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兄と弟

少しシリアス展開になりました。

かなり重めの話ですが

お付き合いお願いします。


助けられた。


それはなんとなくわかった。

でもなんでスライムが?それにあの強さは?

確かにファイアスライムはウォータスライムより強いけれども…

疑問は尽きない。

あの後スライムは何処からか湧いた煙に消えていった。

僕はただ呆然とするしかなかった。

一応レックスが落としていった両手剣を回収して

それからどうやって帰って来たのかは覚えていない。


僕は窓から外を見る。月はすっかり姿を隠している。新月 だ。星がいつもより綺麗に見える。

呆けている場合ではなかった。食事の準備をしなければ


簡素なスープとパンそれが今日の晩御飯だ。

それを黙々と一人で食べる。

温かいが味の薄いキャベツが入っているスープを啜りながらなぜか数年前の事を思い出す。


僕には家族が居た。

それは過去形だ。

母の顔は知らない。僕を生んで亡くなったらしい。

元から体が弱かった母は病気がちだったと聞いている。

病気などでは教会で生き返る事はない。

魔物との戦いで死んだ者が生き返るだけだ。

昔は神様を恨んだ。

今も何処かで恨んでいるかもしれない。


父と兄だけが僕の残った家族だった。

それも過去形だ。


父さんは料理上手で戦いも強くて尊敬できる父親だった。

昔は名の知れた冒険者だったと周りの人々は言っていた。

時に厳しくそして優しく叱ってくれたのが懐かしい。

僕が3才の頃兄さんは15歳になって勇者になった。

まだ小さいながらにすごい事だとわかった。

そこから2年間は父との二人暮らしだった。

その間も兄さんの噂は響いてくる。

父さんはとても誇らしいそうにしていた。

僕に「兄さんぐらい強くなりなさい」と笑いかけてくれた。

そして僕が5歳の誕生日を迎えた日

父は帰らぬ人となってしまった。

事故だった。僕と同じくらいの子供を庇って亡くなったのだ。こんな事を言うのは悪い事かも知れないが

僕は父さんに生き残って欲しかった。

ほかの子供なんて別に良いのになんて思ってしまった。

そんな事を思ってしまう自分が嫌いだった。

兄さんは父の葬式に急いで帰ってきた。

その頃兄さんはまだ17歳

勇者としてとても活躍していた。


兄さんと僕は実は血が繋がっていなかったらしい。

僕が養子というわけではなく。

兄さんが小さい頃に保護されてそのまま家族になったらしい。その話は兄さんから聞いた。

話し終わった後に兄さんは

「血は繋がってなくても俺はお前の兄さんだ」

そう言って泣いた。

僕も大泣きした。

その後僕達は少しの間二人で暮らした。


兄さんの料理は父さんと違って壊滅的だった。

二人暮らしをはじめた初日に

「兄ちゃんがなにか作ろう」

そう言って朝食を作ろうとしたが

出来上がったのは炭化した黒い塊だった。

「これなに?」と僕が聞くと

「玉子焼きになりたかった炭」と兄さんは答えた。


思わず吹き出してしまった。

「なにそれ…ふふふっ」

「ははは…おかしいなぁ……」

それからは殆ど外食だった。兄さんはとてもお金持ちだった。パンを買うのに金貨を取り出してお店の人がおつりが全然足りないと困らせていた。


兄さんは18歳になった。

楽しかった日々は結局半年で終わった。

兄さんが旅に出ないと行けなくなったからだ。

勇者には義務が生じるらしい。

強ければ尚更のことだ。

人々を守らないといけない。

兄さんは他の仲間に無理を言って一緒に暮らしてくれたらしい。

別れの日

兄さんは僕に向かってこう言った。

「魔王を倒してくる。絶対帰ってくるから」


それから僕は親戚の家に引き取られた。

僕の伯父と叔母は優しい人達だった。

僕をここまで育ててくれた。

二人は子供ができにくい体質で僕を実の息子同然に育ててくれたのだ。

