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魔法を喰らう獣 〜“名無し”と魔王のゆりかご〜  作者: 天乃 朔
第5章 魔王のゆりかご

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5ー7.セレン 6・★

 結局、行方不明の子供の内、見つかったのは三人。擦り傷程度の子供が二人、意識不明の子供が一人。二人は未だ行方不明のままだ。

 無事に帰ってきた子供達の話によると、一番年長のバイが年少の四人の子供達を率いて、普段入ることの無い黒の森の奥まで入っていったそうだ。そこで、奇妙なもの――歪な球形をした陶器のようなもの――を見つけたと言っている。彼らが興味本位でその奇妙なものを蹴って遊んでいると、それが割れ、中から黒いものが吹き出したらしい。一番近くに居た二人の子供が吹き出した黒いものに巻かれ、残る三人は慌てて逃げ出したとのことだ。

 黒いものは黒霧と思われたが、何故その様なものの中から吹き出したのか、大人達は首を傾げた。黒霧というのは、黒の森の奥の奥、魔力溜まりの沼から発生すると言われているからだ。ともかく、それが割れたタイミングで、偶然黒霧の中に蹴り込まれたのではないかということになった。大人達には、そんなことよりも黒霧への対策の方に意識が向いていたのだ。


 黒霧が発生したため、あれから森の捜索は行われていない。残り二人の子供は、多分、黒霧に飲み込まれ、既に命は無いものと見られている。

 ちなみに、意識不明で発見された子供はバイである。彼が無事に目覚めた時、この状況についてどう思うのだろうか? 自分の所為で二人の子供が犠牲になったことを嘆くのか、それともただ自分が生き残ったことを喜ぶのだろうか? どちらにしても、とても不憫に思う。


 それから―――、ロウカンは町の治療院に入院した。

 婆様が応急処置として回復魔法を掛けたが、そのまま回復魔法を掛け続けても酷い傷跡が残ると聞いたロウカンは、教会の司祭の回復魔法を受けるため町に行ってしまった。

 回復魔法というのは、その人の持っている治癒力を高めるだけだ。普通より回復は早くなるものの、自然に治癒したのと同じように傷跡は残る。例え教会に多額のお金を払っても、きっと、もっと酷い傷跡や障害が残るだろう。このあたりには婆様以上の回復魔法の使い手はいないのだから。


 村でいろいろなことが起きても、私達の日常は変わらない。今は直ぐそこに迫ったお祭りの準備で忙しい。子供が二人も行方不明なのに不謹慎だと思われるかもしれないが、私達にとっては、どこか他人事なのだ。それとも漠然と漂う不安を紛らわせるために、お祭りに夢中になっている振りをしているのかも知れない。


 今日は村の娘のために、町へ向かう乗合馬車が特別に用意された。仕立て上がった晴れ着を受け取りに行くため、娘達が次々と馬車に乗り込む。私が乗り込むと、他の娘達が奇妙な顔をした。無視して座席に座る。

 道すがら、娘達は祭りの衣装の話で盛り上がる。彼女達の口にロウカンの名が上がることは無かった。彼女達にとって彼は一過性の流行病(はやりやまい)のようなものだったのかもしれない。

 馬車は薄らと色づく木々の隧道(トンネル)を抜けて行った。

 町に着くと娘達は跳ねるような足取りで仕立屋へと向かう。私はその群れから一人逆方向に歩き出した。私の手には家の側で摘んだ秋桜が握られている。それは花束と言うにはあまりにも貧弱だった。私の足は治療院へと向かう。

 治療院の入り口でロウカンの名を告げるが、彼は誰にも会いたく無いのだと入れて貰えなかった。

 それは、当然かもしれない。

 彼にとって私の村は嫌な思い出の地となった。彼はこれから数日掛けて、回復魔法の痛みに耐えなければならない。

 せめて渡して欲しいと秋桜の花束を治療院の職員に手渡す。

 帰り道、背後から吹く風に散っていく秋桜を見た。



     ***



 お祭り本番はまだというのに、町の広場では既に隊商が露店を出していた。仕立屋の近くには装飾品の店がちゃっかり陣取っている。祭りで着飾る娘達、或いはその恋のお相手の懐を狙っているのだろう。花を模した髪飾り、薄紅色のリボン、蒼い石の付いた首飾り、銀細工の腕輪……お祭りでめかし込む娘達向けに様々な装飾品が並ぶ。


