5ー4.セレン 3・☆
・2022/8/3 一部修正
・2022/8/18 一部修正
私の村は建国の物語に登場する三人の若者と縁がある。―――らしい。
特に三番目の若者はこの村に留まり、村の女性と大勢の子をなしたという話だ。そう、私達はその子孫なのだ。
そのためか、建国の若者達を彷彿とさせる三人の旅の若者達は、直ぐに村人に受け入れられた。
彼らは、毎年お祭りに合わせて訪れる隊商に護衛として雇われているとのことだ。隊商が町に滞在している間は自由に行動してよい契約となっており、美人揃いの村があると聞いて、この村にやってきたらしい。隊商が出発するまでの間、つまり祭りが終わるまで、彼らはこの村に滞在することになった。
彼らは皆、それぞれ魅力的だったが、特に村の娘達は異国的な美しさのロウカンに心奪われた。この辺りでは珍しい黒髪に、切れ長の目、蕩けるような翡翠の瞳、ロウカンは東の国の出身と言う話だ。ちなみに他の二人はこの国の出身らしい。どうでもいいけど。
ロウカンが流し目を送ると皆息を呑み、微笑むと悲鳴があがった。声を掛けられて卒倒した娘もいる。傾国の美女とは、彼のような人物なのかもしれない。男だけど。
ただ、村の一部の男達、特に若い男達の中には気に食わない者もいるようで、口には出さなくても態度に表れている。別に若くはないけれど、祖父は苦虫を噛み潰したような顔でロウカンを見る。どうやら、黒髪が気にくわないようだ。
あの黒髪が素敵なのに!
だから、ロウカンの周りにはいつも村の娘達が群れている。皆、ロウカンの関心を引こうと必死だ。アルに夢中だったスーでさえ、「自分に振り向いて貰えない男をいつまでも追いかけていても仕様が無いでしょ」とロウカンに鞍替えだ。ただ、脚の怪我が大きな枷となって、他の娘達に後れを取っているみたいだけど。
そういえばこの間、妹とロウカンが一緒に居るのを見た。私の妹も彼に夢中らしい。
かく言う私も彼の異国的な黒髪に惹かれていることは否定しない。
それに、どうやら女神の色は、東の国の人間にも魅力的に映るようだ。だって、彼が私を見る目に色が見えるから―――
三人の若者は、彼ら自身の訓練を兼ねて、毎日自警団で剣術や武術などを指南している。
そう考えると一番長くロウカンと一緒に居られるのは自警団員と言える。でも流石の彼女達も自警団に参加する気はないようだ。その代わり、差し入れと称し連れだって――或いは牽制し合って?――自警団に何かと顔をだす。
スーなんて兄達に無理矢理背負わせて、自警団に日参だ。そして、見学と称し、日がな一日、椅子に座ってロウカンに黄色い声を送る。それを複雑そうにアルが眺めているのが印象的だ。気になるなら振らなければ良かったのに。
しかし、見学者がいくら騒ごうと、ロウカンと一番接触する機会がある女性は、自警団員だろう。剣の握り方や構え方、体術を教える際、彼の手が身体に触れる。その度、見学者からもの凄い悲鳴があがった。ちょっとだけ年配のある女性団員などは、得意気な表情を浮かべ、見学者を挑発する。明らかに若い娘達をからかっているのだ。
既婚女性の場合は、単なる羨ましさで終わる。彼女達の競争相手にならないと思っているからだ。でも、既婚者だって安心できないのにね。だって、イーの一番上の姉は―――
まあ、兎も角、嫉妬の目は必然的に若い未婚の女性団員に向けられる。それは殺気にも似た妬み、嫉みだ。
「ああ、セレン。落とし物」
一瞬、皆の目が私に集まる。ロウカンが地面に落ちたリボンを拾い、落とし主の髪を結わえた。空間が引き裂かれんばかりの悲鳴が上がった。
これは少し不味いかも知れない。
休憩に入ると、娘達が我先へとロウカンに群がった。
スーは椅子をガタガタと揺らし少しでも近づこうとして、諦めた。妹に甘いスーの兄達も流石に、椅子ごと移動まではしてくれないようだ。可愛い妹を何処の馬の骨とも知れぬ男にはこれ以上、近づける訳にはいかないということかもしれない。この場に連れてくる時点で、十分甘すぎると思うけど。
兎に角、娘達は少しでもロウカンの歓心を得ようと必死だ。それには、ライバルを貶めるのも含まれているのだろう。ある娘が此処だけの秘密というようにロウカンの耳元に唇を寄せる。抜け駆け禁止とばかり他の娘が、その娘の腕を引っ張り離す。引き離された娘は一瞬拗ねた様子を見せたものの、開き直ったのか皆に聞こえるように悪意ある風評を口にした。
「だからね、あの子と関わり合いにならない方が良いよ。あの子は不幸を呼ぶ魔物の子だから」
視線が一斉に特定の人物に向けられる。ロウカンが興味深そうに目を細めるのを私は見逃さなかった。
「へー、それって何か根拠はあるのかい?」
我が意を得たりとばかり、娘が話を続けようとするが、すかさず別の娘が割って入る。
「ほら、あそこの椅子に座っているスー、彼女、あの子に意地悪したから、崖から落ちて脚の骨を折ったのよ。他にも怪我をした子はいっぱいいるわ」
「気のせいじゃないのかい? 単なる偶然だと思うな」
ロウカンは、根拠の無い話を鵜呑みにするほど馬鹿ではないようだ。
「気のせいじゃないわ。アタシもこの間傷を負って……」
「君、あの子に意地悪したのかい?」
「ち、違うわ。アタシは何もしてないわ。アタシは意地悪なんてしないもの。きっと何かがあの子の癇に障ったのよ。あの子の逆恨だわ」
ライバルの失言に他の娘達がほくそ笑む。
「でも、あの子の気分を損ねたら、酷い目に遭うのは本当よ」
他の娘が言う。
「ほら、この間のバイの怪我、あれもあの子の所為じゃないかしら?」
バイは彼女の弟で、自警団に入ったばかりの年少者だ。でもバイの怪我は狩りで獲物の反撃にあったものである。それも小さな鼠。
彼女達は自分たちがどれだけおかしな事を言っているか気づいていないのだ。
悪いことが起こればみなあの子の所為―――それは間違いだけど、ある意味正しい。
「うーん、君たちを否定する訳じゃないけれど、にわかには信じられないな」
中々共感してくれないロウカンに苛立ち、一人の娘が言った。
「ふん、そう思うなら、偶然かどうか試して見ると良いんだわ」
「そうだね。そうしてみようか」
ギャーァァァァァー!!!
ロウカンの返答に、娘達が一斉に絶叫した。そして―――
「五月蠅いぞ!お前ら!訓練に参加しないなら、今後ここら一帯、出禁だ!」
ついに業を煮やした団長らによって、見学者の立ち入りが禁止となった。
「ほら、皆、帰った。帰った」
娘達が次々と追い出される。
「ちょ、ちょっと、何で私まで!」
スーも椅子ごとどこかに運ばれていった。きっと帰りに彼女の兄達が回収していくのだろう。
私はロウカンの側に寄るとそっと耳打ちした。
「訓練が終わったら、うちの納屋に来て」
彼が嬉しそうに目を細めた。
彼を射止めるのはきっと私ね。




