たとえ怪物になっても
璃空と哭井の戦いが始まる中、灯里とメイリアも激闘を繰り広げていた。
「醜く燃える憎悪の赫翼よ! 空を覆い、世界を穿て!!」
灯里の翼が空を覆い、メイリアに狙いを定める。
「天蓋赫翼!!」
そして、彼女の叫びと同時に、空を覆う翼から放たれた血の刃が、無尽蔵に無軌道に、メイリアに向けて放たれた。
「──その攻撃は、私には届かない」
自身に迫る攻撃を前に、彼女はただ一言、そう呟いた。
次の瞬間、灯里の放った攻撃は、跡形もなく消滅する。
「なっ……!」
「空気は槍に」
彼女の呟きに呼応して、空気は歪み、不可視の槍へと姿を変える。
「槍は弾丸のように、撃ち放たれる」
そしてそれは、銃に装填された弾丸のように、灯里に向けて一斉に放たれた。
「……っ! 赫炎天衣!!」
目に見えない何かが飛来してくることを察知し、どの方向からの攻撃でも対応できるよう、赫く燃えるドレスを身に纏う。
「そのドレスは邪魔ね」
「嘘……」
しかし、メイリアが呟いた直後、ドレスは消滅し、いくつもの弾丸が、灯里を貫いた。
「がはっ……」
まるで世界が彼女の言葉に従っているかのような理不尽な能力の前に、灯里は地面に崩れ落ちた。
灯里は、自分の能力でどうにか出血を抑え、止血を試みるが、身体を貫かれた激痛は決して消えない。
痛みでうずくまり、動けない灯里の元に、メイリアがゆっくりと近づいてくる。
「散々な姿。一日に、二回も死の淵に立たされるなんて、あなた相当不運なのね」
「……そういうあなたは、大分運がいいみたいね。あなたの言ったことが、ことごとく現実になるなんて……本当に業運ね!!」
そう言いながら、灯里は自分の傷口から零れ出た血を利用し、血の槍を彼女に向けて放つ。
「っ! 槍は砕け散る!!」
突然の攻撃に、彼女は少しだけ反応が遅れ、腕に少しだけ傷がついた。
「本当に厄介な能力。……仕方ない。だったら、こうしましょうか」
メイリアは、灯里と距離を取り、彼女に向けて手をかざす。
「──あなたはもう一度、怪物になる」
「……!? あ、がぁ……」
彼女の言葉を耳にした瞬間、灯里の視界が赤く染まっていく。
頭の中に蘇るのは、あの日、家族が殺された時の光景。
すぐ近くには、殺したくてたまらないほど憎い存在。
殺したくて殺したくて憎くて憎くて、狂いそうになるほどの憎悪が、身体の中を満たしていく。
自分は一体、何をやっていたのだろうか。
今すぐ、あの男を殺しに行こう。
この街ごと、殺し尽くしてやる。
「あぁ……ぐ、ぁぁぁ……あああああああああああ!!!!」
赫き翼を広げ、空へ飛び立つ灯里。
何もかも全てを血と炎の海に沈めてやろうと、憎悪に染まった翼を大きく広げた彼女の眼に、星の輝きに似た、閃光が飛び込んできた。
「な、るかみ、くん……」
それは、今も自分に背中を託し、戦い続けている璃空の雷撃だった。
「あ……」
眩く輝く閃光に、押し流されていた自分自身の思考が引き戻されていく。
璃空は、自分の笑顔を守るという誓いを果たしてくれた。
命懸けで、自分を救ってくれた挙句、こんな自分勝手な復讐を勝手に背負って行ってしまった。
そんな愚かで、優しく、愛おしい彼に、自分はまだ何も返せていない。
今度は自分が、璃空を救う番だ。
大切な人を失い、心に傷を負い続けた彼と、ずっと一緒に歩み続けるために。
今は、復讐よりも、優先すべきことがあった。
「わ、タシは……私、は……!」
灯里の心を、強制的に蝕もうとする偽りの憎悪に、刃を突き立てる。
「私は、ずっと永遠に、璃空くんの傍にい続ける……! 何があっても……たとえ、怪物になっても!!」
偽りの憎悪を粉砕すると同時に、もう二度と自分を見失わないために、永遠の誓いを立てる。
そして、深呼吸をした後、メイリアを睨みつける。
