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2−4.王都師団

「おい、お前ら、何でこんな所にいるんだ。遺物管理所(はみ出し者)専属の落ちこぼれ部隊だろ。どさ回り部隊らしく、さっさと僻地にいけよ」


 軍服に身を包んだ集団が訓練前のラズ達の小隊に絡んできた。厳つい男達の影に隠れて十代後半と思われる年若い兵の姿も見える。


「誰?」

「別の隊の連中。王都の警備にあたっている奴らだよ。俺たちも一応王都師団なんだけどな。俺たちみたいな傭兵崩れや庶民が王都で任務にあたっているのが許せないらしい。毎度、毎度、『お前らみたいな寄せ集め部隊がお貴族様の隊を差し置いて、国の機関の専属任務に当たるんじゃねーよ』ってイチャモンつけてくるんだ」


 ラズの言葉を継いで、カルシラが少し補足する。


「僕たちの隊が遺物管理所の野外調査の時に護衛に当たっているのは知っているだろう?普通、国の機関の場合、近衛師団の地宮(ちぐう)近衛隊が護衛の任務にあたるんだけどね。遺物管理所の所長が実践能力の無い者は護衛として信用できないと言うことで。実力のある僕たちの隊が護衛にあたることになったって訳。それが他の隊の貴族様達には納得できないらしいよ。貴族様なのに()()()()()()()()()()()()()癖にね」

「あ、それ禁句……」


 瞬時に兵士達の頭に血が上る。


「なっ、何を言うか!遺物管理所なんて、魔法統括省を追い出されたお荷物部署じゃないかっ!!所長が異様に若いのも貴族だからそれなりの地位を与えておけってことで、追い出しついでに任命されたと聞いているぞ」


 兵士達の中でもリーダー格と思しき男が顔を真っ赤にし、唾を飛ばしながら声高に叫ぶ。


「そんなはみ出し部署の警備だから、下も下、寄せ集め隊でいいだろうということで、傭兵崩れのお前らに白羽の矢が立ったんだ!一応、国家機関の護衛だから王都師団の末端にお情けで名を連ねているのに何だ、その言い草は!!」


 『そうだ、そうだ』と、取り巻きらしき兵士達が次々に同意の声をあげる。


「あーうっせぇ……そう思うならほっとけばいいじゃないか。一々こっちに絡むなよ……」


 ラズは、ぎゃあ、ぎゃあ、騒ぐ兵士達の耳に入らぬよう小声でぐちぐちと言う。


「で、お偉い先端部隊の方々が、こんな末端の小隊に一体何の用だい」

「あ、ああ……」


 ネフェリンの言葉に一瞬虚を衝かれたものの、激昂していた兵士は口の端を吊り上げると本来の目的を口にした。


「よく訊け、なんと我々のような優れた()()が態々時間を割いて、お前達、お荷物小隊を鍛えてやろうというのだ。お前らのような底辺が、我ら一流の()()に指導を受ける機会なんて滅多に無いことだぞ。ありがたく思え」

