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リバース・ジョーカー  作者: 遥華 彼方
第3章 赤夜の夢と天霊都市
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赤と黒、二人の少女

 「ふぅ。間一髪だったな」


 「うん。助けてくれてありがと、高坂くん」


 一か月半前。璃空が、幼馴染の唯月花梨(ゆづきかりん)を失った日。

 鳴神姉弟が放った一撃により生まれた空白。

 その一瞬の隙に、高坂和希(こうさかかずき)は、鳴神璃空を含めた数人を連れて、戦場を離脱した。

 唯一、意識を保っていた玖遠灯里(くおんあかり)は、全員が生きていることに安堵しながら、和希にお礼を言う。

 灯里の言葉に微笑みながら、和希は、その辺にあった椅子に腰を下ろした。


 「まあ、契約だからな。これぐらいはしないとな」


 「……契約?」


 和希の言葉に引っ掛かりを覚えながら、灯里は周囲を見渡す。

 部屋の中は薄暗く、隅に置いてあったランタンのか細い光だけが、暗闇を照らしていた。

 灯里も知らないそこは、恐らく和希が利用している隠れ家か何かなのだろうと思った。


 「さて。とりあえず、君の傷は直そうか。話の最中に意識を失われても困るからね」


 「……え?」


 そんなことを考えていた灯里の元に、和希が近づいてくる。

 先ほどのささくれ程度の引っ掛かりが、はっきりとした違和感になって、灯里に襲い掛かる。

 和希の能力は、空間操作。

 傷の治療など出来るはずもなかった。

 だと言うのに、和希は不敵な笑みを浮かべながら、灯里の肩に手を置く。


 「──っ!」


 その瞬間、灯里の視界にノイズが走り、気が付くと、自分の身体にあった傷の全てが治療されていた。

 言葉を失い、絶句する灯里を尻目に、和希は再び椅子に座った。


 「……あなた、一体誰? 高坂くんじゃないんでしょ?」


 「──ふふっ。ふふふ。ははははは!!!」


 灯里の言葉に、和希は笑い始める。

 知らない誰かの声と重なっているような笑い声に、嫌悪感を覚える。


 「では、改めて自己紹介から始めましょうか」


 重なる笑い声は、次第に一つの声へと変化していき、目の前の和希の姿が、黒い靄に包まれていく。

 灯里は、ただ黙って、目の前の暗闇を睨みつけていた。

 すると、先ほどまで和希がいた場所に、黒い靄が集まっていく。

 そして、鈴の音と共に、一人の少女が現れる。


 「──初めまして、玖遠灯里。私は、ブラックアリス。悪名高き天霊よ」


 「ブラック……アリス……!?」


 彼女の一言に、灯里は動揺する。

 この世界で生きているならば、誰もが一度は聞く名前だろう。

 多くの異能者を襲い、能力を奪い去る天霊。

 その彼女が、何故か自分たちのことを助けている現状に理解が追い付かなかった。

 しかし、一つだけ分かっていることは、既に和希の能力は奪われている、ということだった。


 「……一体、何が目的? どうして私たちを助けたの……?」


 「そうね。順を追って話しましょうか」


 不可解な顔をする灯里に対し、ブラックアリスはゆったりと話し始めた。


 「まず、私の当初の目的は、高坂和希の持つ能力だった。そのために、私は高坂和希の命を助け、その代償に彼の能力を奪い取った。あなたたちを助けたのは、その契約の延長よ」


 「じゃあ、高坂くんは生きてる……ってこと?」


 「ええ。私の狂犬が見ててくれてるわ。私が彼として動く以上、彼には眠っててもらった方が都合がいいもの」


 和希の無事を知った灯里は、安堵の表情を浮かべる。

 ゾディアックの大半は信用していないが、和希は信頼している人物の一人だった。

 彼には何度も助けられた恩があり、もし目の前の少女が和希を殺していたなら、ここで会話は終わっていただろう。


 「本当はそこで終わりにしようと思ったのだけど、少し興味が湧いてしまったの。──あなたにね」


 「わ、たしに……?」


 「そう。私と同じで、私とは違うあなたに」


 ブラックアリスの言葉に、今度こそ灯里は、完全に固まってしまう。

 ゾディアックに所属しているとは言え、目立つような行動をした覚えもないし、興味を持たれるようなことをした覚えもない。

 もしかしたら、どこかで一度会っているのだろうか。

 そうだとしても、一体、自分の何が彼女の興味を引いたのか。

 答えはすぐに明らかになった。


 「あなたは、優しい仮面を被ることで、それを誰にも気づかれない奥底に隠している。いつかその相手を見つけた時まで、誰にも見せないようにしている」


 私は隠してないけどね、という彼女の言葉を黙って聞く、灯里の胸中はひどく穏やかではなかった。


 「何を、言って──」


 「玖遠灯里。私は、あなたのその煮えたぎり、今にも爆発しそうな深く暗い憎悪と憤怒に興味を持ったの」


 「──あはは。随分と知ったような口利くじゃん。……あんたに私の何が分かるの」


 ブラックアリスの一言に、灯里は自分の仮面にひびが入ったと感じた。

 自分の奥底を見抜いた彼女への敬意と殺意を織り交ぜ、言葉を発する。


 「あなたの過去なんて知りませんわ。──でも、あなたの抱えている感情は理解できると思いますわ」


 「……はあ。結局、あなたの目的は何なの?」


 いつの間にか、彼女のペースに呑まれていた灯里は、一度深呼吸をする。

 そうして、仮面を被り直し、改めて彼女の目的を問いただす。


 「──交渉ですわ」


 「交渉……?」


 「ええ。私たちは──」


 ブラックアリスの目的を聞いた灯里は、静かに目を閉じる。


 「どう? 私たちとあなた。上手くやれると思うのだけれど」


 「……」


 灯里は、暗く閉ざされた視界の中で思考する。

 自分とブラックアリスの目的と利害は一致しており、彼女と手を組む方が、より早く目的を達成できる可能性がある。

 それに、どうしてか、ゾディアックを信用するより、彼女の方が信頼できる気がした。


 「……分かった。手を組んであげる。──ただし、条件がある」


 「何かしら?」


 灯里は、彼女と手を組む条件に、あることを要求した。

 意地の悪い笑みを浮かべながら口を開いた灯里に、ブラックアリスは意外そうな顔をしながら彼女の要求に答えた。



 「──おい、灯里」


 「……ん」


 まどろみの中で夢を見ていた灯里は、和希に肩を揺らされ、目を覚ます。


 「……ごめん、寝てた」


 「ふふっ。気持ちよさそうに寝てたね」


 寝顔を見られたことを恥ずかしく思いながら、目をこすり、頬を叩いて、眠気を追い出す。


 「もう出発?」


 「ああ。さっさと終わらせた方がいいと思ってね。どうも、今回の任務は嫌な予感がする」


 準備をする灯里に背を向け、和希は任務の内容を確認する。

 いつの間にか準備を終えた灯里も、後ろから端末を覗き込んでいた。


 「……行こ。私たちは、こんな所で立ち止まらない。そうでしょ?」


 「──そうだね」


 灯里の言葉に、和希は立ち上がり、二人は拠点から姿を消した。


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