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リバース・ジョーカー  作者: 遥華 彼方
第3章 赤夜の夢と天霊都市
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天霊都市最終戦Ⅱ

 天霊都市の建物から建物へと飛び移る影が一つ。

 荒れ狂う風を纏いながら、白蓮鏡夜は敵から距離を取り、体勢を立て直す。


 「くそっ! 次から次へと……!!」


 弱音をこぼす鏡夜を仕留めようと、複数の天霊たちが、彼のいる建物に向かってくる。

 それを風の刃で切り裂き、遠くの建物にいる敵を睨んだ。


 「随分遠くまで行っちゃったけど、さっきまでの威勢はどうしたの?」


 セブンスの色欲、ルクスリアは屋上の淵に座り、つまらなさそうに鏡夜の奮闘を見つめていた。

 戦いが始まってから、彼女はその場から一歩も動いていない。

 彼女は鏡夜を殺せと自身の駒に命じただけ。

 たったそれだけで、鏡夜はルクスリアに圧倒されていた。

 しかし、それも長くは続かないだろうと鏡夜は考えていた。

 彼女の能力は、他人を操るものだろう。

 どういう条件が必要なのかは分からなかったが、現在の彼女の駒は、天霊都市の住人達であることは容易に想像できた。

 その状態では、ルクスリアの元に辿り着く前に殺されるのは目に見えていた。

 加えて、彼女はやろうと思えば、いつでも鏡夜のことも操ることができる。

 そうなった時に、雑兵がいるのといないのとでは大きく違ってくる。

 そのために、鏡夜は逃げ回りながら、彼女の駒を確実に削っていった。

 もはや、彼女を守る兵という盾はないも同然。

 仕掛けるならここだと考えた鏡夜は、勝負に出る。


 「檻穽風洞かんせいふうどう!!」


 周りに味方がいないことを確認し、自分とルクスリアを隔離するように、触れたもの全てを切り刻む風の檻を作り上げる。

 そして、間髪入れずに、次の行動に移る。

 風の矢を何発か打ち出し、近くの建物を粉砕する。

 建物の破片や砂埃が、風に巻き上げられる。


 「退路を断つ。視界を塞ぐ。なら、次にやることは──」


 ルクスリアはゆっくりと立ち上がり、背後に向けて銃を構える。


 「奇襲、でしょ?」


 「──ああ、正解だ」


 そこには、風の爪を今にも振り下ろそうとする鏡夜が立っていた。


 「でも、残念。君はそこから動けない」


 「……っ!?」


 しかし、それよりも早く、彼女の言葉が鏡夜の身体を支配した。

 指先は愚か、血管や細胞、鏡夜を構成する何もかもが動かせなかった。


 「君は、どこにいたって私の掌の上だって気が付かなかった? 君に能力をかけなかったのは私の気まぐれだって、1ミリも疑わなかったの?」


 彼女は、動けない鏡夜の身体に優しく触れ、静かに囁く。


 「まあ、君のその悔しそうな顔が見れたから、私の顔を傷つけようとした無礼は許してあげる」


 そう言いながら、ルクスリアは鏡夜の眉間に銃口を突きつける。


 「何か言い残すことがあるなら、聞いてあげるけど?」


 「……お前の言ったことぐらい考えてたさ。お前こそ、俺が無策でここまで近づいてきたなんて、思ってるわけじゃないよな?」


 「威勢がいいのは結構だけれど、今のあなたに何が出来るの?」


 「確かに、今の俺には何もできないな。口を動かすので精一杯だ。──でも、それで十分」


 何かを企んでいる鏡夜の表情に、ルクスリアは早く目の前の男を殺さなければと、引き金を引こうとする。


 「遅い。──風洞開門!」


 それよりも早く、鏡夜が口を開いた。

 その瞬間、建物が大きく傾き、彼女は体勢を崩す。


 「っ!? 何……!?」


 何が起きたのか理解できない彼女は、周囲を確認する。

 すると、彼女の眼下に、全てを粉砕し、呑み込もうとする風の洞があった。