「……アンタら騎士じゃないよね」


 この国で騎士といえば、第一師団、つまり近衛師団を指す。第二師団、通称王都師団は、言うなれば憲兵隊だろう。無駄にプライドが高い彼らは現実を受け入れられないらしい。


「ふん、五月蠅い小僧だな。そうだな……折角の機会だ、若手同士の模擬戦と行こうじゃないか」

「おお、よし、それじゃあ、俺とやろうじゃないか」


 カンクリが目を輝かし名乗りを上げた。筋力で盛り上がった腕で先頭に立つ兵士の肩をバシッと叩く。


「ぐっ……い、いや、若手同士の模擬戦と言っただろう」

「いや、俺は若手だぞ。この隊に所属して十年でしかない。傭兵時代は十年なんてまだまだひよっこだと言われたものだぞ」


 カンクリの白い歯がキラリと光る。筋骨隆々の浅黒い肌、頬には刀傷、頭部に毛髪は無い。本人の弁では、『生えていないのでは無い、剃っているのだ』とのことである。


「ど、どこが若手だ!対戦相手は自分では無い」

「あ、逃げた」

「おほん、うちの若手達は大変優秀でな、家柄も魔力量も十分……」

「なのに近衛師団には配属されなかった……と」


 兵士達の刺すような視線がカルシラに向けられる。


「あ、容姿で落とされたのか……」

「何っ!」

「カルシラ、あんた一言多いよ」


 と言いつつネフェリンも笑いを隠さない。兵士が額に青筋を立てつつ、背後の集団に合図を送ると、スッと二人の若い兵士が前に出た。二人とも多少、濃い薄いはあるものの茶色の髪に茶色の目、この国の一般的な色だ。長めの髪は、『魔力は髪に宿る』と信仰のある貴族によく見られる。一人は肩辺りで切り揃えられており、もう一人は一本のお下げにまとめ、背中に垂らしていた。


「炎」


 肩まで切り揃えた(ボブ)の髪型の兵士がちらりとラズに目線を送り呟くと、手からこれ見よがしに大きな炎があがる。ラズが燐寸程度の焔しか出せないことを知っているのだ。


「俺たちが相手をしてやる。ありがたく思え。俺たち二人とお前ら二人、一対一の対戦だ。まずはお前……」


 炎を出した兵士が気取った仕草でラズを指差す。何だかいけ好かない奴だ。


「え、俺?」


 突然の指名にラズがキョトンとする。ラズは末端の末端なのだ。対戦する利点(メリット)が無い。剣技も魔法も秀でている訳ではないので、対戦しても得られるものはほぼ無いと言って良い。あるとすれば、弱者を叩きのめすことで優越感に浸れることくらいか。つまり、彼らは隊長や副長がいないのをいいことに訓練と称した虐めを行おうという腹なのだ。


「うちの隊で一番弱いのを指名したよ。これ、イジメだよね。イジメ」

「何を言う。訓練だ、訓練。弱い者ほど訓練に励む、兵士ならあたりまえだろう。さあ、訓練場で模擬戦と行こうじゃないか。」


 カルシラの言葉に兵士がニヤニヤと嫌な笑みを浮かべ反論する。明らかに標的はラズとカルシラ、この小隊で最も弱いと目される二人である。


「うわぁ、陰湿。じゃあ、ラズ、頑張れ〜」

「え?」


 いきなり味方(カルシラ)に背後から撃たれる形となってしまった。ラズが助けを求め、ネフェリンとカンクリに視線を送る―――が、こちらもニヤニヤと笑っている。


「ほれほれ、訓練場に行くぞ。これも訓練だ」

「え?ええ?」


 カンクリのガッシリとした腕がラズを拘束し、そのまま引きずるように訓練場へと向かう。その後を小隊の面々と少女と獅子栗鼠が追った。獅子栗鼠の臀部で、獅子よりもふさふさの尻尾が揺れ―――


「おい、待て。それは何だ」


 リーダー格の兵士が一行を引き留める。


「ん、それとは?」

「その獣だ。獣。お前らいつから猛獣使いになった!ここは曲芸団(サーカス)じゃないんだぞ」


 いつの間にか兵士達が遠巻きにしている。


「あら、魔獣のこと?」

「ま、魔獣?さっきまで、そんなの居なかっただろうがっ!」

「そうだったか?散歩にでも行ってたのか?」


 獅子栗鼠が口周りをぺろりと舐める。


食事(狩り)かもね」


 ―――何処で?


「そ、そんな物騒なもの放し飼いにするな」

「えーっ、獅子栗鼠はこんなに可愛くて良い子なのに……」


 小隊の面々は『放し飼いはやっぱり問題あるよな』と思いつつ、敢えて口には出さなかった。いけ好かない奴と同意見なのは癪に障る。


「そんな些細なことより、模擬戦だ、模擬戦。さっさと訓練場に行くぞ」

「え!ホントにやるのかよ」

「当然!」


 ラズは仲間達に快く訓練場へと送り出され、―――否、連行されて行った。


「絶対、些細なことじゃない……」


 兵士の呟きがその場に残された。


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