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リバース・ジョーカー  作者: 遥華 彼方
第四章 黒き嘲笑の真実
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死人が邪魔すんな

 降り注ぐ氷の槍に貫かれた璃空。


 「何故だ、未空? 何故お前は、こんな欠陥品に全てを託した?」


 血を流しながら、冷たい目でこちらを射貫く千咲。

 だが、その瞳に移るのは璃空ではなかった。

 璃空の中に宿る未空の意志を見つめていた。


 「お前の選択が正しかったのかどうか。証明してみせろ、未空!」


 千咲は、氷の槍を璃空に向かって──。

 ──否。璃空の中に眠る未空に向けて、蹴り穿つ。

 朦朧とする璃空の意識の中、心臓の鼓動が跳ね上がる。

 跳ね上がった鼓動は誰のものか。

 リズムの違う心音が二つ。

 その鼓動が重なり合った瞬間、璃空の意識は冷たい霧に塗りつぶされる。


 「──随分と、好き勝手言ってくれるじゃん」


 璃空は向かってくる槍を拳で粉砕する。

 その衝撃で、璃空の周囲に突き刺さっていた氷槍は全て砕け散り、氷の欠片が周囲に漂う。


 「私の大事な、弟に向かってさぁ!!」


 そして、氷の欠片は弾丸となり、千咲を襲う。


 「……鳴神さん?」


 「……何、あれ」


 戦いを見守っていた沙織と玲那は、雰囲気の変貌した璃空に困惑する。


 「ようやく出てきたか。このまま、大事な弟を見殺しにする気かと思ったが」


 放たれた氷の弾丸を全て叩き落し、璃空の意識の表層に現れた未空に語り掛ける。


 「大事な娘を見殺しにしておいて、よく言うわね。あの日、自分が何をしたのか、分かってるの? ……それに、あんたは約束を違えた!」


 未空が指を鳴らすと、叩き落された氷の弾丸から氷の刃が花開く。


 「私が実験体になる代わりに、璃空を実験体にはしないって、そういう約束だったでしょ!」


 「違えてはいない。お前との約束の前に、そいつも既に実験体にしていた。それだけの話だ」


 開花した氷刃をかわしながら、千咲は未空の懐に潜り込む。


 「ふざけんな、クソ女……!!」


 未空の身体に手をかざす千咲と、そんな彼女目掛けて、氷槍を振り下ろそうとする未空。

 その二人の間に割って入るように、炎の壁が出現する。


 「なっ……!?」


 「ほう」


 驚く未空と無関心な千咲。


 「え、えーっ!? 沙織さん……!?」


 二人の間に割って入った沙織は、荒く息を吐く。


 「ふざけんな…‥‥?」


 そして、炎を纏った拳を、未空の顔面に容赦なく激突させる。


 「ふざけんな、はこっちのセリフだ、バカ神!!」


 怒りと共に、赤く赤熱した髪をかき上げながら、壁に激突した未空を見下ろす。


 「鳴神を置き去りにして死んでいった弱い女が……今更しゃしゃり出て、知ったような口を聞くなよ!!」


 「あんた……璃空の何なの……?」


 「ただの腐れ縁……まあ、一応、親友。あんたが死んで、一番苦しんでる時期の鳴神を見せられたうちの一人よ」


 沙織は、ゆっくりと未空に近づいていき、彼女の胸倉を掴む。


 「ねえ。あんた、ずっと鳴神の中にいたの? どういうつもりで、鳴神のこと見てたの?」


 「そ、それは……」


 「ずっと見てきたなら分かるでしょ? 今のあいつには、あんたの助力なんて必要ない。これは、鳴神の戦いだ! 死人が今更、手を出すな!!」


 炎を纏った拳を璃空に振り下ろし、その余波で、床と壁が崩壊する。


 「──うるせえし、いてえよ。アホ宮」


 崩れ落ちる氷の瓦礫の中で、炎拳を受け止める影が映る。


 「でも、目は覚めたでしょ?」


 そこには、沙織の拳を受け止める璃空の姿があった。


 「どういうわけか知らないけど、自分の戦いなら、自分で責任持ちなさいよ。次、同じような戦いしたら殺すから」


 「……分かってるよ。ありがとな」


 璃空に忠告をした沙織は、彼に背を向け、元いた場所に戻る。

 その道中、千咲の前を通り呟く。


 「……邪魔しなくてよかったの? 絶好の殺害チャンスだったのに」


 「ふん。最初に言っただろ? データ収集だと。貴様の介入で、予想外のデータが取れるのであればその方がいいからな」


 「あっそ。研究者ってのは、難儀な性格なのね」


 「私から言わせてもらえば、貴様の方がよっぽど難儀な性格に見えるがな」


 「好きに言ってなさい」


 千咲の言葉を受け流し、沙織は玲那の元に戻る。


 「ちょっ、沙織さん……!? 急に飛び出して、何やってるんですか……!」


 「ごめん。……でも、あんな戦い、意味ないでしょ」


 玲那に怒られながら、沙織は立ち上がる璃空の方に視線を向けた。


 「……お前と戦い出してから、ずっと理由の分からない怒りがあったんだ」


 璃空は、自身の両腕に纏わせた雷撃を激突させ、炎を生み出す。


 「でも、ようやく分かった」


 そして、沙織の放った炎を取り込み纏う。


 「未空、未空って……今お前の前に立ってるのは、俺だろ……!」


 激しい怒りと共に、璃空は一瞬で千咲の懐に潜り込む。


 「いい加減、俺を見やがれ!! この、クソ女がぁ!!」


 千咲が張り巡らせた極低温の冷気の障壁と璃空の凍てつく雷翼がぶつかる。

 璃空の冷気では、彼女の冷気は破れない。

 だが、極寒の嵐の中を掻い潜る道筋を創り出すことは出来る。

 ほんの少しの小さな綻びに向けて、激情に燃える炎雷を叩きつける。

 極低温と超高温の激突により発生した衝撃が、二人を吹き飛ばす。


 「……ちっ」


 体勢を直し、立ち上がる千咲は、自身の頬に着いた傷に気が付き、舌打ちをする。


 「かすり傷だけど、ようやく届いたな」


 そのことに気が付いた璃空も立ち上がりながら、彼女の傷を指差す。


 「欠陥品相手だからって、いつまでも調子に乗って、様子見してると死ぬぞ?」


 「……ふん。やってみろ」


 無表情だった千咲は、ついに表情を崩し、不敵に笑う。

 その表情に、璃空は火がつく。

 絶対に、その表情を歪ませてやる。

 ただその一心で、璃空は再び彼女に迫り、拳を振るおうとした。


 「──はい、そこまで」


 その時、パンっという拍手が響き、その場にいた全員が、音の鳴った方向に視線を向ける。


 「データ収集はそこまでにしてくれ、千咲。時間がないことは説明しただろう?」


 「……あいつは確か、セブンスの強欲、星導生真せいどういくま


 璃空は、音の鳴る方向から現れた人物に見覚えがあった。

 職人街で、璃空と悠乃の前に立ちはだかった人物だった。


 「偉そうに私に命令するなよ。居候の分際で」


 「これは手厳しい。よっぽど邪魔されたのが不機嫌なのかい?」


 「ちっ……。興冷めだ。好きにやってろ」


 「は? おい、ちょっと待てよ!!」


 千咲は、星導に怒りを示しながら、璃空に背を向け、その場を立ち去る。

 璃空が何度呼び掛けても、答える気はないとその背中で示すように、千咲は黙ってその場から姿を消した。

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