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第一話・異世界に立つ

 ついに異世界に降り立った俺は、一先ず街を目指すことにした。遠く、周囲に比較できる物がないから距離は測りかねるが、とにかくこの草原を真っ直ぐ行った先の丘の上に、壁に囲まれた街のようなものが見える。草を踏みしめ進むついでに、時々足を止め周囲の草花を見渡した。白く小さな花弁をつけたこの植物、名前はシロカラソウ。各種ポーションの基本材料になる。品質は……残念ながらあまりよくない。まぁ街の周辺に群生してるぐらいだからな。そんな事を思いながらも、俺はさっきからワクワクが止まらなかった。

 初めて見る異世界の植物。しかし少し注意深く見つめるだけで自然と頭に情報が流れ込んでくる。先程手に入れた俺だけのスキルーー鑑定スキルが正しく発現している何よりの証拠だ。

 

 街へは思いの外遠く、門の付近へ辿り着く頃にはすっかり足が棒になっていた。普段の運動不足が祟ったな、と足を曲げ伸ばししながら目の前の壁を観察する。規則的な形に切り出された岩は数十メートルはあろうかというほどの高さまで積み上げられ、わずかな隙間も漆喰のようなもので塗り固められている。これだけ高さがあるという事は厚みも相当なものだろう。随分と頑丈そうな壁だな、と思うと同時に、これだけの壁でないと防げないようなモンスター……いわゆるトロールやドラゴンのような生き物が生息している可能性に思い至り寒気がした。


 俺は門の正面に移動し観察を続ける。壁に埋め込まれるような形で巨大な扉が一つ、そしてその左右には幅三メートルほどの扉が備え付けられ、左門の脇には検問所と思われる小屋が建てられていた。扉が開け放たれている所を見るに、通常の出入りには真ん中ではなく左右の門を使うようだ。通行人が鞄から札のような物を取り出すと衛兵はそれを覗き込んで台帳に何かを書き込み、今度は衛兵から札を受け取った通行人が、門の中へと入っていく。街へ入る場合は左側、出てゆく場合は右側の門を通ることになるらしい。ここからでは見えないが、恐らく右側の門では内側で札のやりとりが行われているのだろう。

 通行人に紛れて入り込むのは無理そうだと判断した俺は、意を決して、出来るだけ堂々とした態度で門へと向かった。衛兵に近付くと、向こうが口を開く前に、頭の中で何度も繰り返したセリフを繰り出す。

「お疲れ様です。私は東の国から来た旅の商人です。先程盗賊どもに襲われ、身一つでなんとかここまで逃げおおせましたが、荷物も身分証も全て失くしてしまいました。どうか数日だけでも街に入れさせていただけないでしょうか」

 途中でつっかえつつも早口でなんとか最後まで言い切った俺は、ここで初めて相手の顔を見た。肌はうっすらと緑がかり、猛禽類を思わせるような金色に輝く瞳の周囲に生えかけの羽毛のようなものがチラホラと見える。鎧の隙間から覗く腕や首元にはみっしりと羽毛が生え揃っていた。上から下へ、そしてまた上へと視線を戻したところで衛兵と目が合う。

「あ、あっ、ごめんなさい! 私の国ではあなたのような方は珍しいもので……」

 好奇心に負け思わず無遠慮な視線をぶつけてしまったが後の祭り。これでは怪しまれてしまうかもしれない。俺はブンブンと頭を振ると取ってつけたように言い訳をした。

「アンタ異世界人だろ? スキルは?」

 俺の不自然な態度を気にした様子もなく、衛兵はそう言いながら台帳を取り出した。

「え、か、鑑定スキルです……」

「鑑定ね。鑑定、と」

 俺が目を丸くしている間に、衛兵は手元の書類にサラサラと書き加えると、腰に巻きつけたカバンから木札を取り出し差し出した。

「まっ、あのっ、俺以外にもその、異世界から人って割と来るものなんですか……?」

 札を両手で受け取った俺は、握りしめたまま恐る恐る問いかける。

「まぁ〜、うちの国じゃ年に二、三人は見かけるかな。今年は君で二人目だ」

 そんな馬鹿な。まさかの異世界バッティング。いや、年に二人? そんなに人気なのかこの世界は。っていうか異世界転移って普通は一つの世界に一人が原則だろ!

 原因は神の怠慢か、運命の悪戯か。多分前者だろう。突然あんな空間に引き摺り込んで、いかにもなセリフを並べ立てて、結果がこれか。俺以外に特異な人間がいる世界なんてVRMMORPGとさして変わらないじゃないか。俺は恐らくもう二度と会えないだろう神に対して、次に会ったら覚えていろよと札を持つ手に力を込めた。

「この大通りを進んで広場を左に曲がると役所があるから、受付で札を見せて地図をもらうといい。あぁ、番号札をちゃんと取るんだぞ。異世界人といえルールはルールだからな。はい行って。次がつかえてるから」

 衛兵は身振りを交えて指示をすると、俺の背中をポンと叩いた。押された勢いのままフラフラと歩き出す。数歩進んだところで後ろから呼び止められた俺が苦虫を噛み潰した顔で振り向くと、

「東の果ての国、アランブルクへようこそ」

 衛兵はそう言って快活そうに笑った。

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