「どうして……どうやって私の能力を……!!」
そんな彼女の姿に、メイリアは動揺する。
自身の能力をどのようにして突破したのか、彼女には全く理解できなかった。
「あなたに答える必要はないわ」
当然、灯里も、律儀に答えてやるつもりはなかった。
「赫炎天衣!」
灯里は、赫き翼を広げながら、赫きドレスを再び身に纏った。
「天蓋赫翼!!」
降り注ぐ血の刃と共に、彼女はメイリアの元に、急降下を開始した。
自分に向かって落ちてくる彼女を見て、メイリアはため息をついた。
どんな方法を使ったか知らないが、彼女の能力を突破したかと思えば、先ほどと同じような攻撃。
一体、何を考えているのか知らないが、さっさと彼女を殺して、哭井の元へと向かおう。
「ちっ! その攻撃は──ぐっ、あぁぁぁ!?」
そう考えながら、灯里の攻撃を消そうとしたメイリアの身体に、口も開けないほどの激痛が走る。
そして、次の瞬間、メイリアの身体を食い破るように、いくつもの血の花が炎を灯しながら、開花した。
あの短い攻防の間に、一体、何をされたのか。
「血の花は消滅する!!」
考える前に、この異物を取り除く方が先だと考え、能力を発動する。
だが、その一瞬が致命的な一瞬となった。
自分の蝕む血の花を摘出し終え、降り注ぐ血の刃を消そうとしたメイリアは、地面に着地していた灯里に気が付く。
彼女が手に持つ、炎を灯した血の大剣を見た瞬間、メイリアは、頭上から降り注ぐ血の刃の処理を諦めた。
血の刃が着弾する前に、灯里を殺すしかない。
「空気の槍よ、やつを貫け!!」
メイリアが、世界に命じると同時に、不可視の槍が放たれる。
それと同時に、灯里は走り出した。
攻撃は一切見えていないが、急所だけ守っていれば問題ないと考え、頭と心臓を大剣でガードしながら突き進む。
そうすればきっと、彼女は真っ先にこの大剣から消してくれると踏んでいた。
「まずは、その大剣は邪魔ね」
予想通りの行動をする彼女の先を読み、能力が発動する前に、自分で大剣を消滅させ、体内へと還元する。
「そのドレスも、邪魔ね」
武器さえなくなれば、次に狙うのは防具。
彼女の能力が発動するよりも早く、ドレスを自分の中へと還元する。
そして、彼女は、自分の中に還元させた血を片っ端から霊力へと変換していく。
還元させた血だけではなく、体内に残る血も、霊力に変換していく。
「これで丸裸。あとは、空気の槍に貫かれて、無様に死になさい……!」
攻防ともに奪われてしまった灯里に、メイリアは無慈悲に空気の槍を四方八方から放った。
「──赫星神体」
だが、彼女の攻撃が命中することはなかった。
灯里の呟きの直後、メイリアの視界から、彼女の姿は消えていた。
「っ!? どこに……!」
「遅い!!」
視界から消えた灯里を探そうとするメイリアの背後から、鋭く凛とした、そして致命的な声が響く。
赫星神体は、自身の血を霊力へと還元する技であり、これを利用し、通常の身体強化以上の強化を施すことで、彼女の視界から姿を消したのだった。
そして、ここまで懐に潜り込んでしまえば、彼女が言葉を発するよりも早く、灯里の攻撃が放たれる。
「赫炎流星!!」
灯里は、血と炎を拳に纏わせ、怒りや殺意、憎悪など色々な思いを込め、渾身の力でメイリアにぶつけた。
その一撃は、彼女の骨と内臓を粉砕し、彼女の身体を空高く撃ちあげる。
宙を舞う彼女の身体には、降り注ぐ血の刃が突き刺さっていく。
そして、力なく落ちてきた彼女の身体を、灯里は、思い切り地面に殴りつけた。
地面に大きなクレータを作り、完全に意識を失った彼女の姿を前に、灯里は、満面の笑みで、こう呟いた。
「はぁ―……スッキリしたぁ!!」
こうして、灯里とメイリアの戦いは決着が着いたのだった。




