出会い
風が吹いた。
降り立った駅からは海が見えた。駅名が書かれた標識がなにもないホームにぽつんと立っている。それ以外は客はおろか、駅員さえいない無人駅だった。構成する要素はホーム、標識、海。それだけで形容できるくらいだ。もの寂しい駅だけど、その寂寥が僕は好きだった。
どこか遠くに行きたくて、高校2年の夏休みを利用して逃げ出すようにこの片田舎にやってきた。知り合いがいるわけでも特別な名所があるわけでもない。ただ、海がきれいだと思った。
「暑…」
生活用品を詰め込んだリュックとギターを持って無人の駅を出ると、夏の日差しが突き刺すように降り注いでいる。遮るものは少ない。なにか僕が悪いことでもしただろうか。
恨みがましく空を見上げても、当然太陽は沈むわけもなくそこにいた。
少し周辺をぶらついたあと、海に行ってみようと思い日陰をなぞるように歩いたが、すぐに遮るものもなくなった。内心舌打ちをしてしかたなく日差しを浴びながらまた歩き出した。
途中で小学生くらいの男の子が二人、僕を追い越して行った。釣り竿を持っていたからきっと彼らも海に行くんだろう。元気に走り去っていく姿を見て、僕もあんな頃があったかなあと思い出してみた。でもいまいち思い出せない。まあ一瞬くらいは純粋な時もあっただろうと思い歩みを進めた。目的地はもうすぐそこだろう。
林の中を進む。木々が邪魔をして中々海は見えなかったが微かに香る磯の匂いがその存在を感じさせた。
「おお…」
前が開けた。見渡す限りの青。遥か遠い水平線。寄せては返す穏やかな波。ネットで見た写真とは比べ物にならないほど、雄大で、美しい海がそこに横たわっていた。
「写真とろ」
波打ち際まで近づき、スマホを掲げて写真を撮る。その時だった。
「写真じゃわからないよ。」
後ろから声をかけられた。驚いて振り返るとそこにはどこか不思議な雰囲気をまとった少女が一人立っている。年は同じくらいで白いワンピースにつばの広い帽子をかぶっている。服装には特に特別なことはない。だが、言語化できない神秘的な雰囲気をまとっている。
「君、遠くから来たんでしょ。」
これが彼女との最初の出会いだった。
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