スラりんの才能
シングルベル、シングルベル、俺が泣く、
今日は悲しい、クリスマス…
あの名曲に合わせてお聴きください。
皆さんはどうかよいクリスマスを!
………まず先に言っておこう。
スラりんは天才だった。
ーーー俺は師匠と呼ばれて内心恥ずかしくもスキルをスラりんに教授していた。
「捜索のコツはな……」
と俺の僅かな語彙力で必死に説明した。
うまく説明できたかはわからないが、スラりんは理解した様だ。
そして実技に入った。隠れんぼである。
俺は気配遮断に隠密まで使って隠れていた。
もちろんある程度、手を抜いてだ。
しかしそれは俺の首を絞める事となった。
「そこだね!」
と俺のいる場所を見て言うスラりん。
スラりんは先程カマかけた疑惑が生じているので俺は暫く黙って動かないでいたのだが、
「もうわかってるよ、捜索を手に入れたもん。」
と俺の隠れる岩陰を除きこんだ。どうやら本当の様だ。
えぇぇ!なんか早くない?!と内心思うがそれはスライムの顔にはでなかったので一安心だ。
俺の内心の動揺を知らずにスラりんは言う。
「次はどんなスキルを教えてくれるの?」
「……………気配遮断………」
ボソッとか細い声で答えてしまう。
スラりんが俺の教えで成長するのは嬉しいが俺をあっさり超えてくるのでなんか複雑な気持ちだ。スラりんにスキルを教えるのに自分は超えて欲しくないというのはわがままなのだろう。わかってはいるがなんか悲しいものである。
しかもこんなに早くそんな思いをさせられるとは…
俺はその瞬間的な思考を停止させ
気を取り直してスラりんに修行をつける事にする。
スラりんが強くなりたいのは仲間の為だ。そんなスラりんを親友の俺が後押ししないでどうする!という話だ。
超えられた時はその時だ。
「次は気配遮断だ。気配遮断は自分を気配察知で見て練習すると良いよ。六十秒、それまでに隠れろよ?」
気配の説明については気配察知の時に説明しているので出来るだけ簡単に済ませた。
スラりんは「うん!」と元気な返事をして林の中へと消えていった。
俺は六十秒を数える。最近まではよく寝ていたからか眠くならない。お目々ぱっちりだ!…目ないけど。
そうこう考えている内に俺は「ろーくじゅっ!」と数え終わってしまった。
さっそく探し始める…
うむ、若干予想はしていたが気配がない。
つまり気配遮断を獲得したようだ。ほんとうに末恐ろしいことだ。俺が何日かかったのかはもう考えないようにする……
俺が気配察知を使って広範囲を探しているとほんの少しだけ歪みがある。ほとんど自然に近い状況だが無理に周りの魔素を歪まない様にしているのが分かる。
気配遮断のコツは自然に合わせて魔素を動かす事だ。
歪みは自然の風などでも発生するのでそれと同じ様に動かすのだ。風が吹くなかで下手な気配遮断をすると風によって魔素が動いているのに、スキル使用者の周りの魔素だけが不思然に止まっている。などの状況に陥りかねない。
これは俺が師匠と別れてから発見した事だ。
師匠なら知っているかもしれないが、師匠のスタイルは自分自身で気付かせるという方針なので教えなかったのかもしれない。
俺もスラりんにこの事は教えない事にする。
それでもスラりんなら直ぐに気付くだろう。
俺はその僅かな違和感に向かって
「みーつけた!」
と言った。
その後も俺はスキルを教え続けた。
まずは隠密だ。
スラりんは隠密もあっさり一回の隠れんぼで獲得してしまった。気配遮断と隠密を使うスラりんを探すのはなかなか大変だったが、俺の熟練度が上がっていたのでなんとかなった。気配遮断と隠密の違いは気配遮断は自然に溶け込むスキルだが隠密はまず見るのを邪魔する。別の物に意識を逸らしたりみたいな感じだ…
ここら辺は説明がかなり難しいのだ。
この事をスラりんに話すとみすでぃれくしょんみたいだねと言われたが俺には難しい言葉はわからなかった。
スラりんを見つけてからも更にスキルを教え続ける事になった。スラりんのスキル取得の速さが尋常ではないのでまだ夜にもなっておらず、俺の予定より早くほかのスキルを教えることになったのだ。
しかし俺の使えるスキルはもう数少ない。
更にその中で教えられそうなスキルはもっと少ない。
火魔法と水魔法はレベルアップした時に獲得した物なのでどういう原理かが全くわからない。魔素さんが関係するんやろなぁと漠然としたイメージしかない。
もちろん霧煙幕も同様だ。火魔法と水魔法を同時に使ったら獲得したのだ。そのどちらも教えられない俺に霧煙幕など教えようがない。スラりん曰く、いんぽっしぶると言うものだ。
暗視は暗くなるまで無理だとして
というわけで残るスキルは縮地と分裂・変形、だが
まず前者は俺も命懸けだったのでどうやって覚えたのかよくわからない。とりあえず同じ方法をゴブリンさんに協力してもらって試すしかないのが現状だ。
後者はまずぺったんこな犬とか考えたくないので却下!
