黒と獣の円舞曲
鏡夜が展開した結界の外。
睨み合うのは、最悪の天霊、ブラックアリス。
そして、天霊狩りのエキスパートであるOrpheus第零部隊所属の明星輝夜と篠宮沙織。
一歩も動かず、相手の出方を探る二人の周りを、何者かに支配された天霊たちが蠢く。
徐々に徐々に、彼らはその距離を詰めていく。
一歩、また一歩と天霊たちが近づいてくるが、三人は微動だにしない。
ただひたすらに、その時を待ち続けた。
そして、彼らの凶刃が振り下ろされた瞬間、三人は近づいてきた天霊を殺し、同時に動き出す。
ブラックアリスは手に持っていた銃の引き金を引き、天霊の頭を撃ち抜く。
沙織は、炎を纏わせた霊装で、天霊たちを薙ぎ払う。
その横で、輝夜が手に持っていた霊装を変化させる。
刀は光と共に砕け散り、そこには奇怪な陣形が描かれる。
それを見たブラックアリスは、その陣形の効果を即座に理解し、次の策を実行する。
「さあ、反撃開始だ」
そんなことはさせないと、輝夜が霊装を変化させ、陽炎纏いし弓へと変貌する。
輝夜が、矢を放つのと同時、炎を纏った沙織が、目にも止まらぬ速さで、ブラックアリスに接近してくる。
まるで、炎を纏った弾丸だなと考えながら、ブラックアリスは指を鳴らす。
「っ!! また……!!」
輝夜が放った矢が全弾撃ち落とされた音共に、沙織の前からブラックアリスの姿が消えた。
「……やるな」
その様子を見て、輝夜は自然とブラックアリスを褒めてしまっていた。
輝夜が展開した陣は、陣内にいた者の身体能力と霊力量を、一定時間の間、限界以上に引き上げるものだった。
それを理解していたブラックアリスは、沙織の手の届く範囲に入るような避け方をしなかった。
もし、そんなことをしていれば、沙織に致命的な一撃を与えられていただろう。
全くもって厄介な敵であることを再認識した二人は、輝夜と沙織は、神経を研ぎ澄まし、彼女の攻撃に備える。
吹き荒れる風の結界の後ろから、指の鳴る音が聞こえる。
二人の集中力は限界を超え、辺りの音は何一つ聞こえなくなった。
「──!!」
「──っ!!!」
その瞬間、輝夜の背後からブラックアリスが斬りかかり、沙織の元に弾丸のように何かが突っ込でくる。
それを二人は反射的に防いだ。
「え……」
そして、沙織は驚愕する。
彼女の元に飛び込んできたのは、見たことはないが、情報としては知っている少年、香里杏沙だった。
「やばい状況になったら呼ぶとは言ってたけどよぉ……どんな状況だよ、これ?」
「こいつ……玲那と灯魔の情報にあった……!」
そこにいたのは、かつて、ブラックアリスと共に、玲那と灯魔の前に現れたと報告にあった少年だった。
「見ての通り、最高に面白い状況よ」
「はははっ!! だろうなぁ!!」
遠く離れたブラックアリスの答えに、杏沙は楽しそうに笑って答える。
「さあ、杏沙。この街での戦いが終わるまで、全力で暴れなさい」
「──じゃあ、遠慮なく!!」
彼女の言葉に応じ、杏沙は黒い翼が生えた醜い腕を全力で振るう。
「あ」
その拳の速度は、強化された沙織の動体視力でも追いきれず、本能的に生み出した炎の壁を突き破り、沙織は地面を転がる。
「沙織──っ!」
「余所見なんてさせてあげないわよ?」
「……する気もないさ。こちらも、全力を出させてもらう」
同時に、ブラックアリスと輝夜の、誰も手出しができない戦いも幕を開けた。




