく。


『まもなく終点筒ヶ峰高等学校です。どなた様も進行中お疲れ様でした。お忘れ物にご注意下さい』


合成音声のアナウンスが、終わると同時にバスが減速を始めやがて完全に停止。


左側のタイヤの圧縮された空気が抜け、そちら側に傾き折り畳み式のドアが開いた。


「文句を言っても変わらなねぇな。さて、学校も変わったし今日から新学期が始まる。心機一転、花の高校生活を楽しむとするか」


スマホで運賃を支払うと目の前にある校舎に向かって歩きだした。

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