あれ?教えられるのもう無くない?
ここまで考えていると
「どうしたの?」
とスラりんが聞いてくる。
俺はあと俺が覚えているスキルを無理矢理教える事にした。
「ツ、ツギハ、シンタイキョウカ、ダヨ。」
「なんでカタコトなの?コボルトの真似?」
「ウ、ウン、ソダヨー」
スラりんがコボルトの物真似だと勘違いした様なのでそれ以上は何も言わずに進める事にした。
身体強化、それも俺がレベルアップで獲得したスキルだがもしかするとスラりんなら手に入れられるかもしれないと思ったのだ。
俺は身体強化の時の感覚を教える。
「シ、シンタイキョウカ、ハネ?」
「聞きにくいから普通に喋ってよ。スーラ」
「ス、すまんすまん。えーと身体強化はな?…」
俺は動揺からカタカナになってしまう口調を直して話し始める。
身体強化は魔素のエネルギーを運動エネルギーに変えるスキルだ。それでスライムのほぼ一つの移動方法である跳躍が強力になりジャンプ距離が高く、遠くなるのだ。
スライムは跳ねることしか出来ないのでそれしか強化されないのだろうが、コボルトなら脚力から顎の力、体幹まであらゆる筋力が強力されるのであろう。
もし獲得できれば強くなったと間違いなく断言できる。
獲得できなければその時はその時だ。
やっぱ無理かなと思いながらも教えきった俺はスラりんを見る。
跳躍で丘のてっぺんの木の、更にてっぺんに一息で跳躍しようとしている。
なにも使わない状態でもコボルトなら一番下の幹までは届くのだが一番上には身体強化がないとかすりもしないだろう。俺なら変形を使って勢いをつければてっぺんまで届く。
とそんなことは今はいい。
スラりんの体が目に見えて緊張する。
ぐっ、と力を込めて一気に大ジャンプする。
ドシン。
木の真ん中ぐらいに頭から直撃した。
やっぱり無理だったか…
俺はスラりんを止めようと思い、口を開こうとする前に
スラりんが立ち上がって叫んだ。
「なにかわかったよ!次は行けそう!」
なにがわかったのかはわからなかったが俺はスラりんの言う通りにする。
「わかった。頑張れよ!」
後は何も言わずに見守る事にする。
またスラりんの四肢に力が貯められる。
その力が一気に解放され、飛び上がった。
そして誰もが予想しなかった結末を迎えた。
ドシーン
「「………」」
二人共に沈黙する。
「「よっしゃー!」」
俺たち二人、スライムとコボルトは抱き合って喜んだ。
はたから見ればスライムとコボルトが争っているように見えるかもしれないがそんな考えはその時は全く浮かばない。
何が起こったのかというと
スラりんは木のてっぺんに跳び乗ったのではなく。
跳び越えたのだ。もはや跳ぶというより翔ぶといった感じだった。もちろん飛び続けるはずもなく、
先程のドシーンは、自分でも予想せずに木跳び越えたスラりんが着地に失敗した音だった。
思いがけない結果に俺達は喜んだのだった。
そして俺はスラりんの才能を思い知らされたのだ。
俺を誇らしいような嬉しいような寂しいような、複雑な気持ちに包まれた。
師匠もこんな気持ちだったのかなぁと心の何処かで感じた。
ロ、口
どちらがカタカナでしょうか?
正解は左でした!
スミマセン、書くことがなかったんです。
かなり今回は長くなりました。
主人公が才能があってめっちゃ強いのはよくあるパターンですがこのお話は主人公の親友の方が才能があります。
これからどうなっていくのかお楽しみ下さい!
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