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第一章

〈今から約1000年前。5人の神と人は争いをしていた。5人の神の力により大地は割れ、天変地異を各地に引き起こした。壊れていく故郷を見て人々は絶望をする。しかし、英雄は諦めなかった。英雄は5人の神に立ち向かい己を犠牲にして神々を封印した。〉


「ごめんね…。」

そう言った女性は泣きながら赤ん坊を優しく包み込むように抱きしめる。

顔は黒い影で覆われていて視認できないが、窓から差し込む僅かばかりの満月の光を頼りに女性の綺麗な黒髪を照らす。女性は色白で、少しでも力を入れてしまえば折れてしまう小枝のような細い腕で赤ん坊をいっそう強く抱きしめる。しかし、その腕から発する力が強くなる気配は一切なく、それどころかますます弱くなっていく。その光景を横から眺めていた俺は弱っていく女性をただ呆然と見ていることしかできなかった。段々と衰弱していく女性と比例するかのように俺の視界もぼやけ始めてきてしまう。そして、段々と意識が遠のいていく中で、女性が発した言葉を俺は聞き取れなかった。ーー

起きたとき目から一粒の涙が頬を伝っていた。ここ最近同じ夢を見る。夢の具体的な内容ははっきりとは覚えていないが、朝起きると身体に大きな穴がぽっかりと空いたような孤独感に襲われる。

「もうこんな時間か…。」

涙を拭き、このどうしようもない孤独感を埋めるようにベッドから身体を起こした。

「起こしにいくか…。」

起き上がると石化されたかのように凝っている筋肉を軽い伸びでほぐしてから部屋を出た。部屋を出てすぐ右の扉を開けると、ラベンダーの香りが部屋一杯に広がっており、机の上には砥石や布などの剣の手入れ道具が几帳面に置かれている。机の横には、昨夜に入念に手入れがされたであろう竜の紋章が刻まれた大剣がギラギラと存在を主張していた。そして、ベッドの枕元には机のまわりに置いてあるものとは似ても似つかわず、ギャップ萌えを感じさせるテディベアが居座っている。

「はぁ…仕方ねぇな…。」

そう言いながらベッドに近づくとそこからは、深紅に染まった髪。気持ちよさそうによだれを垂らしながら寝ている女性が顔を覗かせていた。気持ちよさそうに寝ているところを起こすのは申し訳ないと思いつつ、俺は心を鬼にした。

「起きろォォ!もう朝だぞォ!」

俺の渾身のモーニングコールを受けた彼女は目を半開きにさせながら身体を起こす。

「ふわぁ…おはよぅ…。」

「おはようじゃねぇよ。今日は仕事なんだろ?もう11時だけど大丈夫なのか?」

それを聞いた彼女は数秒固まったあと、固まった時間とは比べ物にならない速さでどんどん顔が青ざめていく。急いでベッドから飛び起き、着ていた服をぶっきらぼうに脱ぎ捨て、机のまわりにあった大剣や鎧を手馴れていない様子で装着していく。

「なんでもっと早く言ってくれないのよぉ!明日は10時から聖騎士になってからの初の任務があるって言ったでしょ!?」

「アイシャがいつまでもルイに頼ってられないから明日は自分で起きるって言ったんだろ!?」

そう言い放った後、俺は乱暴に捨てられた女性用の寝間着を一つ一つ丁寧に拾い上げ丁寧にたたむ。今、1人で鎧と格闘をしている彼女の名前はアイシャ。俺の実の姉だ。そして俺の名前はルイという。アイシャは朝がとてつもなく弱い。周囲の人たちには、エルフのような色白で目鼻が整った顔立ちと依頼された任務は最後までやり遂げるという責任感からしっかり者だと認知されているが、実際はこの有様である。

「ちょ…これどうやって着るんだっけッ!ねぇ!ルイ!手伝って!」

先程までアイシャが着ていた服をたたみ終わった俺は必死に助けを懇願するアイシャを無視し、朝食であり、昼食の準備をするため台所に向かった。台所に向かいながら今、自分が食べたいものを想像し、ある程度食べたいものが決まったら両手を勢いよく合わせる。パンッという乾いた音がなるとともに俺は言葉を発した。

「cook(料理をしろ)」

言葉を放つと同時にフライパンを熱するための火がつき、冷蔵庫からは卵とベーコンが一人でに取り出される。ベーコンは一口大に切られ、卵が次々と割られていくその現象はまるで高級ホテルの厨房のようにプロの料理人たちが迅速にかつ、丁寧に作り上げているかのような光景を思わせる。

しばらくすると火は消え、スギの木でできたテーブルの上には2つの皿に分けられたスクランブルエッグが用意されていた。

「調理完了!」

と言ったのと同時に鎧との格闘に勝利したアイシャが二階から降りてきた。

「ごめん!作ってくれたの嬉しいけど急がないといけないから帰ってきたら食べるね!じゃあ行ってきまーす!」

「ちょっと待って!せめて弁当だけでも…!」

言い終わった頃にはもうアイシャはいなかった。乱雑に開けられた年期の入った木製の扉がギシギシと軋む音を残して俺は頭をぽりぽりと掻く。

「仕方ない…。食べ終わったら王城まで行って届けるか…。」

こうして俺にも聖騎士の姉に課せられた任務を遂行すべく、王城に向かうのだった。


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