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リバース・ジョーカー  作者: 遥華 彼方
第3章 赤夜の夢と天霊都市
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破滅という名の泥船

 天霊都市での戦いから数日。

 Orpheus本部に、全部隊が招集された。


 「おい、聞いたかよ」


 「ああ……。灯魔さんが死んだって話だろ? 信じられねえよ……」


 「それだけじゃねえよ。どうやら、篠宮さんも玖遠さんも消息不明らしいぜ」


 「……ってことは、第零部隊は事実上壊滅ってことか……?」


 集められた隊員たちの話題は、先の戦いで壊滅的な被害を被った第零部隊の話だった。

 彼らにとって、第零部隊は、圧倒的な力を持つ天霊との戦いにおいて、希望そのものだった。

 そんな彼らが大敗を喫したというニュースは瞬く間に広がり、Orpheusという組織は、崩れる寸前にまで追いこまれていた。

 会場中に伝播していく話し声は、いつしか不快な不協和音を奏でていた。


 「──静粛に」


 そんな会場の空気を、一人の男の声が一刀両断した。


 「そ、総帥……!」


 どよめいていた会場は、舞台上に現れた総帥・立華陽彩の一声で静寂に包まれた。


 「諸君も、先の天霊都市での戦いについては聞き及んでいるだろう。第零部隊は明星輝夜を残し、死亡及び行方不明。加えて、研究開発機関局長である流転哭井も死亡した」


 「──!?」


 現れた陽彩は、天霊都市での戦いにおける損失を改めて、隊員たちに周知した。

 第零部隊について把握している隊員が多かったが、哭井の死については秘匿されていたため、多くの隊員に動揺が走る。


 「この損害は、我々にとっては大きな痛手だ。驚異の一角であったセブンスが事実上、壊滅したとはいえ、未だ脅威と呼ぶべき天霊は存在している。特に、鳴神璃空──彼は、この先、世界そのものを変えてしまうほどの脅威を秘めていると私は考えている」


 彼の言葉に、隊員たちは不安を煽られ、激しい動揺を見せた。

 天霊を狩るために存在する第零部隊が壊滅し、その上で新たな脅威の出現。

 それが意味することは、自分たちの出撃であり、死を意味していると彼らは考えていた。


 「そんな未曽有の事態に対抗するため、我々は、新たな舞台を設立することにした……! 入ってきてくれ」


 陽彩の言葉に従い、壇上に、男女入り混じった5人が姿を現した。


 「な……!?」


 その姿を見た瞬間、輝夜を含めた何人かの実力者たちは、無意識に霊装を抜いていた。


 「全員、霊装を仕舞え。──もう分ったと思うが、彼らは全員天霊だ」


 「──!?」


 「目には目を、歯には歯を。天霊には天霊を。彼らは皆、天霊でありながら、天霊がこの世から消えることを望んでいる。とはいえ、彼らが危険な天霊であることに変わりはない。故に、それ相応の統率者を用意した。挨拶を」


 陽彩からマイクを渡された女性は、にこやかに微笑んだ後、冷たい声で一言だけ呟いた。


 「──跪け」


 その瞬間、会場内にいた全員が、思考する間もなく、地に膝をついた。


 「ご覧の通り、私の力は言葉を聞いたもの全てに作用する絶対不変のものです。それは、天霊であろうと例外ではない。それに、彼ら彼女らからは既に感情も思考も奪い取っています。言うなれば、自動稼働する兵器といったところね。──だから、安心して彼らを使い潰し、天霊をこの世から殲滅しましょう」


 彼女の有無を言わさぬ言葉に、隊員たちは得体の知れない熱に犯されたように、雄たけびを上げた。


 「あ、自己紹介がまだだったわね。私は、流転妃縁。よろしくね」


 彼らの声にかき消され、妃縁の声は届かなかった。

だが、彼女自身、そんなことはどうでもいいと言わんばかりに、マイクを陽彩に投げ返した。


 「決を取ろうと思ったのだが、必要なさそうだな。天霊による部隊、禁忌部隊の設立だ……!!」


 彼の一言で、会場中は更なる熱気に包まれた。


 「──くだらな」


 そんな異常なまでの熱気に包まれた会場で、冷めきった言葉を呟く少女がいた。


 「天霊を狩る組織が、天霊を使いだしたら終わりでしょ」


 彼女の名前は、佐伯早恵さえきさえ

 第三部隊隊長である。


 「ば、バカ……! 余計なこと言うなって……!」


 「そ、そうだよ、早恵……! こんなみんないるところで総帥に楯突くようなこと言ったら……!」


 佐伯の言葉を聞いた同部隊員や、隣にいた第二部隊隊長・鈴見直輝すずみなおきは、彼女の発言を必死に止めようとする。


 「はぁ? 何で?? 間違ってることを間違ってるって言って、何が悪いの? これを認めたら、今までの私たちの戦いが馬鹿みたいじゃない……!」


 彼女の怒りはエスカレートしていき、声も大きくなっていく。


 「私たちは、何のために泣き叫んで、命乞いをする天霊を殺したの……? 何のために、殺したくない天霊も殺してきたの……? 友達とか、家族とか、恋人とか……殺したくなかった天霊だっていっぱいいたはずでしょ……!? それでも、私たちはそうすることが正義だって信じて戦ってきた……。」


