四神穿螺
四神穿螺。
彼は、生まれながらにして天霊だったという、極めて稀な出自を持っていた。
さらに、その能力も非常に強力で、世界を滅ぼしかねないほど凶悪なものだった。
そんな力を持って生まれれば、人は当然、その力を振るってしまう。
気に入らない事象を、人間を、幾度となく否定してきた。
その結果、彼は、自分こそが最強、唯一絶対の神だと確信するようになった。
傲岸不遜な振る舞いの元に、多くの異能者と天霊を消し去り、血濡れの道を歩き続けた四神。
しかし、ある日。彼はその歩みを止めることとなる。
「──神霊、だと……?」
彼は、唐突に、自分が神などではなく、神に至る道半ばであることを知ってしまう。
ふざけるなという怒りと共に、自分であれば、神霊になれて当然であるという絶対の自信があった。
そして、彼は、神霊についての研究を続けている一人の女性の元を尋ねた。
名を、氷室千咲。
四神は「自分を神霊にしろ」と、恫喝に近い依頼を彼女に押し付けようとした。
しかし、彼女はその依頼を口にする前に、彼にある事実を突きつけた。
「神霊になる方法はない。今この世界にある情報は、誰かがわざとらしく漏らした神霊のさわりの部分だけ。神霊になりたければ、一から創り上げるしかないの」
つまり、と言いながら彼女は立ち上がり、四神の胸倉を掴んだ。
「あんたは、私を脅せる立場にないってわけ。あんたに出来ることは、私の実験体になる代わりに、私の要求を呑むこと。それでいいなら、やってあげる」
その腕を握り潰すほどの力で、四神が彼女の腕を掴んだ。
「御託は良いから、さっさとやれ。てめえの出す条件なんざ、いくらでも吞んでやる。だが、半端な仕事をしやがったら、確実にお前を消す」
こうして、世界で最も凶悪な交渉が成立し、四神は千咲の神霊実験のプロトタイプとなった。
また、彼女の提示した条件を満たすために、優秀で救いようのない天霊たちを集め続けた結果、いつしか最低最悪の天霊集団「セブンス」となっていた。
彼の能力は、神霊となったことで、宇宙創成に至るまでの全てを否定し、新たな世界を創り出す『万象否定・理外法則(キリング・オール/アビス・ルーラー)』と呼ばれる能力へと進化した。
その力を使い、現在の世界を否定し、絶対唯一の神として、君臨することが彼の目的だった。
しかし、神霊としての力は不完全であり、発動までには多大な時間を有し、一度発動してしまえば、再発動までにはまたしても膨大な時間がかかるという欠陥品だった。
四神にとってはそれで十分だった。
神霊となった自分を止めることなど、誰にもできないのだから。
そして、神霊となり、世界を否定しようとした彼は、今まさに世界から否定され、消失しようとしている。
彼を傲慢たらしめていた絶対無敵の能力を真正面から打ち砕かれ、何の抵抗も出来ず切り捨てられた。
「ち、くしょう……」
最強にも、唯一神にもなれなかった、哀れな男の呟きは、誰の耳にも届かなかった。
世界から否定された男は、ただ静かに、この世界から消滅したのだった。
◇
「あぁ~! 疲れたぁぁ~!!」
四神の消失を見届けた甘音は、力なく地面に崩れ落ちた。
無茶な自己変換に、膨大な霊力行使。
何より、天霊ではなく、神霊に至ってしまったことが、彼女の身体を限界に追い詰めていた。
もはや一歩たりとも動けないほどの疲労と激痛。
しかし、まだこの街での戦いは終わっていない。
少なくとも、戦況が動き続けている戦場が二か所。
うち一か所は、間違いなく、この天霊都市での戦いに終止符を打つ戦いであった。
「だとしたら、まだ寝るわけにはいかないよね……!」
彼女は、動かない身体に鞭を打ち、立ち上がる。
「まずは、はぐれちゃった鏡夜君と合流しないと……。死んでませんようにっ!」
縁起でもないこと言いながら歩き出した甘音。
数分後、戦っていたはずの敵を背負って現れた鏡夜を見て、爆笑する彼女の姿があったとか、なかったとか。