「新しい晴れ着に合う飾りはいかがかね」


 店主の呼び込みに、晴れ着の包みを抱えた娘達が店頭に並ぶ商品を物色する。私は彼女達の熱気に押し出された。

 帰りの馬車の時間までまだあるので、他の露店を覗くことにする。乾物や珍しい果物、木彫り細工に陶器、それから何だか分からない物が店先に並ぶ。


「嬢ちゃんは、晴れ着を受け取らなくていいのかい?」


 露天商の小母さんに声を掛けられた。いつの間にか広場をぐるりと一周してしまったようだ。仕立屋が近くに見える。仕立屋には今も娘達が引っ切り無しに出入りし、辺りには包みを抱えた娘達が溢れかえっている。その中には見知った顔もあった。


「私は新しい晴れ着は仕立てないから……」

「そうかい、じゃあ、嬢ちゃん、うちも少しだが装飾品を扱っているんだ。一つ買っていかないかい。安くしとくよ」


 娘達で賑わう仕立屋を横目に露天商が言った。露店には主に陶器など日用品などが並び、今ひとつ華やかさに欠ける。そのためか、中々娘達の目に留まらないようだ。


「コレなんて嬢ちゃんの髪色に映えそうだ。それともこっちかな?」


 店主が深紅や白の華やかな髪飾りを指し示す。


「ううん、私には似合わないから……」


 頭だけ華やかにしても滑稽なだけだろう。

 綺麗だけど……本当はとっても欲しいけれど……


「そうかい、それは残念だ。それにしても嬢ちゃんはこの辺りじゃ珍しい髪色をしているね。王都ではそこそこ見かけるけど……」

「王都には私のような髪色の人がいるの?」


 露天商の小母さんが話し終わる前に、私は勢い込んで質問する。小母さんは、私の勢いに少し身体を退いた。


「あ、ああ、沢山……と言うほどではないがね。王都には国中……いや、異国からも大勢の人が集まっているからね」


 王都では私は有り触れた存在なんだ。そして、王都では私を知るものはいない。それは、何て魅力的なことだろう。

 もしも―――


「あ、あの……もし、王都に行きたいと言ったら、連れて行ってくれる……ますか?」


 小母さんは一瞬、キョトンとして、それから声を立てて笑った。


「あはははは、そりゃあいい。同行するくらいなら構わないさ。ただ、食料や必要な荷物など、旅費は自分持ちだよ。まあ、金さえ払って貰えれば、面倒を見ないこともないけどね」


 大抵の商人や旅行者は、盗賊対策として集落間を集団で移動する。単独行動は命取りだ。お金は無い。労働力で払うことはできないだろうか?


「それで、この町をいつ出発するんですか?」

「え、ああ、祭りの終わった翌朝、早くに出立するよ」

「そうですか。祭りの翌日、朝早くですね。それじゃ、その時に又来ます」


 私は小母さんに大きく手を振って、その場を離れた。そろそろ、帰りの馬車の時間だ。


「ちょ、ちょっと、あんた!まさか、本気じゃ無いだろうね」


 小母さんが何か言っていたが、耳には入らなかった。

 もし、王都に行ったら―――

 もし、この閉塞感から逃げ出せたら―――

 帰りの馬車の中で、私はそんな取り留めの無い事ばかり考えていた。


 ガタン。


 馬車が揺れ、停止する。村に到着したのだ。

 包みを抱えた笑顔の娘達が次々と馬車を降り、帰途につく。手ぶらなのは私くらいだ。


「ああ、ちょっと良いかな」


 私が馬車を降りた時、髭を蓄えた年配の小父さんが声を掛けてきた。確か村の取りまとめ役の偉い人だったと思う。


「じゃあね」

「またね」


 その様子を見て、何人かが別れの挨拶を残し足早に去って行く。

 偉い人が私を手招き、付いてくるように促す。私はその背中を無言で追った。



     ***



 私は一人、帰路についた。夕暮れが迫る。

 足が酷く重い。家までこんなに遠かっただろうか?

 ふと気配を感じ、顔を上げた。ボウ爺だ。粗末な小屋の前でボウ爺が蹲っている。


 ――『ボウ爺は、ずっと昔に封印の器を務めたとかで……』『……人を器にして、その中に災禍を閉じ込めるらしいよ。その器』『封印の器……』『人の中に……』


 誰かの言葉が頭の中で何度も繰り返される。私は追い払うように頭を振った。

 ボウ爺は蹲ったまま動かない。具合でも悪いのだろうか?


「あの……大丈夫……ですか?」


 側に近づこうとした瞬間、ボウ爺が顔を上げた。


 パリン。


 一瞬の出来事だった。

 私の目の前でボウ爺の身体が玻璃となって砕けた。

 その日、老人は役目を終えた。彼は永い永い役目から漸く解放されたのだ。

 最後の瞬間、ボウ爺の顔は笑っていた。



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