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リバース・ジョーカー  作者: ぱんどら
第3章 赤夜の夢と天霊都市

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深淵翔ける龍星

 ──神霊。

 異能者に始まり、天霊を超えた先にある、人類の到達点。

 それと同時に、歴史上のどの地点においても、彼らの痕跡を見つけることは出来なかった。

 痕跡を残さなかったのか、誰かに消されたのかは定かではないが、とにかく彼らを知る術はない。

 もし、現代でその存在を知るものがいるとすれば、それは誰かが命からがらに残した情報を見つけたか、あるいは、生き残り隠れた神霊がその情報を伝えているかではないだろうか。

 何にせよ、どのような形であれ、神霊が現代に顕現すれば、世界の破滅は免れない。

 何故なら──。



 「──我が名は、四神穿螺。“神霊”四神穿螺だ」


 圧倒的な霊力と共に、顕現した四神。

 存在するだけで、世界が悲鳴を上げる状況に、甘音は苦笑いを浮かべた。

 神霊が何かなど知ったことではないが、種としてのステージが違うということはすぐに理解できた。


 「……えい」


 とりあえず、神霊と自称する存在のスペックを把握するために、手元にあった瓦礫を放り投げてみる。

 しかし、瓦礫は四神に届く前に、漂う霊力に圧し潰されて、粉砕された。

 空間が歪むほどの高密度の霊力は、あらゆる攻撃をねじ伏せる強固な盾となっていた。


 「まあ、ここまでは予想通りとして……」


 甘音は、彼が纏う霊力を、雷撃へと変換しようとする。


 「無駄だ。俺は、世界の変化を、否定する」


 彼が放った一言で、雷撃へと変化しかけていた霊力が元に戻る。

 ただの一言で、甘音の能力による世界の変換が否定されたのだ。


 「うわ……どうしよう……」


 その光景を目の当たりにした彼女は、神霊となった四神の力を理解した。

 世界が悲鳴を上げるほどの霊力放出と世界全土、もしくはそれ以上に効果範囲が拡大された異能。

 それこそが、神霊の持つ力であると彼女は推測した。


 「さて、少し予定は狂ったが、ここで俺の目的を達成するとしよう」


 四神に勝つ手段を模索している甘音のことなど、もはや眼中にない彼は、自身の目的を達成するため動き出す。

 空間の歪みはと共に黒き四枚羽が広がり、世界そのものを捻じ曲げるように覆い尽くしていく。


 「この世界に……いや、この宇宙に、神は俺一人で十分」


 彼の悪意に呼応するように、世界を覆い尽くすほどの歪み捻じれた霊力が、激しく脈打つ。


 「っ! まさか、こいつ……!」


 彼の狙いに甘音が気が付いた瞬間、霊力に耐え切れなくなった世界がひび割れる。

 そして、そのひび割れを黒い十字架が貫く。


 「だったら、宇宙創成に至るまでの何もかもを否定しつくして、新しい世界を創らないといけないよなぁ」


 四神は、唯一神になるために、この世界どころか、宇宙創成に至る全てを否定しようとしていた。

 このままでは、自分や仲間だけではなく、世界そのものが消失。

 後に残るのは、唯一の神となった四神と、彼のためだけの世界。


 「そんな世界、絶対つまんないじゃん……!」


 甘音は、彼の生み出そうとする新たな世界を、彼のためだけの理を否定すべく立ち上がる。

 しかし、そのためには、あまり時間が残されていないことを、彼女は悟っていた。

 世界の否定は、間違いなく甘音にも影響を及ぼし、彼女の身体にも、薄っすらとひびが入り始めていた。

 加えて、彼を倒しただけでは、この否定は止まらない可能性もある。

 であれば、彼女がすべきことは、迅速に四神を倒し、かつ、この否定を否定することである。

 そして、幸か不幸か、その手段が甘音にはあった。

 大きく深呼吸をし、彼女は刀を持つ腕を大きく掲げた。


 「天霊モード、解放──!!」


 彼女の叫びに呼応し、彼女の手の甲に、天霊特有の痣が浮かび上がった。

 甘音璃々という女性は、その恵まれた才能により、自由自在に異能者状態と天霊状態を切り替えることが出来る人物だった。

 そして、全霊力を用いて、強化された能力を使用する。


 「ふん。羽虫が何をしようと無駄だ。お前の能力による変換は否定した。どう足掻いても、俺に刃を突き立てることはかなわ──」


 「誰も! あんたに! 刃を突き立てるなんて! 言ってないってのぉ!!」


 増大した霊力に気がついた四神が、甘音を一瞥し、何をしても無駄だと警告しようとする。

 しかし、彼女がその世界を変える刃を向けようとしていたのは、四神ではなかった。


