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魔法を喰らう獣 〜“名無し”と魔王のゆりかご〜  作者: 天乃 朔
第4章 たゆたう獣

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挿話 墓守の手記

 あの日の出来事について、私が知りうることをここに記そうと思う。


 あの年は、近年類を見ない大規模な黒霧が発生した。数年前にも、黒霧は大きな被害を齎したものだが、それが蛙の小便(しょんべん)と思える程の規模だった。

 急速に拡大していく黒霧を前に、我々は“封印の儀”を執り行うことを決めた。

 あの頃の我々は代替わりしたばかりで、実績を残そうと躍起になっていた。父の代に出来なかったことを行い、父達よりも優秀であると周りに認められたかったのだ。

 今思えば、父の代に“封印の儀”が執り行われなかったのは、こうなることを知っていたからなのかもしれない。

 それは穿ち過ぎだろうか?    ###、####


 兎に角、我々は“封印の儀”を数十年(もしかしたら百年近く)ぶりに行うことを決めた。

 しかし、勿論、前回の封印の儀を経験した者など既に存在しない。皆、墓の下だ。

 ####

 儀式については口伝えで残っている程度だった。それでも儀式を実行したのは、我々に驕りがあったからだと思う。我々の世代は、父親の世代に比べ、魔法に秀でた者が多かった。

 それに熟練の司祭の手も借りられるのだ。儀式など簡単に行えるものだと思っていた。


 我々は伝えられた通り、儀式の準備を行った。今考えれば、時を経て大事なことが少しずつ歪められてしまっていたのかもしれない。

 祭りにおいて主役だった封印の器が、いつの間にか花娘に代えられてしまったように……#####


 当日は、封印の儀のために私を含め五人の術士が集まった。誰もが魔力自慢の者達ばかりだ。予定していた司祭が一人足りなかったが、誰も気にしなかった。一人くらい居なくても問題無い―――皆、簡単に考えていたのだ。

 ####を、

 #########


 “封印の儀”とは、魔力の高い人間を器として黒霧を封印するものだ。器となった人間が黒霧を自身の魔力でもって浄化するのだと言う。器となった人間がその後どうなるのかは知らない。何せ儀式は遙か以前に執り行われたきりなのだ。そん########い。


 器は例の村から選ばれるのが習わしだ。あの時の器は、まだ若い娘だった。頭から布を被り、誰なのかははっきりと分からなかったが、多分村の忌み子―――あの娘だと思##っていた。

 その時、私は漠然と不安に思った。器とするには心許ない。若すぎやしないだろうか、と。しかし、儀式が始まり、そんなことは直ぐに意識の外に追いやられた。


 我々は器を取り囲み、封印の術式を展開した。

 黒霧が器へと集まり、辺りは薄暗くなった。黒霧はどんどん濃密になり、漆黒の闇となった。闇の中、魔法陣が薄ぼんやり光っていたのを覚えている。

 黒霧はいつまでも集まり続け、終わりが見えなかった。

 闇の中からゲッゲッと苦しむ声が聞こえた。

 このまま死んでしまうのではないか―――誰が、器が、#####私が!

 私は怖くなって、封印の術式を閉じた。私の中から魔力が急激に失われ、その場に倒れ込んだ。他の術者がどうなったなど知らない。

 ############


 封印の儀は終わった。

 それなのに黒霧は集まり続けた。

 器の娘が叫びとも唸りとも取れる地を這うような声を発した。娘を取り囲むように術式##が淡い光の鎖のように浮かび上がったが、それは酷く貧弱に見えた。娘を覆っていた布が落ち、一瞬見えた金の髪が直ぐに真っ黒に塗り潰された。そして、爆ぜた。

 濃縮され真っ黒な塊となった黒霧が、まるで生き物のように黒い何か、手か触手か何だかよくわからないものを伸ばし蠢いた。

 悪鬼、化け物、悍ましいもの―――############


 辺りから悲鳴が上がった。多分、化け物が術者を食い殺したのだと思う。黒霧が濃すぎてよく見えなかった。

 私はその場から逃げ出した。

 他の者が犠牲になっている間に少しでも遠くへ。

 逃げて、逃げて、逃げて、私の足は無意識のうちに町へと向かっていた。町では祭りの最中(さなか)で、賑やかなお囃子が聞こえていた。

 私は一息吐いた。

 唯々、逃げ延びたことだけに安堵した。

 これから起こるであろうことになど頭が回らなかった。


 突然、薄暗くなった。天候が急変したのかと皆空を見上げた。

 辺りが黒くなった。暗いのではない。黒いのだ。

 そして、娘の形をした黒い塊が―――###多分、あの化け物は私の魔力を追ってきたのだろう。

 私が町にアレを呼び込んだ?

 悲鳴が雪崩のように押し寄せ、人々は慌てふためき逃げ惑った。化け物は黒い髪を蠢かし、町の人々を喰らっていった。人間が、草木が、建物が黒く塗り潰されていった。中には無謀なことに自ら化け物に向かって行った者もいた。

 逃げてくる者の中に見知った者もいた。喰われた者の中にも―――

 私は大穴の方へ化け物を誘導するよう叫んだ。どれだけの人が私の声を聞いたのか知らない。ただ、化け物は町を喰らい尽くしながらも大穴へと誘導されていった。


 どうやって、化け物を大穴に落とすのか、私には何も策が無かった。

 あの時奇跡が起こったのだと思う。

 まさかあの忌み子が―――

 #####################


 黒い化け物は大穴に落ちていった。

 私はその場に居た者達を促し、魔鉱結晶を利用して封印の術式を展開した。十重二十重に術式が展開し、化け物は封じ込められた。

 それでも町を覆った濃密な黒霧は晴れることはなかった。我々は町を捨てざるを得なかった。


 そして、私は墓守になった。

 ###########。

 それが私の贖罪だからだ。



 あれから三十年あまりが過ぎた。

 私も老いた。そろそろ息子に役目を引き継がねばならないようだ。



 まだ墓場には今も黒髪の娘が眠っているのだから。





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