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リバース・ジョーカー  作者: 遥華 彼方
第3章 赤夜の夢と天霊都市
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天霊都市ファムファタル

 それは、職人街の事件が終結し、鳴神璃空(なるかみりく)が意識を失った裏側で起きた話である。

 灯里と和希は、ゾディアック本拠地にて、二人の人物に呼び出されていた。

 二人の前に並ぶのは、ゾディアックのリーダー、七波彩乃(ななみあやの)と、副リーダー、三崎空理(みさきくうり)

 優しい表情を浮かべる彩乃とは対照的に、三崎は苛立ちを露わにしていた。

 それもそのはずだ。

 彼女らは、命令を無視する璃空の手助けをしようとした。

 ゾディアックの秩序を乱す行動を、七波の命令を無視する者を嫌う三崎の機嫌が悪くなるのも無理はない。

 しかし、彼も個人的な感情と、組織の一員としての分別は心得ている。

 深いため息をついて、話を始めた。


 「お前たちに、重要な任務を任せたい」


 「私たちに?」


 三崎の言葉に、灯里は意外そうな顔をしてしまう。

 てっきり、璃空を手助けしようとした件で処罰を受ける、と思っていた灯里は、内心拍子抜けな気持ちでいた。


 「ああ。お前たちが適任だからな」


 「へぇ~。一体、どんな内容なんですか?」


 和希が任務の内容を尋ねると、三崎は部屋を暗くし、壁に一つの画像を映し出した。


 「……これは、街?」


 「そう。どこにでもあるような街。名前は、ファムファタル」


 「ファムファタル……? それ、日本の街なんですか?」


 「ええ。正真正銘、日本の街よ。誰かがふざけてつけたんじゃない?」


 彩乃は、画面を切り替え、地図を表示する。

 確かに、その街は、日本国内に存在しているようだ。


 「それで? この街に行って、私たちは何をすればいいの?」


 「いつも通り、天霊の保護よ。──ただし、今までの任務とは比べ物にならないわ」


 先ほどまでの柔らかな笑みを消した彩乃は、灯里たちを冷たく見据えた。

 その視線は、この先に待つ嫌な展開を、容易に予測させた。


 「この街は、天霊によって創られた、天霊だけが暮らす都市。つまり、保護すべき天霊は、ファムファタルに暮らす人間全てよ」


 「……」


 「……」


 彩乃の告げた言葉に、灯里も和希も言葉を失い、絶句してしまっていた。

 ここまで最悪な展開にならなくても、と灯里はひどく不機嫌そうな顔を浮かべてしまったのだった。



 「うわっ」


 「おっと……大丈夫か?」


 「うん。ちょっと考え事してた」


 ゾディアックの拠点から転移した二人。

 念のため、街から少し離れた場所に飛んだのだが、足元が悪く、入り組んだ道を進んでいた。

 バランスを崩した灯里を、和希が支え、二人は再び、目的地に向かって歩き出した。


 「どうして、天霊しかいない街が、今日まで誰にも気づかれなかったんだろう……」


 歩きながら、灯里は先ほどまで考えていたことを、和希に話す。

 それは、彩乃から話を聞いた時から感じていた疑問だった。

 天霊しかいない街など、Orpheusが放っておかないはずだ。

 だというのに、今日まで誰にもバレずに存在し続けてきた。

 これが意味することは、街の人間たちが強力な結界を使って街を隠蔽している。

 もしくは、内部の人間が街の存在を漏らしたか、である。


 「んー……もし、後者だとしたら、目的が見えないなぁ……」


 「もしかして、罠だったり?」


 「その可能性は、考慮しといた方がいいかも」


 あまりにも不可解な街の存在に、二人は慎重にならざるを得なかった。

 向かう道中で、考えられる可能性は考えておこうと思い、二人は思考しながら歩き続けていた。


 「そういえば……」


 「ん?」


 その最中、何かを思い出したように、和希が口を開いた。


 「街の名前。ファムファタルって言ってただろ?」


 「うん。それが?」


 「ファムファタルの意味、知ってる?」


 急な質問に、灯里は少し考える。

 恐らく、自分が聞いたことがある言葉と発音が違うだけで、意味は同じだろう。


 「……運命の女性、だっけ?」


 ファムファタル。

 つまり、ファム・ファタールとは、運命の女性を意味する言葉である。

 そんな名前が街についていることに、深い意味はないとは思うが、何かしらの意味があるのだろうか。


 「そうそう。まあ、俺が考えてたのは、もう一個の意味だけど」


 しかし、和希が考えていたのは、違うことだった。


 「あー……相手の男性を破滅させる魔性の女性でしょ?」


 ファム・ファタールのもう一つの意味。

 それは、一つ目の意味とは、反対の意味を持っていた。


 「こんな名前の付いている街に、二人で行くのは気が滅入るよな~」


 「はあ……容姿が男になってるだけのやつが、何言ってんの」

 益体もない話をしながら進む二人。

 しかし、そんな二人の眼は、既に臨戦態勢に入っていた。

 目的地が近づくにつれて、大きな霊力を多数感じ取っていた。

 そうして歩いているうちに、入り組んだ道を抜け、二人の眼に巨大な都市が映り込んだ。


 「──ここが、天霊都市ファムファタル」


 「……よし。行こう」


 覚悟を決め、二人は未知なる都市へ、足を踏み入れていった。


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