光・桜・星
「光あれ!!」
ガハットが叫び声を上げると、彼の背後に光の球が六個浮かび上がる。
そこから、灯里と和希に向かって、独特の軌道で、光が放たれる。
避けることは難しいと判断した灯里は、腕を切り裂き、噴き出た血を固め、盾とした。
一方で、横にいた和希は、自身の能力を使い、その場から姿を消した。
「ガハット!!」
「は……? マジかよ!」
一瞬で背後に回り、ガハットを貫こうとする和希。
その存在に気が付いたマオミルは驚き叫びながら、彼女に向けて銃を構える。
灯里の元に駆け寄っていったスピカも、驚きに足を止めてしまう。
その隙に、灯里は盾に空いた穴から、血の弾丸をマオミルに向けて撃ち放つ。
「っ!!」
引き金が引かれる瞬間、血の弾丸は銃に当たり、弾丸の軌道が逸れる。
「……眩しいな」
「……滅多に見れない光だぜ。ありがたく思っときな」
ぶつかり合う和希とガハット。
ガハットの身体はひび割れ、そこからは眩い光が漏れ出していた。
彼の持っていた鉄の棒は、いつの間にか光を纏い、輝く槍と化していた。
和希の持つ剣は、光の持つ熱量に焼かれ、赤く熱を持っていた。
「ぶった切る!!」
そのまま和希の持っていた剣は、簡単に焼き切られ、その穂先が和希に迫る。
しかし、またも和希は転移し、今度はマオミルの正面に現れる。
「う、そ……」
「撃て、マオミル!!」
仲間の危機に、ガハットは叫びながら、いくつもの光の刃を放つ。
「くそ! 間に合え!!」
同時に、灯里の方に向かっていたスピカも、マオミルを守ろうと駆け寄ろうとする。
「あなたの相手は私でしょ?」
「なっ!? 何だよこれ! 動けねえ……!!」
そんなスピカを逃がすまいと、灯里は盾の形を変え、スピカの身体を絡めとる茨へと変化する。
凝固した血の茨は、スピカを完全に捉え、その場に拘束した。
どうにか逃れようと暴れるスピカだったが、堅牢な血の拘束から逃れることは出来なかった。
「……仕方ない、か」
スピカは、暴れることを止め、何かを決意したように静かに目を閉じた。
「──我が名と同じ名を授かりし、春の夜の星よ。我が願いに応じ、我に力を与えたまえ!!!」
その言葉に答えるかのように、空から一条の光が降り注ぐ。
青白い光の柱に呑まれたスピカの霊力は、異常なまでに跳ね上がる。
「うおおおおおお!!」
叫び声と共に、スピカは拘束を抜け出し、移動の軌跡だけ残して、和希に拳を向ける。
しかし、そこにあったのは自分の拳に向かってくる剣だった。
「は……? ぐっ、あああああ!!!」
避けることは出来ず、剣は真っ直ぐにスピカの腕を貫いた。
さらに、ガハットが放った光の刃も、全て地面を抉っただけだった。
あまりの痛みに膝をつくスピカ。
自身の腕から流れた血が、地面に赤い水たまりを作っていく。
そこに自分の顔が映った時、痛みとは別の奇妙な感覚が浮かび上がった。
「(あれ……? 俺、こんなに出血してたっけ……)」
確かに、右腕は使い物にならなくなったし、出血もひどい。
しかし、それにしても多すぎないか、と疑問に思うほどの血が、スピカの眼前に広がっていた。
「……!! まさか……!?」
スピカは、一つの結論に辿り着くと同時に、急いでその場から離れようとする。
「──残念。一歩遅かったね」
そんな彼の背後に回り込んでいた灯里は、驚くスピカの背中を手で押す。
完全にバランスの崩れていたスピカは、その優しい力に抗うことが出来ず、血だまりの中に落ちていく。
自分を串刺しにするために用意された針の筵の中へと。
「がっ……!」
全身を貫かれたスピカは、四肢をだらりと下げ、意識を失った。
「はあ……」
その様子を見て、灯里はため息をつきながら、自分を今にも殺そうとしているガハットに向けて指をさした。
灯里の動作に目もくれず、ガハットは灯里を殺すために、光の刃を放とうとする。
「後ろ。気を付けた方がいいよ」
彼女の言葉に構わず、攻撃を放とうとするガハット。
その瞬間、彼の背中に、何か重たいものが伸し掛かってきた。
振り返るとそこには、視界から消えたはずのマオミルが意識を失って、寄りかかっていた。
「マオ、ミル……!?」
「はい。チェックメイト」
「しまっ──」
ガハットが彼女の存在に気を取られた隙に、和希は既に彼の懐に潜り込んでいた。
突き付けられた銃口から、霊力を纏った弾丸が放たれ、ガハットの腹部に大きな穴が開く。
「……ごぽっ」
フラフラとよろめいた後、口から大きな血の塊を吐き出し、ガハットは白目をむいて、その場に倒れた。
静寂を取り戻した路地裏で、灯里と和希はため息をつく。
「……子どもでよかったね」
「ああ。三人が実戦経験を積み続けていた天霊だったら、負けていたのは俺たちだった」
和希は、意識を失った三人に向けて、弾丸を撃ち込む。
すると、不思議な音とともに、三人の傷が直っていく。
「これが天霊都市、か」
「はあ……本当に面倒なことになったね」
灯里は、何度目か分からないため息をつきながら、空を見上げる。
まだ夜には程遠い青空が広がっていた。
「とりあえず、ここから離れるか。夜までどこかに隠れて休んでようぜ」
「うん。これ以上の面倒ごとはお断りだし……」
三人の傷が直ったことを確認した灯里と和希は、何食わぬ顔で、路地裏を後にした。
◇
「──全く。何やってんだか」
二人が立ち去ったあとの路地裏。
その建物の影から、一人の少女が現れる。
螺旋状に渦巻く影を纏うテラリスは、倒れるガハット達を見てため息をつく。
閉ざされた箱庭で、力を振るい続けた自分たち。
広い世界で、多くの困難に打ち勝ち、今日まで生き続けている灯里たち。
正面から戦っても、相手にならないのは分かり切っていた。
それが分かっていて、ガハット達を止めなかったのは、彼らにとっていい機会だと思ったからだ。
自分たちが井の中におり、大海を知らない蛙だということを知るいい機会だと。
「さてと。私たち、これからどうなるんだろ」
外界からの来訪者により、自分たちの運命が大きく変わる予感を感じながら、テラリスはガハット達を影の中に沈め、自分も影の中に消えていった。