 「さっき、あんたは確かに言った。世界の変換を否定するって。……だったら、あたし自身を変換することは出来るはず!」


 「まさか、貴様──!」


 「『界変神刃プレアデス』!!」


 甘音の行おうとしていることに勘づいた四神は、神霊になって初めて、彼女を迎撃しようと試みる。

 だが、それよりも早く、彼女は、全霊力を込め、刃に乗せた能力を、自分自身へと突き刺した。

 溢れ出る霊力が、四神の放った霊力とぶつかり、周囲の物体を破壊しながら弾ける。


 「──どうやら、あたしの読み勝ちみたいね」


 しばらくの静寂の後、土煙の中から、強く凛とした声が響いた。

 大剣で空を切り裂き、現れし甘音。

 その背には、薄桃色の大剣が六本浮かび上がっていた。


 「てめえ……やりやがったな……!!」


 四神は、彼女に明確な殺意と敵意を苛立ちとともに向ける。

 その苛立ちの理由が何であるか、四神の本能は理解していた。


 ──同族嫌悪。


 霊力の規模こそ四神には及ばないが、彼女は自分自身を目の前のモデルケースへと変換した。

 すなわち、“天霊”状態を“神霊”状態へと変換したのだ。


 「ははっ。ははははははははは!! 滅茶苦茶な女だぜ、てめえはよぉ!! だが、その滅茶苦茶をやらかしたせいで、肝心の霊力が空っぽみてえだな!」


 しかし、四神の指摘通り、無茶な自己変換の影響で、甘音の霊力は底をついていた。


 「確かにその通り。──でも、そんな絶望的な状況をひっくり返せるから、神霊なんでしょ?」


 「何……?」


 甘音は、不敵に笑い、大剣を天に掲げる。

 その剣に追随して、彼女の背後の六剣が、彼女を中心とした空間に突き刺さった。


 「『界変神刃・七星天愛プレアデス・ラブロンド』」


 そして、六剣で囲まれた空間が桃色に輝き、その輝きは掲げられた大剣に呑み込まれていく。


 「──っ!? 馬鹿な! それは、否定したはずだ……! 世界の変換は、否定したはずだぞ……!!」


 その光景に、四神は声を荒げる。

 四神の能力で、世界の変換は否定され、甘音の能力で物質の変換をすることは出来ないはずだった。

 だというのに、彼女は周囲の空間そのものを、霊力へと変換してみせた。

 一体どんな手品を使ったというのか。


 「だったら、その否定された空間ごと、あたしの霊力に変換すればいいだけの話でしょ」


 「なっ……」


 何も理解できていない四神に、彼女は真顔でそう言い放った。

 四神の姿を見た彼女は、それぐらい簡単にやってのけるのが神霊ではないのかと、本気で思っていた。

 そして、それを実行できる才能を、彼女は有していた。

 自分こそが最凶だと自負する四神の前に突如現れた、本物の天才。


 「──だったら、まずはお前の存在から否定してくれる……!! この世界に、最強は俺一人!!」


 完全に標的を甘音に絞った四神。

 宇宙創成まで否定できるほどの負の力の奔流を一身に受ける甘音。

 その中で、彼女はニヤリと笑った。


 「最強とか、神とか、心底興味ないけど──」


 あと数秒で自分が消滅するという確信。


 「恋も愛も謳歌できない、クソつまらない世界を創り出そうとするあんたの方こそ、ここで消えろ──!!」


 だが、同時に四神を仕留めるのに、一秒もいらないという絶対の自信。

 彼女が変換した空間は、世界の否定、存在の否定全てを、甘音の霊力へ変換するというもの。

 向けられた否定を片っ端から霊力に変換し、その全てを身体強化へと回していく。

 そして、刀を構えると同時に、地面を蹴り壊し、四神の元へ一直線に駆け抜ける。

 刃に乗せるは、否定された世界を変換するための空間の種。


 「消えろ、女ぁ!!」


 「甘音流剣術、一の星『龍星りゅうせい』」


 すなわち、「四神が世界を否定した」のではなく、「世界が四神を否定した」と変換してしまう空間である。

 空を翔ける星のように、全てを喰らいつくす龍の如く、瞬きの間に駆け抜けた甘音は、怨嗟の念を吐く四神を切り裂いた。

 地に落ち崩れ落ちる彼に追い打ちをかけるように、彼女の刃に込められた変換が発動する。

 世界に向けられていた否定が、全て四神に向けられ、傷口から徐々にひび割れ壊れ始める。


 「ち、くしょう……」


 自身の命の終わりを、命を賭してでも叶えたかった野望の終わりを悟り、彼は声を枯らし呟く。

 その呟きは誰の耳にも届かない。

 崩れ壊れていく四神を、叶わぬ夢を追い続けた男の終わりを、甘音は静かに見つめるのだった。


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