もう一度ここから
「──」
遠く遠く。深い深い闇の中に沈んでいく意識。
それを繋ぎ止めるように、誰かの声が聞こえてきた。
温かく優しい、誰か大切な人の声。
「──くん……! 鳴神、くん……!」
その声に引っ張られるように、璃空の意識は浮上する。
「……玖遠、さん」
「……っ!! バカ……!! 何で……何でこんな無茶したの……!?」
目を覚ました璃空は、胸倉を掴まれ、涙を流す灯里に詰め寄られる。
その様子は、いつも通りの彼女のように見えた。
「あ……えっと……君を救うには、これぐらいしないと伝わらないのかなって……」
「伝わった結果、鳴神くんが死んじゃったら意味ないでしょ……!!」
「……ごめん」
本気の怒りをぶつけてくる灯里に、璃空は何も言えず、謝るしかなかった。
「──あれ? そう言えば、俺の傷……」
涙を流し続ける灯里に対して、バツが悪そうに目を逸らした璃空は、ふと自分の身体に目が行った。
「それも、私聞いてない……」
「ど、どういうこと……?」
「どういうことって……聞きたいのはこっちだよ……!! 傷が勝手に治っていって……私がどれだけ心配したと思ってるの……!!!」
「え……傷が、勝手に……?」
灯里の言葉に、璃空は理解が追い付かずにいた。
あれだけの傷が、勝手に治ったと彼女は言った。
一番近くで見ていた彼女がそう言っているのだから、真実なのだろう。
しかし、璃空にはそんな能力は備わっていない。
「もしかして……」
その代わり、一つだけ心当たりというか、可能性があった。
かつて、璃空は姉である未空の能力を使用できたことがあった。
これが何か関係しているのだとしたら、誰かしらの回復能力を璃空は無意識に行使したのかもしれない。
「でも、だったら誰の……?」
「……どうしたの?」
「あ、いや、何でもない……。心配させて、ごめん……」
心配そうに璃空の顔を覗き込む灯里。
不確定なことを言っても、余計に心配させるだけと考えた璃空は、そのことは黙っておくことにした。
「……生きててくれたから許す」
灯里は、涙を拭いながら、璃空から離れる。
「はぁ……。それで、一番気になること聞いてもいい?」
少し落ち着いた灯里は、璃空に背を向けて、口を開く。
「え、うん」
「……何で、私の言葉を聞いて何も驚かなかったの? 鳴神くんには、まだ私の過去、教えてなかったよね……?」
「あー……えっと、その……。……玖遠さんの妹さんに話を聞いたんだ」
「──」
璃空の言葉に、今度は灯里が言葉を失った。
璃空の口から出てくるはずのない人物に、思考が停止すると同時に、一つの疑問が生まれた。
「……玲那から聞いたなら、きっと私が両親を殺した化け物だって聞いたはずだよね。……それなのに、どうして、私の言葉を全く疑おうともしなかったの……?」
灯里の問いかけに、璃空はポカンとしていた。
「確かに、聞いた時は驚いたけど、それで玖遠さんを疑う理由にはならないだろ? 何か事情があるって、俺は信じてただけだよ」
「……本当に、鳴神くんはバカだね」
璃空の答えに、今度は灯里がポカンとし、そして、クスっと笑った。
「──でも、ありがとう。私のことを、信じてくれて、ありがとう。……璃空くん」
どこまでも純粋に、灯里のことを信じてくれる璃空。
出会って、数か月でしかないのに、ただ自分を救ってくれたから。
交した約束があるからと、真っ直ぐに灯里のことを信じてくれる璃空に、灯里は優しく微笑んだ。
その微笑みに、少しだけ近づいた距離に、璃空は赤面する。
「ふふっ。行こう、鳴神くん……! まだ、戦いは終わってないんだから」
灯里は、地面に座る璃空に手を差し伸べる。
一人きりでの復讐に終わりを告げるため。
二人での復讐を始めるために。
今、ここから、玖遠灯里としての人生をもう一度始めるために。
必死に自分を救おうと手を伸ばし続けてくれた璃空に、灯里は手を伸ばした。
「……うん。行こう……!! 二人で、一緒に!」
その手を、璃空は真っ直ぐな心で、握り返す。
天霊都市での戦いに終止符を打ち、彼女のことを今以上に知るために。
璃空は立ち上がり、灯里と共に、血と炎と悲鳴の戦場へと戻るのだった。