僕は6歳から教会へと勉強に行った。

子供は6歳から教会で勉学に励むのだ。

そこで僕はユリに出会った。教会で勉強する同年代は彼女だけだった。他は全員年上だ。

ユリはまじめで誠実で正義感が強く、純粋に綺麗だったので

いつの間にか好きになっていた。

最初は向こうから話しかけてくる事もなくて僕も恥ずかしかったので会話は殆どなかった。


ある日教会の裏に突然呼び出された。

僕はある種の期待をしたが

彼女が口にした言葉は

「ごめんなさい、あなたのお父さんは私が殺した様な物なの」

と僕に言った。

一瞬思考が停止したが話を聞くと

父さんが庇った子はユリだったのだ。

それを言われて僕は何を言っていいものかわからなかった。恨んでないと言えば嘘になるが好きな気持ちも本当なのだ。

「…父さんのおかげでユリさんに会えて僕は良かったよ。だからあまり気にしないで、父さんの助けた命を大切にしてね」

少し悩んでからそう答えた。

ユリは

「大切にする、大切にするね…」

何度もそう言って泣いた。

女の子の涙を見て僕はオロオロしてしまった。

何度考えてもどうすればいいかはわからなかった。

僕は彼女が泣きやむまで一緒にいる事しか出来なかった。

それから僕達は友達になった。

ユリは優秀で勉強を教えてもらったりもした。

僕が7歳になってから少し過ぎた頃。

兄さんは20歳になり歴代最強の勇者と呼ばれるようになっていた。

それまで最強と言われていたのは80年程前の

勇者だ。その人達は今も生きていて国王とかになったらしい。それは歴史の授業で教えてもらった。

兄さんは魔王討伐に向かう事は風の噂で知った。

この町から兄さんが旅立ってから帰ってきていない。

魔王討伐に行く前も帰ってこなかった。

それにがっかりしながらも

代わりにやってきたのは一通の手紙だった。

内容は

帰ってこれなくてごめん、というものだった。

決心が鈍るかもしれないから帰るのはやめたんだ

と書いてあった。

それからは兄さんの旅の事やたわいもないことが書かれていた。

ただ最後に書かれていた言葉は忘れられそうもない。

「魔王を倒して絶対帰ってくる。それまでお別れだ。」

兄さんの筆跡で書かれたそれは

旅立つ前に言った事とほぼ同じだ。


「…行ってらしゃい」


僕は誰もいない中でそう呟いた。


それから8年経った。

その間、兄さんは帰ってくる事は無かった。

死んだとか色々憶測は飛び交っている。

魔王の仲間になったなど信じられない物もきこえてくる。

僕は15歳になった。

15歳で教会は卒業だ。それからは自分の家の家業を継ぐもよし、より大きな学校で勉強するもよし、

冒険者となって旅するも良しだ。

僕は兄さんを捜し出したいので冒険者になることにした。

冒険者になる時は教会にお祈りにいく。

それで復活する場所が決定するのだ。

新たな町に着くとまずそれをしなければならない。

それと一部の人に勇者の称号が与えられるのだ。

淡い期待を持っていたが僕はそれでは無かった。

そしてユリは勇者になった。


それからユリは勇者としての才能を開花させ、この町で活躍している。

もう少し立てば次の町に旅立つだろう。

それなのに僕はスライムにやられるくらいだ。

弱い者は旅立つ事は許されない。

この町に残ってなにか仕事を見つけないといけない。

なんとか強くなって兄を見つけだしたい。

ユリに置いていかれたくない。

そんな思いが大きくなる。

…いつの間にかスープとパンは無くなっていた。

少し考え込んでしまった。


僕は寝る前に庭で剣を振り

それから寝る事にする。

二度と魔物に負けないように。


くしゃみ君の悲しい過去を書きました。

我ながらなかなかハードになってしまいました。

この物語はトーマの成長物語でもあります。

面白いければブックマークをよろしくお願いします。

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