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訛りがエグい田舎娘に扮した子爵令嬢のわたしが、可愛がった子犬に何故か求婚される話を聞きたいですか?  作者: バナナマヨネーズ


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第三章 運命は動き出す(2)

 王都の西に位置する場所に存在する花街と呼ばれるそこは、夜になれば煌びやかな世界が広がる。しかし、昼間の現在は、朱色の門が固く閉ざされていて、その様子はまるで、外の世界との交わりを拒んでいるかのようだった。


 朱色の門の横には小さな窓があり、そこから門兵が眠そうにしながらお茶を飲んでいるのが見えた。

 意を決したアルシオーネは、窓に近づき門兵に声を掛けていた。

 

「こんにちは。すまんねぇ。わー、物っこ売りさ来たっけや」

(こんにちは。すみません。わたし、行商に来たものなのですが)


 出来るだけ愛想よく見えるように気を付けながらアルシオーネがそう言うと、門兵は面倒そうに手でアルシオーネを追い払うような仕草をして言ったのだ。

 

「はぁ。あんたもか。どこからお嬢のことが漏れたんだか……。帰った帰った。あんたみたいな田舎臭い娘に用はないよ。王都一の薬術士でも治療師でも直せなかったんだ」


 門兵の言葉にキョトンとした様子でアルシオーネが首を傾げていると、片眉を上げた門兵も同様に首を傾げたのだ。

 そして、アルシオーネがなんの事情も知らないことに気が付くと、しまったとばかりに頭に手をやって天井を見たのだ。

 

「ああぁ……。しくった……。あんた何も知らないでここに来たのかよ……。あぁ、こりゃ仕置きもんだな」


 そう言って項垂れる門兵を慰めるように、アルシオーネは謝っていた。

 

「まんず、すまねぇ」

(あの、すみません)


 心底申し訳なさそうなアルシオーネの困り顔を見た門兵は、乾いた笑いを浮かべた。

 

「いや、俺が早とちりしただけだ。悪いね。最近妖しい薬売りがよく押し売りに来ててさぁ」


「はぁ……」


「んで、あんたは何を売りに来たんだ? と言っても、今は色々難しい時だから、またおいでとしか言えないがな……」


 疲れた様子の門兵を見たアルシオーネは、事情は分からないが今は間が悪いと察して、引き返すことにしたのだ。

 ただし、疲れた様子の門兵の顔色の悪さが気になって仕方なかったアルシオーネは、カバンからいくつかの粉薬と回復薬を取り出して門兵に差し出していた。

 

「門兵のあんちゃん。よかば、どうぞ。こっこの粉薬が疲労回復に効くで。こっこは、回復薬だ。もし、疲労回復の粉薬ば使って疲ればとれん時、飲んでみんしゃい。だで、体ばでいじにな」

(門兵のお兄さん。よろしければこちらをどうぞ。こちらの粉薬は疲労回復に効きます。こっちは、回復薬です。もし、疲労回復の粉薬でも良くならないようでしたら、試しに飲んでみてくださいね。それでは、お体に気をつけてくださいね)


 そう言って、あっさりとその場を後にしたのだ。

 そして、アルシオーネに粉薬と回復薬を渡された門兵は、呆気にとられながらもとりあえず、田舎臭い娘から貰った物をどうしようかと首を傾げるのだった。

 

 

 帰宅後、花街での売り込みは時期が悪いと門兵から言われたアルシオーネは、日を改めることに決めて、明日からは再び露店売りを再開させることにしたのだった。

 

 

 それから一週間後、アルシオーネの閑古鳥が鳴きまくりの露店の前には数人の強面で屈強な体格の男たちが立っていたのだ。

 

 周囲の露店は、その男たちの正体を知っていて、遠巻きにその様子を見ていた。

 野次馬たちは、怪しげな田舎娘が何かやらかしたのだと思い、その行方を面白そうに眺めていたのだ。

 しかし、当のアルシオーネはというと、久しぶりのお客さんの来店に満面の微笑みを浮かべていたのだ。

 屈強な強面軍団は、その柔らかい笑みに相好を崩していたが、リーダーと思われるスキンヘッドの男の咳ばらいで表情を引き締めたのだった。

 スキンヘッドの男は、地を這うような低い声でアルシオーネに言ったのだ。

 

「やっと見つけたぜ。あんたには聞きたいことがある。何も言わずに一緒に来い」


 そう言われたアルシオーネは、首を傾げた後に、大人しく付いて行くことに決めて、露店に並べていた商品を片付けたのだ。

 それを見たヴェルは、「絶対に怪しいから、付いて行くな!」とばかりに吠えるも、アルシオーネは困った表情を見せるだけだった。

 まるで、大丈夫だと言わんばかりの笑顔を見せたアルシオーネは、ヴェルを抱き上げて男たちに付いて行ったのだった。 



 そして、アルシオーネが連れていかれた先には、一週間前に見た朱色の門があったのだった。

 アルシオーネは、初めて入る朱色の門の先の建物を興味深い様子で見ていた。

 そこはまるで別の街に来たようだった。

 大きな通りは挟んで左右にある建物は木造建てで、朱色に塗られた柱や格子が目についた。

 夜の街だけあって、昼間の今はしんと静まり返っているように感じた。

 ただし、木造の建物の中からアルシオーネを警戒するように見つめるいくつもの視線があったがそれに気が付いたのはヴェルと男たちだけで、当の本人であるアルシオーネは、その視線に全く気が付いていなかったのだった。

 

 そして、街の中心にある、立派な外観の店に連れてこられたアルシオーネは、珍しそうに見上げた後に、男たちに急かされるようにして、中に入って行ったのだった。

 

 アルシオーネが通されたのは、立派な応接室だった。

 ふかふかのソファーに案内されたアルシオーネには、甘い香りのするお茶とケーキが出されていた。

 アルシオーネが大人しく座るのをみたスキンヘッドの男は、連れていた男の一人に何かを命じると、命令された男は素早く部屋を出て行ったのだった。

 

 それから少しも経たずに、眉間に深い皺を寄せ、鋭い目をした男が部屋にやってきたのだ。

 そして、ソファーに座るアルシオーネを鋭い視線で刺すように見た後につかつかと近づいてその小さな手を掴み上げたのだった。



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