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リバース・ジョーカー  作者: 遥華 彼方
第3章 赤夜の夢と天霊都市
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告白

「──ん……。こ、こは……」


 「目が覚めたんですね、沙織さん」


 「玲那……?」


 天霊都市での決戦から二日後。

 とある場所で目を覚ました沙織は、行方知れずとなっていた玲那と再会を果たした。


 「ここは、ブラックアリスの数ある拠点のうちの一つです」


 「……そう。そういうこと、ね。輝夜の霊装がいきなり使えなくなるなんて、おかしいと思っていたけど、あなたの仕業だったのね」


 玲那の一言で、沙織は、彼女が第零部隊を裏切っていたことを理解した。

 そして、璃空と戦う直前、輝夜の霊装が使用できなくなったのも、彼女の仕業であることを理解した。


 「……はい。輝夜さんがあそこにいたら、戦いは終わらないと思ったので。……それに、あのままだったら、沙織さんが殺されるのは目に見えていたので」


 「っていうことは、私をここに連れてきたのも、玲那の独断?」


 「はい。今、沙織さんを安全に匿える場所はここしかないと判断しました」


 「はぁー……。よかったぁ……」


 玲那の返答を聞き、沙織は何かに安堵したように、大きく背伸びをした。

 そして、全身に走る激痛に顔を歪め、うずくまった。


 「だ、大丈夫ですか……!?」


 「いてて……。天霊になったとはいえ、そう簡単に傷は治らないか……」


 「どちらかというと、丸二日間も寝てたことが原因だと思います。傷に関しては、ほとんど完治してますから」


 「……本当だ。本当に天霊は化け物だね。最悪の気分……」


 そう呟く沙織の表情は、心の底から嫌がっているようには思えなかった。

 どうしてそんな表情をしているのか、玲那には分からなかったが、それはきっと彼女にしか分からない感情なのだろうということを理解していた。


 「ところで、さっきの言葉、どういう意味なんですか?」


 玲那には、「沙織を連れて帰ったことが、玲那の独断でよかった」という発言の方が理解できなかった。

 彼女の疑問に対し、沙織は苦笑いしながら口を開いた。


 「あれは、簡単な話だよ。もし、私を連れて帰ったのが鳴神の判断だったら、負けた上に情けをかけられたことになるでしょ? そんなのお断りだし、間違いなく殺しちゃうだろうから」


