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リバース・ジョーカー  作者: 遥華 彼方
第3章 赤夜の夢と天霊都市
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白蓮鏡夜

 白蓮鏡夜の両親は、彼が物心ついた頃には他界していた。

 彼に残された唯一の肉親は、妹の鏡華きょうかだけであった。

 それ以外にもいることに入るが、鏡夜は彼らと同じ一族でいたいとは思わなかった。

 理由は至極単純で、白蓮という家は『天霊至上主義』の家だった。

 天霊でないものに、生きる権利はない。

 そんな一族の人間でいることが、鏡夜には嫌悪感があった。

 しかし、幼い二人が生きていくために、彼らの援助を受けるしかないことも分かっていた。


 「──鏡華。大きくなったら、ここを出て、二人で一緒に暮らそう」


 「……うん! 二人で一緒に暮らす!!」


 幼い二人は、いつかこの家から抜け出そうと約束を交わした。

 ──その約束は、思わぬ形で叶えられることとなる。

 それは、鏡夜が小学生の時の話である。

 家に帰ってきた鏡夜は、違和感を感じる。


 「うっ……何だ、これ……」


 敷地を跨いだ瞬間に、吐き気がするほどの強力な霊力が鏡夜を襲う。

 気持ち悪さを堪えながら、玄関を開ける。


 「ただいま……」


 呻くように零した声。

 いつもはその声に反応して、鏡華が一目散に出迎えてくれる。


 「……鏡華? いないのか……」

 

 だが、いつまで経っても、鏡華が現れることはなかった。

 帰ってきていないのかと考えたが、靴はあるし、部屋に荷物も置かれていた。

 

