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リバース・ジョーカー  作者: 遥華 彼方
第3章 赤夜の夢と天霊都市
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すれ違う心

 至る所から戦いの音が響く街の中。

 灯里を背負った璃空は、最高速で駆け抜けていく。

 建物から建物を飛び移り、ものの数分で、街の端までたどり着く。


 「よし……! これで街の外に出られ……っ!!」


 璃空は、そのまま街の外に出ようと、建物から街の外に向かって飛び降りる。

 しかし、璃空の身体は何かに弾かれるように、外に出ることを拒絶される。


 「ぐっ……何だよこれ……!! 壁……?」

 抱きかかえている灯里のことを庇いながら地面に転がった璃空は、街の外に続く道にゆっくりと近づく。

 手を伸ばすと、外に続く道には何か透明な壁のようなものが張り巡らされてた。


 「こんなものこの街に来るときはなかったはず……」


 街に入るときには影響がなく、出ることだけを制限する壁。

 この街の人間の能力か、あるいは第零部隊の誰かしらの能力なのか。

 どちらにしろ、ここから出るにはこの壁を壊すか、この壁を張り巡らせている人間をどうにかするしかない。


 「ん……」


 「っ!! 玖遠さん……!!」


 全ての霊力を込めた一撃で壁を壊そうかと考えていた璃空の耳に、灯里の声が聞こえてくる。

 抱きかかえていた灯里が目を覚ましたのだ。


 「こ、こは……」


 「よかった……ちょっと待ってて。今すぐに安全な場所まで連れて行くから」


 灯里が目を覚ましたことに安心した璃空は、急いでこの街から出ようと拳を握る。

 そんな璃空の腕の中で、灯里は混濁した記憶を整理していく。


 「──」


 そして、自分がどうしてここにいるのか、何が起きたのか、自分が今何をすべきかを思い出す。


 「……いい」


 「え……?」


 だから、壁を壊そうと立ち上がる璃空の身体を突き飛ばして、灯里は立ち上がる。


 「ごめんね。まだ、私にはやるべきことがあるから。安全な場所に行くなら一人で行って」


 そう告げる灯里の瞳には、紅く黒い憎悪と怒りが渦を巻いていた。


 「だ、ダメだ……!! あれだけの傷を負って……今生きているのも奇跡みたいなものなのに、また死に行くのかよ……!! 戻るなら俺も戻る!」


 璃空は、灯里を一人で行かせまいと、彼女の手を握ろうとする。


 「邪魔しないで……!!」


 その手を灯里は振り払う。

 今までの彼女からは想像できない行動に、璃空は言葉を失う。


 「これは私の復讐なの。誰の力も借りない、私だけの復讐。あいつだけは、私がこの手で殺さないといけないの。……鳴神くんには分かるでしょ? もし、ここに君のお姉さんを殺した敵がいたら、君はきっと私と同じことをする」


 「そ、それは……」


 灯里の放った言葉に、璃空は何も返せなかった。

 確かに、この場に未空を殺した男が現れたら、璃空は灯里と同じ行動を取ってしまうだろう。


 「……ほら。そんなことしない、って言えないでしょ」


 「……それでも。それでも、俺は君に行ってほしくないんだ。玖遠さんが死ぬところなんて見たくないんだ……!!」


 灯里の突き放した態度に、璃空は離すまいと食らいつく。

 そうしなければ、灯里はまたしても殺されてしまう。

 彼女は、それでもいいと言うのだろうが、璃空には受け入れらない話だった。

 もう誰も、大事な人を失いたくないから。


 「だったら!! ここから消えればいいでしょ!? 私は、私の復讐を成し遂げる。お父さんと、お母さんを殺した、多くの人の運命を歪めたあの男を私は絶対に許せない。……その邪魔をするなら、例え誰であろうと容赦はしない」


 璃空の言葉に、灯里は怒りを露わにする。

 憎悪と怒りにまみれた天霊としての姿を解放してしまった灯里には、もう踏みとどまるという選択肢を選ぶことが出来なかった。

 復讐を終えるまで、何度翼をもがれようが、何度この命を奪われようが止まることは出来ない。

 それが、玖遠灯里という少女の在り方なのだ。

 にこやかな笑顔の仮面の下に、煮えたぎるような負の感情を隠し続けていたのが玖遠灯里だった。

 復讐こそが彼女の生きてきた理由であり。これから先を生きる理由だった。

 彼女の人生には復讐しかないのだ。


 「だから、私のことは放っておいて。……さようなら、鳴神くん」


 灯里は、どこか悲しそうにそう呟いて、紅き血の羽根を出現させる。


 「玖遠さん……」


 その背中を見て、璃空は悩んでいた。

 このまま、彼女を戦場に戻してしまっていいのだろうか。

 またさっきと同じことを繰り返すだけなのではないか。

 仮に、復讐を成し遂げたとして、その先に、彼女は笑顔で生きていけるのだろうか。

 どれだけ悩んでも、すぐに答えは出ない。

 でも、このまま行かせるなんて選択肢は璃空にはなかった。


 「やっぱり……俺は、君を一人で行かせたくない……!!」


 だから、今にも飛び立とうとする灯里の腕を、璃空はしっかりと掴んだ。


 「──そっか。どうしても、私の邪魔をしたいんだね」


 「……っ!! があぁぁぁっ!!!」


 灯里の小さな呟きと同時に、何故か璃空の右の視界が暗闇に呑まれる。

 遅れて、右目に鋭い痛みが走る。

 地面には血の涙が零れ落ち、切り裂かれた眼鏡が落ちる。

 何が起きたのか理解できずに灯里の方を見ると、灯里が紅く禍々しい血の剣を手に持っていた。


 「言ったよね……? 私の邪魔をするなら、誰であろうと容赦しないって」


 「く、玖遠さん……」


 「私は、君を殺して、あの男を殺しに行く。引き下がるなら今だけだよ」


 「……ごめん。それでも俺は、玖遠さんを一人で行かせたくないんだ……!!」


 灯里の最後通告にも等しい問い。

 璃空は拳を握り、憎悪に染まった彼女の眼を見て、それに答える。


 「──そっか。じゃあ、殺すね?」


 璃空の答えに頷き、灯里は血の翼を広げるのと同時に、血で創り出した無数の剣を宙に浮かべる。


 「絶対に、止めてみせる」


 復讐を成し遂げるため、約束を守るため。

 相反する二人は、激突するのだった。


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