 「あー……納得しました……」


 沙織の言いたいことを理解した玲那は、ぎこちない笑顔を浮かべて、笑うしかなかった。


 「──それで、玲那はこれからどうするつもりなの?」


 「……いきなり核心を突きますね」


 「回りくどいのは苦手だから」


 「……そうですね。正直、まだ考えられてません。ここに来た目的の半分も達成できていないので」


 玲那は、沙織の問いかけに、俯きながら答えた。

 彼女がここにいる理由は、姉である灯里と再会し、両親の死の真相を知ることである。

 しかし、玲那は灯里と再会することを恐れ、彼女が目を覚ました今でも、避け続けていた。


 「……そっか。まあ、ゆっくり考えよ。……私も、どうしたらいいのか分からないし」


 玲那の返答を受け取る沙織もまた、自分がこれから何を為すべきなのか見失っていた。

 自分がここに辿り着いた理由は、きっと、今一度自分自身を見つめ直し、この先進むべき道を選択するためなのだろうと、沙織は考えた。

 だからこそ、玲那の答えを肯定も否定もする気はなかった。

 彼女もまた、自分自身で答えを出さなければならないのだから。


 「──そう言えば、むかつくバカ神たちはどこにいるの?」


 「みなさんなら、奥の部屋で、色々と話し合ってます。鳴神さんは、さっき目を覚ましたみたいで、屋上に行くのを見ましたよ」


 「ふーん……。……ちっ。目を覚ますのも負けたか……」


 「さ、沙織さんって、もしかして負けず嫌いだったりしますか……?」


 「ん? そうだけど、知らなかった? 特にあのバカ神に負けるのだけは絶対に許せない」


 「あはは……。鳴神さんも大変だなぁ……」


 玲那は、璃空と沙織が犬猿の仲であることを理解し、出来れば仲裁役にはなりたくないなとため息を零すのだった。



 沙織が目を覚ます少し前。

 先に目を覚ました璃空は、自分の異変に気が付いた。


 『──』


 「くっ……何だよ、これ……」


 身体を起こそうとした璃空は、鼓膜が破れるほどのノイズ音と、割れそうなくらい痛む頭の影響で、ベッドから転がり落ちた。

 しかし、床に打ち付けた身体の痛みを感じないほどに、その異常は璃空を蝕んでいた。


 「く、そっ……」


 璃空は体を起こし、痛みから逃げるように部屋を出て、どこへともなく彷徨い始めた。


 『──、──』


 一歩足を進めるごとに、ノイズと頭痛は増していき、もはや、自分がどこを歩いているのかも分からなかった。

 それでも、足を止めてしまったら、自分はこの異常に呑み込まれ、消えてしまうのではないかという恐怖が、璃空の脚を動かし続けた。


 『──! ──!!』


 「あがぁっ……ぐがぁ……!!」


 どれくらいの時間が経ったのか。

 璃空には分からなかったが、ついに動くこともできず、その場に崩れ落ちた。


 「ぁあ……あ、あああ、がぁああああ!」


 絶えず聞こえ続けていたノイズは、ついに視界まで蝕み、限界を超えた痛みに、璃空は絶叫する。


 「あ──」


 そして、超えてはいけないラインを超えたかのように、視界は白く塗り潰され、辺りは静寂に包まれた。


 『──璃空』


 異質ともいえる世界の中で、璃空の耳に聞こえた声は、何度も聞いたことのある誰かの声だった。


 『……その力は、使いすぎないで』


 「ねえ、ちゃん……?」


 一体、どういうことなのか。

 尋ねようとしたその時、白く染まっていた璃空の世界が、元に戻り始めた。

 ノイズも頭痛も消え、残ったのは疲労感と気怠さだけだった。

 その気怠さに目を委ね、地面に寝転がりながら、自分は今どこにいるのだろうかと疑問に思った璃空は、辺りを見渡した。

そこは、先ほどまでいた部屋ではなく、建物の屋上だった。

 いつの間にか、こんなところに辿り着いていたことに気が付き、璃空は苦笑いを浮かべた。


 「姉ちゃんは、何が言いたかったんだ……?」


 そして、璃空は暗闇に包まれた空を見上げながら、未空の残した言葉の意味を考えていた。

 甘音の助言や、天霊として覚醒し、戦いを経たことで、自分の力が特殊なものであることは理解できた。

 同時に、他人の霊力を得ることで、自身の能力として使用できるという能力が、何のデメリットもなく使えるわけがないということも理解していた。

 現に、先ほどのノイズや頭痛も、恐らくは能力を行使した代償なのだろう。

 強力な力であるからこそ、その後に発生する代償も大きいということを忘れるなという啓示だったのかもしれないと、璃空は解釈することにした。


 「──あ。こんなところにいた……!」


 「え……?」


 未空の助言を胸に仕舞い、自分の能力の扱いに気をつけようと考えていると、屋上のドアが開く音と、少し怒ったような灯里の声が聞こえてきた。

 身体を起こして、振り向くと、そこには頬を膨らませる灯里の姿があった。


 「部屋に様子を見に行ったら、どこにもいないんだもん……。心配したんだからね?」


 「ご、ごめん……。外の空気吸いたくなってさ……」


 灯里にこれ以上心配をかけたくないと思い、ノイズや頭痛のことは黙っていようと、適当な理由をでっちあげる。


 「──ウソ」


 しかし、璃空の浅はかな考えなど、灯里にはお見通しだった。


 「そんなひどい顔色して、何もなかったみたいに言わないで。……本気で怒るよ?」


 璃空の隣に座る灯里は、返答次第では何をするか分からないぐらい本気の目をしていた。


 「……ごめん」


 灯里のその表情に、璃空は頭を下げ、目を覚ましてから、ここに来るまでにあったことを全て白状した。


 「そうなんだ……。今は、何ともないの?」


 「……多分?」


 「──よかったぁ」


 灯里は、璃空の言葉に安堵したのか、優しく微笑んだ。

 その表情は、璃空が護りたいと思い、必死に戦って、守り抜いた、灯里の優しい笑顔だった。


 「鳴神くんに何かあったら、私……嫌だよ?」


 「分かってるよ。俺は、どこにもいなくなったりしないし、何があっても死んだりしない。──俺は、玖遠さんの笑顔をずっと守り続けるって誓ったから」


 璃空は、灯里の目を真っ直ぐに自分の想いを伝えた。


 「……それって、告白?」


 「──そうだよ。告白だよ」


 最初に約束を交わした時のように照れながら笑う灯里の手を握り、璃空はその言葉が本気であると宣言する。


 「え!? あ……えー……えええ!?!?」


 驚いた灯里は、頬を赤らめ、明らかな動揺を見せた。


 「ほ、本気……?」


 「……冗談でこんなこと言わないよ」


 上目遣いで璃空を見る灯里に、璃空は少し照れながらも真っ直ぐに言葉をぶつける。


 「……やだ」


 「え?」


 しばらくの間考えこんでいた灯里は、小さな声で呟いた。


 「……永遠に守り続けてくれなきゃ、やだ」


 そして、璃空を抱きしめ、彼の耳元で消え入りそうな声で囁いた。


 「……守るよ。永遠に君の笑顔を守り続ける。ずっとずっと永遠に、君のその笑顔を守り続ける」


 灯里の願いに、璃空は彼女の身体を強く抱きしめ応える。


 「だから……その、俺と……付き合ってください……」


 「……うん。こんな私でよければ、喜んで…‥」


 星に照らされた夜空の下で、二人は永遠の約束を、永遠の愛を誓うのだった。

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