 「鏡華……!! どこにいるんだ、鏡華!!」


 屋敷中を見て回るが、鏡華はどこにもいない。


 「──探し物か、鏡夜?」


 「っ!! 白蓮、鏡迅きょうじん……!!」


 そんな鏡夜の背後に、亡霊のような風が吹く。

 そこに立っていたのは、鏡夜たちの祖父にして、白蓮家当主・白蓮鏡迅だった。

 祖父とは思えない外見や、彼の持つ思想の全てに至るまでが、嫌悪の対象だった。


 「鏡華はどこだ……!!」


 「そんなに怒るな。今すぐに会わせてやろう」


 鏡迅は、屋敷の奥へと歩いていく。

 その背中を睨みつけながら、鏡夜も後ろをついていく。

 当主にのみ立ち入りを許された部屋を抜けた先。

 小さく長い階段を下りた鏡夜の視界に映ったのは、白蓮家の人間たち。

 そして、それらに崇め奉られるように、鏡華が磔にされた状態で眠っていた。


 「な、んだよ……これ……」


 「何だ、も何もない。鏡華は、真に白蓮家の人間へと生まれ変わったのだ」


 鏡迅の言葉に、集っていた白蓮の人間は歓声を上げ、拍手をする。

 気持ちの悪い声と音が反響し、おぞましくうねった霊力の中に鏡夜の意識は溺れていく。

 その耳に、悍ましい歓声は聞こえない。

 その眼に、醜い人間たちは映らない。

 聞こえる声は、鏡華の弱弱しい呼吸だけ。

 見えるのは、髪の色が翡翠色に変わり、身体中に翡翠色の紋様が浮かび上がった妹の姿だけ。


 「感謝しろ、鏡夜。お前の妹を天霊にするために、我々の霊力を分けてやったのだ。まあ、過剰な投与と消費を繰り返させたから、しばらくは目を覚まさんだろうがな」


 次はお前の番だとでも言うように、誰かが鏡夜の腕を掴もうとした。


 「え……?」


 その腕は、鏡夜の腕を掴む前に、地面に転がった。

 鏡夜は、男が悲鳴を上げるよりも早く、男の首を落とす。


 「なっ……! 血迷ったか、鏡夜!!」


 その鏡夜の行動に驚いた別の人間が、鏡夜を取り押さえようとする。


 「──死ね」


 それよりも早く、鏡夜はその男ごと、周りの人間を風で切り裂いた。


 「ほう。貴様ごときが、我ら白蓮家を相手取るつもりか?」


 鏡迅は、鏡夜の行動を嘲笑う。

 その声も、鏡夜には届かなかった。

 彼の怒りを表すように吹き荒れる暴風。

 殺意の風の中心で、鏡夜は、鏡迅ただ一人を睨みつけ、怒号を放つ。


 「ぶっ殺してやる、白蓮鏡迅──!!」


 「ふん。やつを殺せ」


 動き出す鏡夜と白蓮家。

 鏡夜は、向かってく敵を風で切り刻みながら、一目散に鏡華の元へと向かう。

 磔にされていた鏡華を助け出し、彼女を抱きしめる。


 「何もかもぶっ壊してやる!!」


 彼女を取り戻した今、手加減をする必要はどこにもなかった。

 自身の持てる霊力だけでなく、辺り一帯の霊子を無理矢理に全て取り込み、極大の暴風を発生させる。

 それは、地下にいた全員を切り刻むだけではなく、白蓮の敷地全てを跡形もなく粉砕した。


 「はぁ……はぁ……」


 返り血を浴び、赤に染まった鏡夜は、限界を超えた力の行使に膝をつく。


 「ふふふ。はははははははは! 思わぬ収穫、嬉しい誤算だぞ、鏡夜ぁ!!」


 しかし、鏡夜の耳には、聞きたくもない、醜く悍ましい声が響き渡る。


 「白蓮鏡迅……!! どこだ、どこにいる!!」


 鏡迅の姿を探すが、既に霊力の反応はなく、声だけを風に乗せているのだと勘付く。


 「──また、会おう。鏡夜」


 「絶対に逃がさない……! 必ずお前を見つけ出して、殺してやる……!!」


 もうこの場から消えた鏡迅に向かって叫ぶ鏡夜。

 静けさに包まれた地下で、鏡夜は空を見上げて呟く。


 「……逃げないと。ここから、早く、逃げるんだ」


 力が入らない身体を無理矢理に動かし、天霊と化した一人の少年は、廃墟となった場所を後にした。


 白蓮本家崩壊からしばらく経ったある日。

 薄暗い廃墟で、鏡夜は一人の男と密会していた。


 「──それで、本当に鏡華は助かるのか?」


 「厳密にいえば、助かるとは違う。うちのメンバーの能力を使えば、天霊化を強引に押さえつけることが出来るってだけだ。あくまで応急処置でしかない」


 男の名前は、三崎空理。

 鏡夜の能力に目を付けた彼は、鏡夜をメンバーに引き入れようとしていた。

 その条件として、鏡夜が提示したのは、当然、鏡華を救うことだけだった。


 「……それでも構わない。鏡華を救えるなら何でもいい。頼む」


 「それは、俺たちの仲間になるってことでいいんだな」


 「ああ。俺のことは好きに使え。その代わり、鏡華に何かすれば、お前たちを殺す」


 「好きにしろ、クソガキ。行くぞ」


 拠点に辿り着いた鏡夜は、筒乃守深雪と引き合わされる。

 彼女の能力を利用し、鏡夜と鏡華の霊力を繋げ、鏡夜の霊力で、強引に強化の霊力を抑え込む。

 それが、鏡華を一時的に救う方法だった。

 自分の力の一部を封じられるという代償があると言われたが、鏡夜にとって、そんなものは代償にもならなかった。

 こうして、鏡夜はゾディアックに加入することとなった。

 鏡華を救う方法を探し、鏡迅をその手で殺すために。



 「あれ? もう終わり?」


 動かなくなった鏡夜に、ルクスリアは残念そうな表情を浮かべる。


 「……まあいいや。それなら、ここで終わっちゃいなよ」


 彼女はつまらなそうに、空を弾いた。

 大気の弾丸に弾き飛ばされた鏡夜は、建物から落とされた。

 このままでは、自分の生み出した風の洞へと真っ逆さまに落ちてしまう。


 「──っ!」


 しかし、すんでのところで意識を取り戻した鏡夜は、風を巻き起こすことで、無理矢理に別の建物の上に転がった。


 「何だ。生きてたなら言ってよ。死んだかと思った」


 「そ、んな……簡単に、死ねる、かよ……!」


 ごぼっと血反吐を吐きながら、風の糸で自分の身体を無理矢理に起こす。


 「威勢や虚勢も結構だけれど、そんな状態で何が出来るの?」


 「──お前を倒すことが出来る」


 傷だらけの鏡夜は、彼女の冷たい言葉を叩き伏せる。

 ゆっくりと立ち上がる鏡夜の周りに、風が吹き荒れる。

 まるで、鏡夜に呼ばれているように。


 「……へぇ。ここからが本気ってわけだ」


 ルクスリアは、髪の一部が翡翠色に染まり、風を纏う鏡夜の様子を見て、ニヤリと笑う。


 「ああ。俺の全力をもって、お前を殺すぜ。アンスリウム・ルクスリア……!!」

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