 さっさと別の建物に乗り移ろうとする彼女の身体に、強烈な蹴りが炸裂する。

 肺の中の空気を吐き出しながら、上を見上げた彼女の目に映ったもの。

 それは、風の騎士が吊るす糸に括りつけられた人形のような鏡夜だった。

 身体を動かせないのであれば、外部から無理矢理に動かせばいい。

 そう考えた鏡夜は、彼女に近づく前に風の糸を身体に括りつけていた。

 そして、操られた体を無理矢理動かして、彼女を攻撃した。

 驚くルクスリアは、鏡夜に何かを言おうとしたが、その前に、彼女は風の洞に真っ逆さまに落ちていった。

 その様子を見届けて、鏡夜は別の建物の上に飛び移り、崩れ落ちる。

 動かない身体を無理矢理動かした反動か、身体が軋み、悲鳴を上げていた。


 「はぁ……終わったぁ……」


 戦いが終わったことに安堵し、肩の力を抜く鏡夜。


 「……いや、まだ戦いは終わってない」


 そう。あくまで終わったのは鏡夜の戦いである。

 この街での戦いはまだ終わっていなかった。


 「急いで甘音さんの手助けに行かないと」


 一番近くで戦っているであろう甘音の手助けに行くため、風の檻を解除しようとする。


 「……は?」


 しかし、鏡夜が創り出したはずの風の檻は、鏡夜の意志に背くかのように外界との接触を断ち続けていた。

 さらに、檻の中の全てを喰らいつくすように、風の洞がどんどん拡大していく。


 「な、何が……」


 「──どうやら、本当に君のことを過小評価しすぎていたみたいだね」


 自分の能力が自分の意志に逆らう理解不能の状況。

 そんな鏡夜を嘲笑うように、暗い穴の中から心の奥底にまで響く声が聞こえてきた。


 「そして、君も私の能力を過小評価しすぎたみたいだね」


 「う、そだろ……!?」


 ただ呆然と、悪い意夢でも見ているのではないかと思う鏡夜に、全て現実だと突きつけるように彼女は姿を現した。

 その姿は、鏡夜への嫌がらせのように、風の衣を纏い、鏡夜を遥か高みから見下ろしていた。

 彼女は何も言わず、ただ静かに、鏡夜に向かって指を差した。

 指先には、彼女の霊力が集められていく。


 「ばーん」


 そして、その一言と共に、霊力の弾丸が放たれた。

 何が起こっているのかは理解できないが、彼女自身の強さが変わったようには思えなかった。

 現に、放たれた霊力の弾丸も、鏡夜であれば、容易に防ぐことができるものであった。

 風の障壁を展開し、彼女の攻撃を迎え撃とうとする鏡夜。


 「っ! はぁ!?」


 その瞬間、鏡夜の巻き起こす風が霧散し、弾丸が直進してくる。

 驚愕しつつも、避けなければと身体が勝手に動く。

 そんな鏡夜を逃すまいと弾丸は軌道を変え、その脚を抉り貫いた。


 「ぐぁっ……!! な、めるなぁっ!!」


 体勢を崩され、地面を転がりながらも、ルクスリアに向けて、風の弾丸を乱れ撃つ。

 だが、その弾丸も彼女に届く前に霧散した。


 「嘘、だろ……」


 「現実だよ」


 ルクスリアは、鏡夜を現実から逃すまいと、その場で手を叩いた。

 次の瞬間、彼は周囲の大気に挟まれ、叩き潰された。

 地面に倒れそうになる身体を、どうにか支える鏡夜。

 そんな鏡夜で遊ぶように、ルクスリアは目の前の何もない空間を指で弾き続ける。

 その動作に呼応するように弾かれた空気が、鏡夜の身体を打ちのめしていく。

 何度も何度も、徹底的に鏡夜を攻撃し続けた。

 弾かれ続ける身体はボロボロになり、もはや痛みも感じなかった。

 他人を支配するだけのはずの彼女の能力で、どうしてここまで不可解な現象が引き起こされているのか。

 彼女の能力の真価を理解できないまま、ついに鏡夜は地面に崩れ落ちた。


 『──。──!』


 薄れていく意識の中。

 鏡夜は、泣きたくなるくらい懐かしい誰かの声を耳にした気がした。


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