 瞳に涙を滲ませ、震える彼女の言葉を、直樹たちに歯止めることが出来なかった。


 「それなのに、今更天霊を戦力として使う……? 馬鹿にするのも大概にしろ!!」


 佐伯は涙を流しながら、壇上に立つ陽彩たちに向けて、怒りの咆哮をぶつけた。

 その一撃に、会場の壁や床は粉砕され、隊員たちも吹き飛ばされる。


 「──だったら、どうする?」


 土煙が晴れ、無傷の檀上の上から、陽彩は問いかける。


 「こんな泥船には乗ってられない。私はあんたたちを許せないし、許さない。絶対に……!!」


 「佐伯、お前……」


 彼女の怒りを間近で感じた直樹は、言葉を紡ぎ、自分が今何ををすべきか考え始めた。


 「そうか。──では、裏切り者は殺しておかなければな。総員、戦闘態勢……!」


 陽彩は、冷たく無慈悲に、佐伯の処刑を全隊員に命じた。

 彼らは、動揺しながらも、その命令に逆らう気がないのか、武器を取り始める。


 「待ってください、総帥……! いくらなんでも──」


 「──輝夜!!」


 混沌とした状況を止めようとした輝夜の声を、明星白夜が遮る。


 「……!? 父さん……!」


 「黙って見てろ。そもそも、こんな事態に陥ったのは、お前が隊員を守れなかったからだろ」


 彼の言葉に、輝夜は反論も出来ず、彼は黙って、この状況を見守るしかなくなった。

 輝夜の目の前で、状況はどんどんと取り返しのつかない方向へと進んでいく。

 陽彩の命に従った隊員たちが、佐伯を殺すために、武器を振るい始める。


 「すみません、佐伯隊長……。死んでください……!!」


 四方八方からの攻撃。

 応戦しようとする佐伯だったが、その内心は諦めが勝っていた。

 このまま戦っていてはいずれ負けるが、逃げようにも逃げ道はない。


 「だからって、こんなところで死んでたまるか……!」


 彼女は弱気になる心を奮い立たせ、応戦しようとしたその時。

 どういうわけか、全ての攻撃が関係のないところを狙って放たれた。


 「俺の調律で、全員の五感を狂わせた!! 今のうちに逃げるぞ!!」


 何が起きたのか分からないでいる全員の隙を突き、直樹が佐伯の手を引いて走り始めた。


 「え……!? 直樹……? 何で、あんた……」


 「何でも何もねえよ! お前が正しいと思ったから、こうしたまでだ! それに、俺はお前のマネージャーなんだろ……? 担当アイドルの無茶の責任を取るのが俺の役目だ!」


 「直樹……」


 「それに、俺だけじゃねえよ!」


 走る二人の前に、第二・第三部隊の面々が姿を現した。


 「行きましょう、隊長! ルートは確保しました!!」


 「全く、とんでもないリーダーなんだから……」


 「みんな……!!」


 「よし! 追手が来る前に、逃げ切るぞ!!」


 「「おー!!」」


 こうして、第二・第三部隊はOrpheusから離反し、行方を眩ませるのだった。



 「逃がしてよかったの?」


 その光景を舞台上から傍観していた妃縁が呟く。


 「構わん。やつらがいなくなったところで、戦力的に問題あるまい」


 「戦力の問題じゃなくて、組織的というか気持ち的な話。隊員たち、ぐらつくわよ」


 「そうなったら、人形にでもして利用すればいい」


 陽彩は、彼女に背を向けて壇上から立ち去る。


 「我々の目的は、この世から全ての天霊を消し去ることだ。それが達成できるのであれば、どんな手段も厭わない。そうだろう?」


 「……まあ、そうね。私には関係のないことだったわね」


 そう言って、妃縁もまた、陽彩の後に続き、舞台上から立ち去るのだった。

 その後ろ姿を、輝夜は拳を握りしめながら見つめるのだった。



 この日を境に、Orpheusという組織は大きく変化を遂げた。

 一つ目は、天霊を戦力として投じる禁忌に手を染めたこと。

 二つ目は、第二・第三部隊の全隊員が離反したこと。

 これにより、Orpheusという泥船は、破滅に向かって進み始めるのだった。


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