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リバース・ジョーカー  作者: 遥華 彼方
第1章 泣き虫の雷星
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舞台裏で嗤う

 目の前から二人が消えてから数分後。

 少女が能力を解除したのか凝固していた血が溶け出し、奏城は解放される。

 血はそのまま蒸発し、その場には一滴たりとも残ってはいなかった。


 「はあ……はあ……」


 そう、何も残っていなかった。

 憎き人食い鬼の死体も、自分の邪魔をした二人の亡骸も。

 残ったのは哀れな一般人の残骸と、負傷して動けなくなった部下たちだけだった。

 怒りに震える奏城の懐で端末が震える。


 「……何だ」


 「全て見させてもらいましたよ、奏城くーん!! 無様ですねえ~」


 端末越しに聞こえてくる声は、人の神経を逆撫でするような苛立たしげな声だった。

 こういった状況で一番聞きたくない声の持ち主は、奏城の状況を全て見ていたかのように楽しそうに話を進める。

 男の名前は流転哭井るてんこくい。オルフェウス上層部にして、研究・開発機関局長を務めている。


 「人食い鬼を取り逃し、あろうことかあんな少年少女に負けるなど、あってはならないことなのは理解していますかな??」


 「さっさと結論を言え」


 「負けたくせに口だけは達者ですねえ。まあいいでしょう。負傷者を連れて、ただちに本部に帰還して大人しくしていなさい。ではでは~」


 最後まで奏城をコケにしたまま、哭井は連絡を終えた。


 「ああああああああ!!」


 奏城は、持っていた端末を地面に叩きつけてから踏みつぶし、感情のままに壁を殴った。

 拳には血が滲み、ポタポタと地面に落ちていく。

 だが、痛みは感じず、それ以上のどうしようもない怒りが奏城を塗りつぶしていく。

 耳の中では嘲笑う声が響き続け、取り逃がした人食い鬼と邪魔した二人が脳裏に浮かぶ。

 声をかき消すように、奏城は壁に頭を叩きつけた。


 「必ず……必ず殺してやる……!!」


 奏城は震える声で、壁を睨みつけたまま、額から血を流して怨嗟の念を叫ぶのだった。



 「ふーむ。あの狂犬はいつ噛みついて来るか不安で仕方ないですねえ」


 奏城の位置情報が消失したことを画面で確認した哭井は、ため息をつきながらコーヒーをすする。

 その顔はやはりどこかこの状況を楽しんでいるような表情だった。

 哭井は画面を切り替えて、ある映像を確認する。

 それは路地についていた監視カメラが捉えた映像だった。

 戦いの最中に壊れてしまったのか、映像は途切れているが、奏城と戦っていた璃空の姿はしっかりと映っていた。


 「君からの報告だと少女が乱入してきたとのことだが、その子の見た目は分からないのかなあ?」


 哭井は部屋の隅に待機していた、影に声をかける。


 「はい。少女は顔を隠しており、素性を特定することは出来ませんでした」


 その影はゆらりと姿を現した。

 影は、黒のローブと仮面で自身の姿を隠しており、声にもノイズが混じっていた。


 「そっかそっか。まあしょうがないね。──ということは、人食い鬼とこの少年の素性は分かっているということかな~?」


 哭井がニヤリと笑うと、影はゆっくりと動き、一つの封筒を手渡した。

 封筒の中には二枚の書類、「鳴神璃空」と「玉梓悠斗」に関する書類が入っていた。


 「素晴らしいっ!! 君たちは本当にいい仕事をしてくれる!!」


 興奮を隠しきれず立ち上がった哭井は、すぐさま書類に目を通す。

 急いで用意した資料なのか、大雑把な情報しか書かれていなかったが、短時間でこれだけの情報を用意できれば十分である。


 「んん~? おやおや、これは……」


 「どうかなさいましたか?」


 視線だけで紙を破ってしまうのではないかというぐらいの眼力で紙を見ていた哭井が、何かに気が付いたように思案する。

 そして、新しい悪戯を思いついた子供のような笑みを浮かべて顔を上げる。


 「少し調べてきてほしいことがあるんだけどいいかな?」


 「はい。何を調査してまいりましょうか?」


 「鳴神璃空と玉梓悠斗。それと、篠宮(しのみや)さんと関わりのある人物がいないか調べてきてもらっていいかな?」


 「……なぜ彼女も対象に?」


 哭井の指示に影は少しだけ思う所があったのか、質問を返す。

 篠宮とは、Orpheusに所属する異能者の中でも相当実力が高い異能者だ。

 鳴神璃空、玉梓悠斗。この両名と出身校が同じなのは、影も調査の段階で知っていた。

 しかし、何故この三人と関りがある人物を調べようとしているのか分からなかった。


 「まあ、そこは気にしないでいいから。パパっと調べて報告してくれ」


 「……了解しました」


 しかし、彼は自身の思惑を語らず、影に命令を下した。

 影もこれ以上は聞いても答えてくれないことは分かっていたので、大人しく与えられた任務をこなすことにした。


 影が消え、部屋には哭井以外の誰もいなくなった。

 哭井は、残された資料を見ながら、狂ったように笑い始めた。

 もし、自分の想像通りに事が運べば、最高に面白い状況が創り出せる。

 その光景を想像するだけで胸が高鳴り、全細胞が湧きたつのを感じた。


 「さあ!! 楽しくなってきましたねえ!!!」


 悪魔のような男は、Orpheus本拠地で不確定な未来に胸躍らせ、高笑いを続けた。


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