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魔法を喰らう獣 〜“名無し”と魔王のゆりかご〜  作者: 天乃 朔
第6章 魔法を喰らう獣

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6ー11.月に吼える 1

 アンバーは駆ける。

 強く蹴った足下が崩れ、礫となって地の底へと落ちていく。

 アンバーは跳ねる。

 絶壁に張り出した僅かな突起や崩れかけた遺跡の柱を足場とし、まるで獣の様に軽々と跳ぶ。魔力が満ち溢れ、気力が漲り、身体は非常に軽い。まるで血脈に潜む獣が目覚めた様だ。

 宙には淡く輝く巨大な月。


 ガアアアァァァ―――


 咆哮する魔獣の姿がアンバーの視界に入る。


「シシィ……か?」


 その魔獣―――獅子栗鼠の姿は、見知っているよりも巨大に見えた。長い鬣が靡き、額には見慣れぬ角が月の光を受け輝く。


 ガアアアァァァ―――


 巨大な月を背景に真の姿を取り戻した獅子栗鼠は再び咆哮する。

 その傍には小さな影があった。影は自身の丈を越える大剣を軽やかに振るい、次々と闇を切り裂く。


「あぁ……」


 アンバーは主の姿を見つけ思わず安堵の声を漏らした。不思議なことに()()姿()()()()()()()、彼が主従の契約を結んだ相手なのだと感覚で分かる。彼の主、黒髪の少女は大剣を一振りすると肩で大きく息をした。その一瞬の隙を突き、闇に紛れた黒い塊が少女を襲う。


「ッ!」


 アンバーは少女を庇うように抱き抱え、剣を抜き放つと黒い塊を両断した。透かさず獅子栗鼠がその残骸を食い千切る。


「んん…っ」


 アンバーの腕の中で少女が身じろぎする。アンバーは腕の中の温かな存在をギュッと抱きしめ、それから確かにここに実在するのだと確認するかのように少女の顔をペタペタと執拗に触った。そして―――


「おかえり」


 彼は多分その一言がずっと言いたかったのだと思う。潤んだ瞳に気付かれぬよう少女の肩に顔を埋めた。


「えっ、ああ……うん………………ただいま」


 少女は戸惑いつつも言葉を返す。

 何故だか……心がじんわりと温かくなった。


「……あんまり心配かけんなよ」


 それは……何だか―――少し理不尽だ、と少女は思った。

 少女はアンバーの腕の中から逃れようともぞもぞと動くが、意外に筋肉質な腕はガッチリと少女を捕らえ、抜け出すことは叶わなかった。明らかな力の差がちょっと悔しい。


『……ったく、アンタら何やってんのよ』


 何者かの声が聞こえたような気がして、アンバーは咄嗟に腕の中の少女に視線を向けた。大丈夫、ここに存在するのは主に間違い無い。


「なに?」


 少女が首を傾げ、訝しげにアンバーを見上げる。彼女にこの声は届いているのだろうか?


「アイツが……まだいる…のか?」


 少女は自分の胸に手を置き、嬉しそうに微笑んだ。


「うん、ここにいるよ……」


 その姿にアンバーは軽く嫉妬を覚える。


「……チッ、何だよあいつ、まだ消えてねえのかよ」


 思わず悪態を吐いた。アンバーにとっては、例え主が認めているとしても信用ならない相手だ。


『消えてなくて悪かったわね。それより、少しは状況を考えなさいよ』


 また声が聞こえた。が、聞こえない振り―――


「ガウッ!」


 ―――は、獅子栗鼠の抗議の前にできなかった。黒い靄の塊は打ち払っても、打ち払っても止め処なく湧いてくる。それを今一身に引き受けているのは獅子栗鼠である。抗議の吼え声一つくらい上げたくなると言うものだ。

 名残惜しいが、確かにいつまでもこうしている場合ではない。アンバーは少女の耳に唇を寄せ、これからやるべき事を告げた。


「うん、わかった」


 そう言うと、少女はアンバーの腕からするりと抜け、漸く解放されたとばかり獅子栗鼠の元へ走る。


「ちぇっ」


 アンバーは腕の中の温もりが失われた事に一抹の寂しさを覚えた。少女に訊きたいことは沢山あったが、今はそんな場合ではないのだと頭を切り替え、確りと剣を握り直す。少女には後でこれまでの事を尋ねれば良い。その為にもまずは、与えられた仕事をやり遂げなければならない。


『アンタ、一番下っ端のくせに生意気なのよね』


 彼を責める何者かを今度こそ無視し、少女の跡を追う。


『ちょっと、 無視すんじゃないわよ!』


 前を行く少女から、歌うような呪文を唱える声が聞こえる。


「lal#alala&la……Luna’s%… in her$ heaven,$$……all’s **right ……with@ the ##¥¥world!」


 古代語だ。

 少女が崖から空中に足を踏み出すと、足先を中心に小さな波紋が広がり、花開くように魔法陣が浮かび上がる。そして、次々と天へ向かい魔法陣の花が咲き、それはまるで月へと伸びる花の階段の様に見えた。


 ビィーッ―――


「シシィ、おいで!」


 少女が指笛で獅子栗鼠を呼び、その背中にひらりと跨がる。獅子栗鼠が魔法陣の階段を駆け上がり、少女は大剣で黒霧を薙ぎ払った。アンバーもその跡に続く。今のアンバーは獅子栗鼠にも後れを取らない。雷を纏わせた剣で黒霧を払う。


「い…ぉ……かわを~きぃ……しょ……~めはどくぅ~ので…しっかり!……と…ぞいてぇ……〜」


 アンバーは少女が歌っているのに気付いた。どこか調子外れの懐かしい旋律、子供の頃に良く聞いた踊歌(おどりうた)だ。その歌声に耳を傾けると―――


「〜おお…きなぁ…鍋を用意して、芋をごとごと煮込むぅ〜お腹が空いたぁよぉ〜」

「ん?」


 聞き間違いかと耳を攲てる。


「まだ煮えない〜美味しいお芋をっ〜〜早く食べたいなっ」

「は?」


 歌詞が出鱈目だった。原曲は決してこんな歌詞では無い。


「何だその巫山戯た歌詞……替え歌かよ! 緊張感がねえ!」


 調子っ外れの歌を歌いながら少女は次々と攻撃魔法を放つ。出鱈目な言葉で魔法を放つ遊びをしていたため癖になっている事など、アンバーが知る由もない。

 少女の振るう大剣から強力な光の球が放たれ、黒霧が四散する。


「えーっと…まあ良いか……」


 今はできるだけ黒霧を惹き付け、時間を稼ぐのだ。

 王都師団からの合図は、まだない。


♪ まずは芋の皮を剥きましょう。

 芽は毒なので確りと取り除いて、色が変わった部分も毒なので勿体なくても処分しよう。

 大きな鍋を用意して、塩をひとつまみ、芋をごとごと煮込みましょう。

 ああ、お腹が空いたよ。

 あぶくがボコボコ、煮え立った。

 煮えたかな? 食べてみよう。

 未だ煮えない。

 美味しいお芋を早く食べたいな。

 ああ、お腹がすいた。



多分、こんな歌。

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